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フィリスの夢

「闇の女神様って、アヤみたいに漆黒の瞳と、真っ黒な長い髪をしているんだって。ほら、切れ長の目とか、アヤに似てると思うの」

 フィリスは天井画を指差す。真っ黒な長い髪を靡かせて、世界を覆う闇の女神は美しい顔をしていた。綾自身は全く似ていないと思うのだが、フィリスが似ていると言ってくれるので、そういう事にしておこうと思う。

「私、南国の商人さんは見た事あるけど、その人は黒髪でも癖毛だったから、アヤみたいな真っ直ぐな黒髪を見たのは初めてだったの」

 キラキラと瞳を輝かせて話すフィリスの様子は、純真そのものだった。

「…そ、そうなの。私のいた国では、珍しくないんだけどね…」


 その時だった。金色の小鳥が綾とフィリスの座っているベンチの、丁度真後ろのベンチの背に音もなく停まったのは。赤い瞳を瞬いて首を傾げる愛らしいその存在に、綾もフィリスも気付かない。


「フィリスは、ここにお手伝いに来たのよね?えらいね」

「…えらくないよ。目的があって来てるだけだもん」

「目的?」

「…あのね、このお城の中にね、動物がたくさんいるんだよ!」

 凄いでしょ?と自慢するように話すフィリスのその表情が、悶えそうなくらい可愛らしい。可愛いは正義だな!と綾は思う。

「そうなの?私まだここに来て数日だから、知らないわ」

「犬でしょ?馬でしょ?運が良ければ、大きな鳥とか、飛竜も見られるよ?」

 大きな瞳を輝かせて、とても楽しそうにフィリスは話す。

「飛竜って、竜?え、竜がいるの?」

「ね!凄いでしょ!飛竜がいるなんて、大きい商会か、騎士団くらいだもん!」

 うん?フィリスの言い方だと、所有するのは珍しいけど、存在自体は珍しくないって事じゃない?え、竜って普通なの?魔物が存在する世界だから、普通なのか…?と綾が考えている間にも、フィリスは馬の優しそうな目が好きだとか、飛竜の鱗が美しいだとか、とろけそうな表情で話している。

「フィリスは、動物が好きなのね」

「うん!大好き!神官のウェイン様に動物の世話をする仕事もあるって、教えてもらったんだ」

「そっか、それがフィリスの将来の夢なんだね」

「そうなの。強い光魔法が使えたら巫女になれるんだけど、私は弱い魔法しか使えないからね。成人したら働き先を見つけて、神の子の家を出なければいけないから…」

 フィリスは、神の子の家は、孤児院の事だと綾に教えてくれながら視線を下げて、片足をぷらぷらしている。

「そっか、なれるといいね」

「…でも、お城で働けるのは、推薦された人だけなんだって…。城で働く誰かの、推薦状がいるの…」

 途端にフィリスは俯いて、途方に暮れた顔をする。

「…その仕事に向いてる事を知って貰えば、道は開けるよってウェイン様は仰るけど。私…ただ見てるだけしか出来なくて…」

 フィリスにとっては、孤児院や神殿以外の場所は、馴染みが薄い未知の場所なのかも知れない。そう考えると、綾はフィリスの行動にも納得出来た。しかし、今の状態はとてももったいないと思う。だってこんなにも動物に愛情を持っているのだから。


「…私にはね、師匠がいるんだけど、初めて会った日に『弟子にしてください!』ってその場で言っちゃったんだ。でも、だからこそ『今』があるんだと思ってるよ」

 どんな仕事だろうと、飛び込むには勇気がいるだろう。だけどフィリスは、一歩踏み出す怖さと同じくらい、期待に胸を躍らせているのではないかと綾は思う。

「『弟子にしてください』かぁ。私にも言えるかな?」

 不安に揺れる金色の瞳が、窺うように綾を見る。

「言えるよ!ここで働きたいとか、動物が好きだとか、私に話してくれたみたいに話してみたら、いいんじゃない?」


「早速言ってみたらいい」

 背後から、声変わり仕立ての少年の声が聞こえた。驚いて振り返ってみるが、金色の小鳥がいるだけだった。あれ、いつの間に…?

「厩番の一人が腰を痛めていたから、手伝ってやると喜ぶぞ」

 しかし聞き間違えることもない、エメリックの声が、金色の小鳥から聞こえる事実に綾は目を見張る。フィリスも綾同様に目を見開いていた。

「エメリックなの?」

「そ。魔法で、意識を鳥に移してるんだ。体は綾の部屋に居るよ。あ、朝食美味しそう!食べて良い?」

「私の分は残しておいてね!」

「早く戻らなければ、全部食べてしまうかも?」

 昨日の昼食の様子を思い出し、綾は慌てる。山盛りサンドイッチの消えゆく様を頭の中に思い描き、危機感を覚えた。

「だ!駄目!」

「そこの少女、9時に馬場に来られるか?」

 見た目は愛らしい金色の小鳥と、声とのギャップが綾を戸惑わせる。だがフィリスは気にせず、小鳥に対して背筋を正している。

「はい!大丈夫です!ウェイン様にお話すれば、許して頂けると思います」

「じゃあ、決まり!あ、ちなみにアヤ、今日は乗馬訓練だから朝食はしっかり食べた方がいいぞ?あ、これ美味い…」

「ちょっと待って!残しておいてね!すぐ戻るから!」

 フィリスとの挨拶もそこそこに、綾は朝食の危機に神殿を飛び出し、早足で部屋に戻るのだった。


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