クラルティ商店街に私が連れて来られた理由
2024/2/11誤字脱字報告ありがとうございます。
文章を直したものではなく、この単語はこういうものだ、という自分で見直して自分で文章を手直しできる指摘の仕方をしてくださったこと感謝いたします。体たらく、考えさせられました。
昨日の絶望感の中でも活気溢れる町として私の目に映った町は、希望溢れる今日の私の目を通せば、さらにキラキラして夢が溢れる町みたいに見えた。
街並みが綺麗なのは、どの建物も新しくしたばかりに見えるからだろうか。
それでも新しい建物だとわかるのに石造りやタイルづくりで、そこに家人の好きな色に塗られた小さな扉や窓があるという可愛らしい外見だ。
赤茶色の煉瓦の壁に小さな水色の玄関扉があって、扉のすぐ横に緑色の蔦が這わされている家なんて、扉を開けたら洋服を着たうさぎや鼠が出てきそうじゃないですか!
「なんて可愛い街なんでしょう。」
「五年前に大火があった割には、かなり復興しているだろ?」
「そ、それで綺麗な街なんですね。」
「街を立ち上げ直した奴らが綺麗な心を持っているからな。」
「まあ!素敵な考え方ね!」
「全く、皮肉ばかりの俺の毒気を抜くな、君は。では、天使のような君。まずは、郵便局にお連れする栄光をお許しいただけますか?」
「まあ!ヤスミンたら。」
ヤスミンは言葉通りに私を郵便局に連れて行ってくれたので、私はアンナへの手紙を出す事が出来た。
それからヤスミンにクラルティの商店街の方に連れていかれたのだが、商店街に入る路地に足を一歩踏み入れたそこで、再び私はこのクラルティという町に驚かされていた。
クラルティの商店街が風雨にさらされる事など無い、と。
だって、温室みたいなガラスの屋根付きの商店街なのだ、ここは。
「まあ!商店街の建物は最新の異国風のものなのね!お店の連なりにガラスの屋根がついているなんて初めてよ!雨の日でも傘を持たないでお買い物を楽しむことが出来そうね。」
「そう。街を新しくするんならってね、イメージを統一した町づくりをしてみたんだ。せっかくだからさ、商店街はパッサージュ?異国のそれを真似てみた。首都に向かう人間が通り過ぎる町だろ?通り過ぎずに逗留させて金を落とさせればいいかなって、俺は思うんだよ。」
まるで領主が自分の土地の開発について語るようだとヤスミンを見上げると、彼はニヤリと微笑んで私に左腕を差し出した。
ただし、笑みを作ったと表現できるのは、小汚い髭で煤けた口元だけ。
前髪を上げた素顔でこの笑みが見たかったなんて思ってしまった。
「こういうのはどうだろう?どこぞのお館勤めの下男と下女の息抜きのお遊びお出掛けというのは?」
「素敵ね。」
私はヤスミンの腕に自分の腕を絡めた。
服越しでもヤスミンの腕はしっかりとしているのが分かり、昨日の裸の体を思い出してしまった。
「お前は意外と胸があるな。って、痛い!」
淑女は失礼な男の足を踏むものだ。
しかし、足を踏まれた男は痛みの悲鳴は上げたが、その後は嬉しそうにワハハと笑いながら私を引き摺る勢いで歩き出すじゃないか。
「きゃあ!」
振り回された格好になった私は、ヤスミンの腕にさらにしがみ付いた。
「ハハハ、仕返しだ。さあ、凶暴な女の子は最初にどの店に連れていくものかな。マルファはどこに行きたい?ハンカチ洗いが大好きな君の為に、ハンカチ屋に行ってみようか?」
私の行きたいところに連れて行ってくれるというの?
