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どうしよう!と私は慌てるばかりなの

 朝食はイモーテルとヤスミンによる野菜スープと、ヤスミンが朝駆けの時にヨタカ亭で受け取ってきたらしき焼き立てのフワフワパンだった。


 まあ!あそこはパンも焼けたのね!


 そして朝食の席は私とユベール、アランとイモーテルが会話する事になったからか、とても平和で理想的な社交の場として終わった。


 つまり、これからはお友達として気さくに語り合える仲になりましたよね、そういう当たり障りは無いが、今後の交際はお断りしますとは言えない状況に私とイモーテルはされたというわけだ。


 イモーテルはあからさまにユベールを避けるわけにはいかず、私は私に恋を語る勢い?のアランに、家に帰りなさい、と言えなくなったという事だ。


 私とイモーテルの尊敬を集めていたはずのヤスミンが、私とイモーテルから裏切り者と認定されたのは当たり前だ。


「お嬢さんたちの旅路にアランやユベールが警護についてくれるなら、安全無事に何の問題も無しにラブレー伯爵領に送り届けられる事でしょう。」


「その通りですよ、デジール。」


「警護のお役目とは光栄です。私は誠心誠意尽くしましょうとも。」


 私は男達の三文芝居なセリフの掛け合いを見せつけられた事で、昨夜にヤスミンが相談したかった事がこれなのだと理解した。

 確かに、相談されれば嫌だと一蹴していただろう。

 私はアランとの未来は申し訳ないが望んでいないのだ。


「ヤスミン様も男だった事を忘れていたよ。俺に任せろって、男の立場で、何じゃないか。頭にくる!」


「ええ、その通りよ。私達は女の立場で抵抗しましょう。」


 私とイモーテルは朝食が終われば男達への挨拶は早々に、気軽な服に着替えるためにと部屋に駆け戻った。

 ええ!私は茶色のお洋服に着替えましたわよ!

 そして着換え終わった私達は台所で落ち合うと、ヤスミンが作り上げた事態への怒りを込めて朝食の席で使用した皿や鍋を洗い、それが終わるや手に手を取ってクラルティのミネルパの店に働きに行ったのである。


「あの怖い女の人ね。」


「優しいわよ。でもヤスミンを叱ることが出来る人なの。」


「わお!なんて頼もしいんだ!」


「お二方?視野が狭くなっておりますわよ?ヤスミン様がユベール様とアラン様のお友達という事実を作って下さったお陰で、この町にあの二人が集った理由をあなた方から遠ざけて下さった。あなた方は最初からラブレー伯爵家にご厄介になっていたという体面が作れますのよ。感謝しこそすれ批判などしてはいけません。ああ、亡くなられた侯爵様のお噂は素晴らしいものでしたけれど、ヤスミン様はそのお父上様に引けを取らない素晴らしい方でいらっしゃいますことよ。」


 まあ!

 彼をジャッカルだと言って私から追い払うつもりではなかったのですの!


 私達の安全のために私達の後をついて来てくれたアンナであるが、いつのまにやらヤスミンに丸めこまれていたのでアンナにこそ要注意だ。

 そうして私達は私達の助けになりそうな方の建物の扉を開けたのだが、黒に近い色合いをした細身のドレスを着た美しきミネルパは、私達の到来に片眉を上げて見せた。


「あんたね、私の店を保育所かなんかだと思っているね?」


 私達を出迎えたミネルパの第一声だ。

 保育所なんて例えは酷い。

 私が今までも役に立っていなかった、という意味に近いじゃありませんか!


「いつものお手伝いですわ!」


「そこのお嬢さんは貴婦人教育をあんたにされる予定じゃ無いのか?お仕事に連れて来てどうしようってんだい?」


「あ、そうね。でも私達はお友達になりましたの。ですからいつも一緒なの。私は普通に労働者階級の人になりましたが、淑女勉強中のイモーテル様には、ええと、高貴なお嬢様が訳あって売り子をしているという煽情小説の主人公を演じていただきましょう。よろしくて?イモーテル様?」


