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伯爵令嬢と育てられましたが、実は普通の家の娘でしたので地道に生きます  作者: 蔵前
第二章 あなたとの同居は

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クラルティ防衛線?となりたい男であるからして

 私をのけ者にした町議会は、私が積極的に聞き耳を立ててしまう程に、物騒な物言いが女性達からヤスミンへと提案されていくというものだった。


 盗み聞きを嬉々として行っているなんて、貴婦人を自負しているというのに、私はなんとはしたない事でしょう。


 でも、交代制でどこそこの窓辺に見張りを貼り付けたいから、ライフルを手に入れてちょうだいな、とか、平気で言っちゃえる方々なのよ。

 ヤスミンに守られる事を全く考えずに、自分達で自分を守ろうとしている女性達に対し、ただただ凄いと私は感嘆していたのだ。


「ライフルが貰えりゃ何とかなるよ。だからね、ヤスミンは首都に帰りな。」


 まるで弟に言い聞かせるようにしてヤスミンに言い募ったのは、背が高くて筋肉質な体に金髪碧眼という北欧の女性戦士を彷彿させる、ヨタカ亭の主人である美しきクロエであった。

 しかし、ヤスミンは鼻でふっと笑い、いつもの軽い口調で言い返した。


「嫌だ、つってんだろうが。クロエ。いや、ミネルパも。俺は首都が嫌だからここに戻ってきただけだって何度も言ってんだろ?あんたらさ、俺を匿ってあげようとか労わってあげようとか、そういう思考は無いのかな?」


「あんたを自分の部屋に閉じ込めたい嗜好は無いね。我儘で煩そうだもの。」


 ミネルパの言葉に、そのテーブルに座る五人の女性は一斉に笑い出し、ヤスミンは不貞腐れた様な顔をつくった。

 大の男を子供扱いって、素晴らしい人達だわ。

 ラブレー伯爵夫人や社交界のご意見番のコンラッド伯爵夫人みたい。


「いいからさ、ヤスミンは首都に帰んなさい。あたしらだけで充分にここは守って見せるよ。ガルーシをあたしらだけで追い払えなければ、あんたが不在の時を狙って他の男達が一斉に攻めてくる。そうだろ?」


 あ、ヤスミンが先ほど手を握っていた三十代ぐらいの黒髪の美女こそ、ヤスミン不要説を唱えたじゃないですか!


「俺はここに骨を埋める気なんだけどな。」


 まあ!

 五人の女性達が一斉に、あっちに行け、という手のジェスチャーをして見せた。


「ああ!もう!俺が男だからって仲間外れにしやがって。話合いって俺から情報抜いたくせに、後は俺なんか不要ってなんだよ!」


「何言ってんだい?銃を流して貰うにはあんたが必要だろ?」


「そうよね。私達は裏から手を切ったからこそ、闇市に手を出せないものねえ。」


 赤毛の人、帽子屋の店主で私にポーラと名乗った人の言葉に対し、その隣の薄茶色の髪が綺麗な人が上品そうに相槌を打った。


「嘘つけ、ユーリア。お前んとこの媚薬は俺こそ怖くてどこから手に入れたのか聞けないブツじゃねえかよ。」


「うふっふ。いやだああ。私が調合してんだからわかんなくて当たり前よ?弾に込める火薬の量だって、私がいれば間違えっこないわよ?」


「俺はお前らに銃なんか持たせたくないんだよ!」


「最初に弾を撃ち込まれそうだもんねぇ。」


 ヤスミンにユーリアと呼ばれた女性の返しに、他の女性達が笑い声をあげた。

 そこでヤスミンは席を立ちあがり、私においでという風に手を動かした。


 私は犬では無くってよ?


