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ロスウェルの嘆き2

「爵位なんてのは鎖の付いた、首輪みたいなものだ。国にとって有益なものを縛り付けるためのな」

 クロードは自らの首に嵌められた『爵位』を、当たり前の様に淡々と話す。クロードの表情から、それに対する嫌悪感は無いものの、かと言って望んでいる風にも見えない。

 だからこそ、異世界人には爵位が与えられるのだ。国から逃げられない様に…。恐らく綾が恐れているのは、そういう息苦しい未来なのだろう。

「国に飼われている者が貴族であって、進んでなりたいとは思わないが、ロスウェルはどう思う?」

 同じ『貴族』という括りでも、クロードの立場は、ロスウェルのものとは違う。爵位持ちとそうで無いのは、雲泥の差があると言っていい。縛りがキツくなるのは、断然爵位持ち、特に領地を持っている者の方だった。ロスウェルは生まれこそバドレー家の分家であるものの、次男であり一代限りの騎士爵など、最下位位である。

「…父上が侯爵位を、弟のクリストフ様に押し付けた理由は、理解出来ているつもりです」

 ロスウェルの父、メルヴィルはそういう人間だ。魔物討伐や歴史の研究で成果を上げ、別の爵位を用意されたが断っている変わり者である。長い間ウラール地方騎士団の団長を務め上げた、文武両道の猛者でもあった。

「メルヴィル様は、縛られる事が我慢出来ない性質だから。今は歴史の研究ばかりしておられるのだったか?」

 ガーランドはロスウェルに問う。

「歴史の不都合な真実を暴くのが、快感で病みつきになるそうですよ…」

「あの方は…」

 ロスウェルの肯定に、ガーランドは溜息を吐く。長い間副団長としてメルヴィルの側にいたガーランドは、誰よりも父の性質を理解している。一筋縄ではいかない、それがロスウェルの父メルヴィルだった。


「アヤは魔力が多いし、庇護無くしては生きていけない。殆ど魔法も使えず身を守る術も持たない彼女が、街に放り出されたらすぐに攫われてしまう。利用されて終わりだ」

「そんなに多いのですか?」

 ロスウェルは魔力量を感じる事が出来ないので、クロードに問うた。たまに魔力量を感じる事ができる人間はいるものの、多くはない。ただ調べようと思えば、魔術具で簡単に調べることが出来るのも知っている。

「公爵令嬢並の魔力量だから、隠しておく事は難しい。時間が経てば経つほど、アヤが平民として生きていくのは、難しいだろう。彼女が爵位を得る形ではなく、王家も無視出来ないような、影響力のある家との養子縁組が望ましいと思う。直接的に命じられない立場なら、逃げ道がある。もちろん、アヤの立場を慮ってくれる者である事が絶対条件だが…」

「王家に隠しつつ、公爵家程の影響力のある家との養子縁組?無茶では?」

「無茶なのは承知の上だ」

 ガーランドの冷静な指摘にも、クロードは動じなかった。

「養子は、バドレー侯爵家では駄目なのですか?」

 ロスウェルはおずおずと提案する。それが最良に思えたからだ。

「…駄目ではないが、他家の方が望ましい」

 そう言ってクロードはアクアマリンの瞳を伏せた。

 それは、クロードが綾の事を結婚相手として意識しているという意味ではないのか?とロスウェルは考えたが、口には出さずにおいた。



 少し紅茶を味わう余裕が出てきたロスウェルは、カップに口を付けた。少し冷めてはいるものの、アルフィの淹れたお茶はいつも美味しい。ほっとしたのも束の間、クロードがじっとロスウェルを見ているのに気づいた。何か言いたいことでもあるのかと、ロスウェルは内心首を傾げる。

「ロスウェル、アヤと接触したのは、何故だ?もしかして、気になっているのか?それは好意を持っているという事か?」

 クロードの表情は普段と変わりないが、目が笑っていない。警戒しているのが、明らかだった。ロスウェルは、綾の様子から思っていた状態とは違って安堵したはずなのに、これはある意味非常事態である。結婚相手として意識しているレベルを超えて、明らかにクロードは綾に執着している。

「気にしていたって、ち、違うぞ!?そっちの意味じゃない!!」

 カップをソーサーに戻し、慌ててロスウェルは否定した。焦りから言葉遣いが、取り繕えない。

「…そうか」

 明らかにほっとしている様子のクロードが珍しく、普段とは別人の様だとロスウェルは思う。遅咲きの恋ほど、拗らせやすいと言うが…。え、まさか、本当に!?あの、クロードが!?