「よ、よろしくてよ!ただし、お友達とおっしゃるなら、わた、わたしの名前も呼び捨てで良くってよ。マルファ様。」


「まあ!素敵。お互いにお名前だけで呼び合いましょうね。イモーテル。」


「ええ、素敵だわ。マルファ。」


 私達は両手をぱちんと打ち合い、ミネルパは私達の様子にヒヨコが増えたと言って嘆き声を上げて、とっても嫌そうな顔をして見せた。


「あの馬鹿は!あ、犬まであたしに押し付ける気か!」


 私とイモーテルは舌打ちをしたミネルパが見つめる方角を見返し、ヤスミンがジョゼを放ち、ガラス越しの私達に向かって手を振っている姿を見る事になった。


 ミネルパは溜息を吐き、ジョゼの為にガラスドアを開けた。

 ヤスミンは自分の愛犬がミネルパの店に収容されるところを見届けると、鼻歌を歌っているように見える朗らかな雰囲気で立ち去って行った。


「あいつ、本当にろくでなしなんだな。」


「ええ、ろくでなしなの。」


「でも、惚れてん、だよね?」


「ええ。」


「あ、あなたも、ええとしちゃったのか?」


 何を?とイモーテルに聞き返そうと横にいる彼女を見返せば、まあ!アンナとミネルパまでも耳をそばだてているではないか!

 いえ、アンナは耳をそばだてているだけじゃない。


 アンナは鬼気迫る顔で私に迫ってきた!


「何かされたのですか?お嬢様は!しちゃっていたんですか!もしかしたら!」


「ちょいお待ち。一昨日も言ったがそれはないよ。」


 アンナの肩にミネルパは手を置いてアンナの追求から私を守ってくれたが、ミネルパこそ私に対して身を乗り出した。


「手は出していないと思うけど、ここまでヤスミンにぞっこんだとねえ。あんた、ヤスミンにキスぐらいはされたのかい?」


 私はキスという単語にハッとなって、無意識に自分の額に手を当てた。


「何だい、それは?」


「き、気絶しては駄目よ!マルファ!」


「気絶するって事は!されていたのですか!お嬢様は!」


「あ、いえ。されていないわ。何にもヤスミンにはされていない!額にキスしてくれただけよ!」


「額のキスだけで?あいつはそこまで魔物じゃないぞ!それだけで惚れちゃうなんて、お前はヒヨコなんだねえ。」


 ミネルパ!

 しみじみって言う風に言わないで!


「額のキスなんて、犬猫とか赤ちゃんにも普通にするキスじゃないの!」


 そんな!イモーテルまでそんな呆れ声で!

 額のキスだけで喜ぶ私がおかしいというの?


「アランと本当のキスをしちゃったら、あんたはアランを違う様に見る事が出来るんじゃないのか?あたしがユベールが特別でしょうがないみたいにさ。」


「イモーテル。本当のキスって唇と唇のってこと?」


 イモーテルは意地悪そうに笑った。


「あんたはヤスミンの舌と自分の舌をくっつける事ができるのかな?」


「ええ!」


「キスだったら唇だろうに!度胸が無いなら男を揶揄う事をするんじゃ無いって言っているんだ。」


 ヤスミンの昨日の台詞が思い出された!

 キスするなら、唇に?舌と舌?


「きゃあ!そんな!」


 ああでも、イモーテルみたいにそんなキスが出来れば、私をアランに押し付けようとするのでは無く、ユベールがイモーテルを追いかけてくれるように私を追いかけてくれるのかしら?


 でもでも、ヤスミンのルールは!


 ヤスミン様は自分のベッドに連れて行く気が無い女性には誠実である。


 ああ、そうだった。

 キスはベッドでするものじゃないわ!

 だったら、大丈夫なんじゃ無いかしら?


 そうよ、私は無理矢理にでも巣立ちをさせられようとしているのだから、私は度胸を付けてヤスミンにキスしてみるべきなのよ!

 あの言葉って、彼も私とキスしたいから、でしょう?


 私はイモーテルに腕を掛けると、イモーテルをお店の端っこ、アンナとミネルパが聞き耳を立てられない場所にまで引っ張った。


「ど、どうしたの?マルファ?」


「イモーテル。そ、そういうキスをユベールとしちゃった時、ど、どんな風にそういう流れになっちゃったの?いいえ、どういう流れだったの?」


 ああ!私ったら何を聞こうとしているのよ!

 当り前だが、イモーテルは私に呆れた顔をして見せた

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