なんて優しい人だと笑みを返したら、ヤスミンは危険だ、と呟いた。
「どうなさったの?」
「なんだか俺はどんどんと間抜けになっていってる気がするよ。ヒヨコの無邪気パワーに汚染されてしまうのかな?」
「ま、まあ!失礼ね!」
「ハハハ、怒りんぼ。ほら、行きたい場所を言ってごらん?欲しいものでもいいよ。言い難かったら、それに近いものを適当に言えばいい。」
「あら?いいのよ?今日はデジレー家の日用品の買い物でしょう?」
あら、ヤスミンが下唇を噛んだ?
それから言い難そうに?口を開いたわ!
「これから居候をする人間の必要品の買い物だよ。着替えしか持ってきていない君の荷物を見たからね、女を知っている俺は買い足す緊急性を感じたんだよ。」
「え?」
何のことだとヤスミンを窺ったが、ヤスミンは舌打ちをしたうえで自分の目元を右手で隠した。
「気付いてもいない!まるっきりの箱入りだったか!どうしたものかな。」
「何がどうかなさったの?」
「いや。月のもの用のものを持ってきていなかっただろ?」
「ま、まあ!まああ!」
私は恥ずかしさで顔を両手で隠すしかない。
確かに!
まだまだ次までの猶予はあるが、そう言えば、女の子だったら絶対に必要なものだったのに、私こそすっかり忘れていた!
女性のドレスはとてもかさばる。
下着は洗えないことも考えて一週間分。
着換えのドレスはせめて三着は必要だからと、あの二着を鞄に入れるのに折って巻いてと、とてもとてもみんなで頑張ったのである。
そうして私達は、絶対に持ってくるべきものを鞄に詰める事を忘れていた!
そこを男であるヤスミンに指摘されるなんて!
「恥ずかしい!ああ、男の人に教えられて初めて気が付くなんて!」
「悪いねえ。それなりに命を狙われていた事もあるとね、女性の持ち物に詳しくなるものなのさ。で、どうしようか。雑貨屋にまず入って、そこの女将と相談でもするか?」
「ええ、ええ。おっしゃる通りにいたしますわ。」
「やばい。」
やばい?
何か危険ごと?
私は顔から手を外してヤスミンを見上げると、ヤスミンは妙ににやけた顔つきで私を見下ろしているじゃないか。
「どうかなさったの?」
「いや。素直すぎるマルファが可愛いなってさ。いいな。君は恥ずかしいとそうなっちゃうんだ?」
「ま、まああああ!あなたはその嫌らしい性格を少しどうにかなさった方がよろしくてよ?」
「ハハハ。いや、この元気な所の方が良いか。さあ、では案内しましょうか。クラルティ商店街の名物鬼婆がいるお店、ブルーノ雑貨店へ。」
ヤスミンは左腕にぶら下がっている私を振り回すようにして引っ張り、ブルーノという名の雑貨店目指して歩き出した。
「鬼婆なんてひどい事を言うのね。」
「鬼婆以外の何者でも無いからな。気を付けろよ?」
ブルーノ雑貨店は壁は青く塗られ、ガラスの嵌った入り口扉の枠は真っ黒に塗られているという外見だった。
ヤスミンは入り口の扉を乱暴に開けた。
扉に付けられた鐘がカランと鳴り、店内からは舌打ちの音が聞こえた。
「うちはあんたに売るようなものは無いよ。」
ヤスミンと私の前に出現したのは、真っ青なアイシャドーで瞼を青く塗り、綺麗な黒髪だっただろう髪を銀色に輝かせているという、私の祖母ぐらいの年代の綺麗な女性だった。
そして彼女に罵られた男は、当たり間の様にして右手で自分の煩い前髪を後ろに撫でつけ、罵ったばかりの老女に対し、誰もが溜息を吐き出すような微笑みを見せつけたのである。
ヤスミンの瞳は茶色いが、それは誰をも魅惑するチョコレート色だ。
チョコレートの誘惑に勝てる人なんかいるはずないわよね?
お読みいただきありがとうございます。
クラルティの町の描写を入れたので、今日の分はちょっと長くて申し訳ありません。