 座ったままでいると、同じテーブルの女性達に怒っていたはずの彼は吹き出して、私のテーブルにまでやってきた。


「では、席をお立ちいただきましょうか?貴婦人様?」


「貴婦人では無くてよ?ただの人ですわ。それでも、指先の動きだけで馳せつける犬と同等と思われたくはありません。」


「ハハハ、いいな。俺はそういう気位が高いのは好きだよ。」


「わかってくださって嬉しいわ!」


 私はヤスミンが椅子を引く前に自分一人で立ち上がるという、自分の言った言葉、ただの一人の人間として行動して見せた。


「わお!俺のエスコートを待っていると思ったよ。」


「クラルティの方々はご自分だけで行動されるわ。」


 私がヤスミンに答えると、ヤスミンがいたテーブルの女性達は一斉に笑みを顔に作って私にその顔を向けてくれた。

 もちろん、私を見下ろすヤスミンこそ満面の笑みである。

 ただし、作ったような?


「偉いなあ。じゃあ俺達は帰ろうか。」


「お話は?」


「決裂だよ!」


 ヤスミンは言うや身を翻し、私にまでも背中を向けた。

 町に出て来た時と違って私に腕を差し出すことも無く、さっさと前に一歩を踏み出してしまったのである。


「まあ!腕は差し出していただけませんの?」


「独り立ちしたい君の意思を尊重するよ。」


「まああ!」


 ヤスミンは右足を引きずりながらどんどんと先を行ってしまい、私は彼の後を早足で追いかけるしかなかった。

 けれど、食堂を出る寸前、ヤスミンの後姿を見つめながら追いかけているうちに、彼が右足をケガして引き摺っているという事実が急に気になったのだ。


 軍で足をケガした兵隊は、戦地ではいらないものになるのでは無いの?


 今までは何度も退役しても、その退役した度に軍に呼び戻されていたと、あの給仕の女の子は私に教えてくれたのでは無かったかしら。


 では今回の退役は?

 今回に限り大きな時計を陸軍の偉い人から贈られたのは、それは二度と呼び戻すことが無いからという理由の餞別では無くて?


「ま、まあ!」


 彼がこの町を守りたいと拘るのは、家名も何も無くなった私が自分に教養があるという思いにしがみ付くのと同じ、彼が彼でいるための行為だとしたら?


 私は淑女の振る舞いを捨てた。

 子供みたいに走ってヤスミンに追いつき、そこでヤスミンの左腕にしがみ付いて見せたのである。


「わあ!急に!」


「エスコートは不要ですが、あなたに守って頂くのは必要です。守って下さるという約束でしょう!またあのガルーシが現れたら、私にはやっつけられませんもの。あなたから離れる事は出来ません。」


 ヤスミンは一瞬目を丸くした後、何かを企んだような煌きを瞳に浮かべた。

 それから私に言い返すようにだったが、食堂のクラルティ町会議員達にしっかり聞こえる音量で彼の思いを吐露したのである。


「足が悪くなった途端に役立たず扱いしかされない俺だよ?君はそれでも頼ってくれるんだ?」


 私は大きく頷いた。


 だって、この町の人達の気持だってもわかりますもの。

 自分達を守ったためにヤスミンが大怪我したり死んじゃったりしたら嫌だ、そういう気持ちがあるからこそ、彼女達はヤスミンを首都に返したいのよね?


 でも、彼こそ彼女達を守りたいのよ!


「もちろんですわ。それに今日は帽子屋の前で囲まれた時、一瞬で二人もの男達を倒されたでは無いですか!」


「はっ!」


 ミネルパが小馬鹿にしたような笑い声を上げ、私達がミネルパに振り返ると、彼女はテーブルをピシャリと叩いて見せた。


「守らせてやるよ。そのための話をもう少し続けよう。だけどね、あんたが関わるとまた町を燃やされそうで怖いんだよ。」


 ヤスミンはにやっと笑った。

 そして右手を胸に当てて誓いをするような素振りをしながら、今回は無茶しない、と言ってみせたのである。


「俺は今んとこ文無しなんでね。」

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