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魔力回復薬

 工房での事をクロードに話していたら、ふと大皿に盛られた、昼間のサンドイッチを思い出した。今まで疑問に思う事もなかったが、魔素と魔力の関係を知った今日の食事風景は違和感を覚える。

「そう言えば、クロード様の食べる量って普通ですね?」

 男性だから綾よりは食べる量が多いが、今日見たクリストフ達ほどではない。綾の思っている普通が、普通ではない可能性もあるが、どうなのだろう?感じた違和感を綾は不思議に思って、首を傾げる。

「ああ、私は魔力回復薬を飲んでいるから。多く食べ過ぎて、体が重くなる感覚が嫌だから、飲んでいるんだ。効率的だろう?」

 そう言って、クロードはグラスを掲げて見せた。そんな便利なものがあるのに、どうして皆たくさん食べてるのだろう?と不思議に思った綾だったが、数分後には納得する事になる。

「飲んでみるか?」

 クロードの手の中には、いつの間にか蓋つきの小瓶が握られている。綾が頷くと、ショットグラスに濁った紫色の液体を注がれた。凄い色だなと戸惑うも、表情一つ変えずクロードが飲んでいるので、恐る恐る口に運び覚悟を決めて一気に飲み干す。

「ひぅ!!!!!」

 思わず口を抑え、冷や汗をかきながら身悶える。さすがに口から出すような真似は出来ないと、必死に耐える。控えめに言って超不味い!!!涙目になりつつ、何とか嚥下した薬は、超超超激マズでした!!!!

 青臭い上に苦い!舌が痺れるようにピリピリするし、薬と言うより毒と言われた方が信じられそうな味だった。吐き出さなかった私を、誰か褒めて!!

 悪戯が成功した子供みたいな顔のクロードが、グラスの水を差し出しながらニヤリと笑う。知ってて教えてくれなかったのが、丸分かりで悔しい。

 楽しそうに笑みを浮かべるクロードを涙目で睨みながら、グラスの水を一気に飲み干す。この同じ薬を飲んでいるとは思えない、ポーカーフェイスが憎たらしいったら、もう!!


「この魔力回復薬は、効果は高いが味が欠点でな…はっきり言って人気がない!」

「…納得しました」

 ええ、身をもって、大いに納得しましたとも!

「便利なんだが、極力飲まない者の方が多い」

 魔力回復薬には、魔素が高濃度で含まれており、同時に体内で魔力に変化させるのを補助する成分が含まれているので、短時間で魔力回復出来るのだとクロードは自慢げに説明する。だが効果を差し引いても、味のマイナス要因が大き過ぎると綾は思う。

 罰ゲーム級の超マズ薬を平気な顔で飲み干す目の前の男が変人なのだと、綾は確信した。アレを普段から服薬している様子に、はっきり言ってドン引きである。

「…魔力を使うお仕事の方は大変ですね」

 変人ですね…と、上司の更に上の人物に、ど直球で言い放つ勇気は綾にはない。立派な社会人の自覚がある綾は、苦笑に留めた。

「まぁ、魔道具を使ったりして、魔力の節約をする者もいるが、魔力は食べて休めば回復するから、薬に頼らない者の方が多いだろうな。だが、体内に溜め込める魔力量は人によって違うから、魔力の高い者ほど、多く魔素を摂取する必要がある。魔力量が高い者ほど大食いの傾向があるな。工房の者達の食欲はすごかっただろう?」

「はい、驚きました」

「彫金工房の職人は、魔力量が多い」

「魔族の方が、三人もいらっしゃるから?」

「魔族は、正確には四人だ。あと一人は、町の工房に出向しているが、そのうち会えるだろう」

 魔族率高い!人間は、綾とクリストフだけなのが、不思議なくらいだ。

「騎士や冒険者には、いざという時の必需品であるから、他の薬類と同様にそれなりの需要はある。この城でも専属の薬師が作って、騎士団や、各部署に支給したり備蓄に回したりしているんだ。魔力回復薬は、彫金工房にもあるから遠慮なく飲んだらいい」

 遠慮なくって言われても…あの大皿に盛られたサンドイッチこそが、工房の皆の答えだと綾は思うのだが…。

「…私はどちらかを選ぶなら、極力飲まない方向で行きたいですね」

「…そうか」

 そんな残念そうな顔で見られても、意見は変わりませんよ!?

 ただ、食べ過ぎて胃腸炎になるのは、いただけない。ううむ、悩ましいところだ。


 それにしても、自分の身体から魔力の存在をなんとなく感じる事が出来る今の状態が、綾は不思議でならない。綾の身体は、一度作り替えられたと考えて良いのだろう。それが、どことなく元の世界との別離を感じさせて、寂寥感が胸を過ぎった。


「…先程の合金の話を詳しく聞かせてくれないか?」

 クロードの言葉で、暗い思考から浮上した綾は、目を瞬く。

「ええ、良いですよ」

 返事をしてしまってから、はたと気付く。アレ?なんかデジャブ…そう思った時には、遅かった。ああ!昨日と同じ展開に…!

 クロードの知識欲を甘く見積もっていた綾は、自らの迂闊さを実感する事になる。


 数時間後…


「クロード…貴方の記憶力は一日保たないの?もしかして、アホなの?」

 仁王立ちをして、クロードを見下ろすエリスの迫力に圧倒されるも、救世主の登場に綾は嬉し涙が出そうだった。ああ!女神が再び降臨した!!!これから崇め奉らせて頂きます!!

「いや、これは…その…話に…ね、熱中し過ぎたと言うか…」

 しどろもどろのクロードが、視線を彷徨わせる様子は見ものだったと綾は言いたい!

「ただでさえアヤは貴方のせいで、今日寝不足だったのよ!?二日連続なんて、鬼畜にも程がある!!」

 エリスさん!もっと!もっと、言ってやってください!!

「き、鬼畜!?」

「…だから言っただろ?あれだけ忠告したのに…はぁ。馬鹿だなぁ、クロードは…」

 いつも丁寧な言葉遣いのアルフィの口調が、砕けたものになっていた。学院の同級生で友人だったのが良くわかる雰囲気だ。

「アルフィ…」

「自業自得だぞ、クロード?気持ちを意識し出した途端に、コレとか…初等学院レベル。いや、今時の子供より遅れてるに違いない」

 何気に結構ディスってませんか!?さっきから、アホだの馬鹿だの散々な言われよう。

「夫婦で責め立てられると、結構凹む」

 眉尻を下げて、クロードが呟く様子が子供のようで、少し可愛く思えてしまった。うん?あれ?今なんて言った?

「…え、エリスさんとアルフィさんって、夫婦だったんですか!?」

「あら?言ってなかったかしら?」

 今気付いたと、エリスはトパーズの瞳を瞬かせる。初耳です!


「とにかく、綾は連れていくわよ!」

「…分かった。遅くまで悪かったな、アヤ」

 エリスに言われて、綾は立ち上がるとクロードに向かって頭を下げる。

 扉の前まで、アルフィが送ってくれて、苦笑しながら言った。

「クロードや私にとって、エリスは闇の女神だから」

「闇の女神?」

「勝てない相手という意味だよ」

「興味があったら、明日は闇の日だから、神殿に行ってみるといい」

 アルフィは綾に、そんな言葉をかけて微笑む。休日の予定が出来たかも知れない。

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