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加減を知らない人達4

 綾がレナードらと過ごしてキッチリ三日後、約束通りクリストフが綾を迎えに来た。側にチェスターもいることから、今後商売の話になる事が予想される。

 真珠の育成実験は現在二回目が終わったところで、クリストフ達が来たのは綾達がせっせと真珠を検品している最中だった。


「クロードが来たがっていたが、合同演習に向けての訓練があるから、諦めたようだ。今頃、メルヴィルに扱かれているだろう」

 メルヴィルが誰か分からなかった綾だが、クロードは大変そうだなと苦笑した。それより聞きなれない単語に、綾は首を傾げる。

「合同演習?って、どのようなものですか?」

「合同演習とは、五大地方と中央の騎士団が合同で演習を行う、訓練のことだ。他の地方との連携強化や交流の為に行われている。今年はウラール地方での開催だから、綾も見に行くと良い。模擬試合の席を用意してやろう!」

 綾が見に行けば、クロードも張り合いが出るだろう!と嬉しそうにクリストフは言う。自分が見るだけで、クロードが張り切るとは思えない綾だったが、模擬試合は見に行きたいので、笑って頷いた。

「各地方の精鋭達による、勝ち抜き形式での模擬試合は、一般市民の観覧席が設けられていて見どころとなっているのです。お祭りのように屋台も出ますし、大道芸人達も来ますから、楽しいですよ」

 チェスターが補足するように、綾に教えてくれる。

「え、凄いですね!楽しみです!」

 綾は瞳を輝かせて、クリストフとチェスターに笑いかけた。

 ついでにお弁当の手配はどのくらい必要かと、顎に手を当てて当日の商売の事を考えているチェスターはさすが商売人である。ここに来たのは、魚の確保をする為もあるのだと綾に話すチェスターは行動に抜かり無い。



 採れた真珠の出来は上々。なんと7割が最優良真珠と、優良真珠という成果だ。ただ、回復魔法を使ったことや、短期間に生育促進魔法を使って育てた影響だろうというレナードの見方は冷静で、これを今後も続けるわけにはいかないとのこと。今後はもっと割合は減るだろうが、優良真珠の確率を上げる為に研究は続けるとレナードは笑顔で話した。

 普通養殖真珠は秋から冬にかけて海の中で生育するものだから、今後はそのサイクルで動く予定だと言う。

「この形の悪い不良真珠の中にも加工の仕方によっては、製品になり得る可能性もあるので、その可能性も探って行きたいですね」

 チェスターの言葉に、綾は頷く。真円では無い真珠も、味があって可愛いと思っていた綾は、その意見に賛成だった。自然に生み出された形というのは、それだけで魅力がある。

 一応、天然真珠を扱う商会への根回しを助言した綾だが、それくらいのことはチェスターは些事だと笑う。

「どうやって販売しましょうか?久しぶりに、腕がなります!!」

 チェスターの黒い笑顔が、舌なめずりした肉食獣のそれに見えるのは、綾の目の錯覚だろうか…?殴り込みに行くような雰囲気を感じるのも、綾の気のせいだろうか…?…私に出来ることは、何も無いもん…ね?綾は考えるのを放棄した。


 大丈夫だと半ば無理矢理自分に言い聞かせ、検品作業を再開した綾だったが、ソフィアとシリウスが徐に話し出す。

「お兄様、どの程度お土産に持って帰るおつもりです?」

 ソフィアは、シリウスの袖を引いて首を傾げる。大きな子供が三人もいるとは思えない程の可愛らしさだが、兄がいるから仕草が前に見た時よりも子供っぽく見えてしまうのだろうかと綾はぼんやり考えた。

「妻だろ、母上と、息子達の婚約者と…エヴァンシー夫人にも無いと殺されるし…最低十人分だな!」

 サラッと物騒な台詞を吐きながら、シリウスが指折り数える。綾の中にある帝国の女性のイメージが、…ちょっと、いや凄く変わってしまいそうだ。

「…ネックレスにするなら、結構な量が要りますわね…」

 ソフィアが検品済みの真珠を眺めて、眉間に皺を寄せた。

「出来たら、イヤリングとセットで欲しい」

 シリウスはブレない。…命かかってるんだもんね。

「伯父上…採れた真珠の半分ぐらい無くなりますよ…」

 呆れた顔でレナードがシリウスを見つめるが、シリウスは一番働いたのは自分だから!と胸を張る。

「困ります!これから根回しの為に、結構な量必要ですのに!」

 チェスターがこれからのバドレーの産業となる、養殖真珠の未来への展望を訥々と語ると、バツが悪そうな表情のシリウスが視線を泳がせた。

「あとどれくらい必要なのだ?」

 溜息を吐いて、シリウスはチェスターに向き合う。

「レナード様、海の魔素に影響が出ない、成長促進魔法の使用回数はいかほどですか?」

 チェスターくるりと振り向き、レナードに確認する。

「う〜ん、このペースだと、あと五、六回かなぁ」

「ではその回数、キッチリ働いて下さいませ!皇帝陛下!」

 笑顔で言い切ったチェスターに、綾は歴戦の戦士を彷彿とさせるような貫禄を感じた。

「…分かった」

 シリウスは頷く。クリストフもソフィアもレナードも止めないのだから、きっと大丈夫なのだろう、多分。

 …伝説の商売人チェスターは、皇帝陛下すらこき使うのだと、恐れ慄いた綾だった。

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