「…おい!アレは誰だ!?」

 ロスウェルは、現実逃避気味にアルフィに問いかける。

「貴方の従兄弟で、バドレー領の領主ですよ。少々浮かれ気味ではありますが」

 現実を突き付けるアルフィの言葉が、嘘ならいいのに…なんてまたしてもロスウェルは現実逃避を考えた。

「暴走したら甚大な被害をもたらすと判断致しましたので、私がパメラ様にご相談致しました」

 アルフィの意外な言葉に、ロスウェルはギョッとする。

「母上に?」

「ええ、それなら早々に巻き込んでしまった方が良いと、パメラ様が」

 アルフィは、にっこりといい笑顔だ。この腹黒が!!とロスウェルは心の中で罵った。

「お前の陰謀だろう!?それとも何か?俺は親に売られたのか!?」

「おや、人聞の悪い。パメラ様を悪く言うなんて、ご本人がお聞きになったら悲しまれますよ?ロスウェル様を信頼しての人選ではないですか。それに、メイナード様からも頼まれていたでしょう?クロード様の事をよろしく頼むと」

「…いや、確かに頼まれたが、それは騎士団の事であって、それにはこんな事まで含まれていないはずだ!」

 え、そこまで含まれてたのかな?途端にロスウェルは不安になる。メイナードは、俺の代わりに弟のクロードを頼む、助けてやってくれと確かに言った。言われたけどさ!

「ほんの少し、範囲が広がっただけでしょう?」

 ほんの少し、だとぉ!?アルフィの言葉にロスウェルは、じわじわと自分が追い詰められている気がした。

 クロードの片思いを応援するのは構わないが、相手は異世界人である。明らかにクロードに対して特別な感情のない綾と、彼女に執着を見せるクロード、どう転ぶかもハッキリ言って読めない。これは無理難題を突き付けられているに、等しいのではないだろうか?とロスウェルは思った。

「ほら、ロスウェル様は数々の女性と浮名を流していらっしゃいますし。私はほら、妻一筋ですから」

 アルフィは管轄外とばかりに、線を引く。協力ぐらいはしてくれるかも知れないが、過剰な期待は持てないだろう。

「あー…それなら、私も妻一筋ですから、お力にはなれませんね」

 残念ですと良い笑顔でガーランドとアルフィが微笑みあっているが、腹黒同士結託してロスウェルを追い詰めているだけである。退路を経たれ、二人が優雅にカップを傾けている姿に、文句を言う事も出来ず苛立つ。


 ロスウェルは言いたいことを飲み込み、ため息を一つ溢す。

 仕方ない。協力はするが、結果はクロード次第である。駄目だったとしても、ロスウェルの責任はそこまで重くないはずだ。

 気を取り直し、現在の進捗状況を聞くことにしたのだが、アルフィが語るクロードの駄目っぷりに、ロスウェルは空いた口が塞がらなかった。ガーランドも驚いてはいるのだろうが、空気を読んで黙ったままである。彼の頬が引き攣っていたのは、見なかったことにしよう。

 『粘着質の残念領主』と言ったのはエメリックだったか…。その通りじゃないか!この状態からの持ち直しは可能なのか不安になるロスウェルだったが、実質退路は断たれているので向き合うしか道はない。


「現在、被害者はアヤ本人だけですね」

 アルフィの報告を聞きながら、ロスウェルは頭を抱えたくなった。

「そうそう、騎士の取り扱いにも気を付けてくださいね。うっかり貴方の部下たちが、アヤを口説いたからなんて、しょうもない理由で左遷されるのを見るのは不憫ですし…」

 アルフィがとんでもないことを言い出す。

「私は、そんな事はしない!」

 クロードは強く否定した。そ、そうだよな?いくら恋に浮かれているとは言え、公私混同はしないよな…?

「アヤに花を贈った騎士を探しておられたでしょう?私が気付いていないとでも?」

 アルフィの静かな声が、部屋に響く。え?…え?

「………」

 沈黙がクロードの肯定を表していた。探し出してどうするつもりだったのか、ロスウェルは知るのが怖い。隣に座るガーランドに至っては、既に無の境地である。悟りが開けそうデスネ⭐︎なんて突っ込む余裕もない。

「冷静沈着なクロードが!?おい!暴走を止めろ!」

 ロスウェルは思わずクロードの肩を掴んで、揺さぶってしまった。お願いだから、正気に戻って欲しい!あの冷静なクロードは何処に行ったんだ!?

「暴走なんて、していない!…まだ」

 ロスウェルは、クロードの逸らした視線が気になって仕方ない。最後の…まだって、これからするって事だろうか?え、なに、それ怖い。

「ロスウェル様の、腕の見せ所ですねぇ?」

 他人事の様に投げかけられたアルフィの言葉に、呆然とするロスウェルだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

何とか休まずに投稿出来ました!やれば出来る!

ではまた⭐︎貴方が楽しんでくれていますように♪

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