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晩餐と合金

 晩餐に招待された綾は、エリスの後に続き領城内の一室に向かった。扉の前で来訪を告げ、エリスと別れる。昨夜と同じ部屋なので、気後れすることもなく綾は、促されるまま席に着いた。先に着いていたクロードは、すでに着席している。

「お待たせ致しましたか?」

 給仕されながら綾がクロードに問うと、問題ないとクロードは手を軽く振る。

「いや、私も今来たところだ。工房の様子はどうだった?馴染めそうか?」

 クロードの表情からは分かり難いが、心配されていたらしい。やはり眉間の皺は心配している顔だと、クリストフとクロードの表情の類似点を見つけて、それが確信へと変わる。

「皆さんに、良くして頂きました。明日から頑張ります!」

 ぐっと拳を握りしめて宣言する。待ち望んだ自分の仕事場が出来たことで、綾は頬が緩みそうになるのを何とか堪えた。

「…意気込んでいるのに水を差すようで悪いが、明日と、明後日は休みだ」

「え!?」

 何だって!?待て、だとぉ!?お預けを食らった犬の気分で、綾は眉尻を下げる。

「明日は闇の日で、明後日は静の日だからな」

 コホンと一つ咳払いをして、クロードは説明を始めた。

 一週間の始めが光の日、火の日、水の日、土の日、風の日、闇の日、静の日、闇の日と静の日は、休日扱いになるらしい。この曜日の呼び方は、神話に由来しているとの事。週休二日制は有難いが、綾としては出鼻を挫かれた気分だ。

「まぁ、時間外に勝手に作業している者も多いが…」

 特に父が…と言いつつ、クロードは苦笑する。まだ数時間の付き合いではあるが、その様子が綾には容易に想像出来てしまった。


 そんな感じで、今日あった事を報告していく。意外と、クロードは話し易い。説明するのも上手いし、質問内容も的確で、さすがに領主だけあって聡明だと綾は思う。


 それにしても、仕事をした後の食事は美味しい!と白身魚のポアレを口に運びながら綾は、身の回りの物を鑑定していく。この魔法が楽しくて、ここ数日ですっかり癖になってしまったのだった。『鑑定』ならば、無詠唱で発動出来る様になった。

 ふむふむ、ゼフさんという漁師さんが釣り上げて、マーレの港で水揚げされたゴルという鯛のような魚なのか。料理人のジャレットさんが作ってくださったのですね!外はカリッと中はふわっした食感で、最高に美味しいです!

「ゼフさん、ジャレットさん、美味しいです!」

 小声で言ったつもりだったのに、クロードが訝しげに綾を見た。すぐに『鑑定』したのが分かったらしく、少し呆れた視線を感じる。まるで子供のようだと思われているのだろう。だって、情報が文字になって出てくるなんて、スマホより有能かもしれないなんて、思うわけですよ!楽しいに決まってる!


「こちらでは合金がないわけでもないのですよね?銀食器に強度を出す為に銅が使われているようですし…。でも銀食器は磨くのが大変そうですよね」

 カトラリーを持ち上げて見せると、クロードは頷く。

「付与魔法が確立されるまでの、毒などを恐れていた時代の貴族の風習だと思っていい。今は解毒の付与魔法の装飾品で防げるが、銀は資産としての価値もあるからな」

「私達の世界では、カトラリーはステンレスが多かったのですが、まだここに来て見たことがありません」

 ここが貴族の城だからかも知れないが、綾は銀のカトラリーしか見たことがない。

「ステンレス?」

 クロードが、聞き慣れない単語に反応する。

「鉄と、クロムを混ぜた合金で、錆びにくいのが特徴です。さらにそこにニッケルを混ぜて加工しやすくしたものも、多いですね」

 綾が知っているのは、180ステンレスと、18−8ステンレスくらいだが。

「ほう、……に高く売れそうな情報だな」

 あ、今小声でよく聞き取れなかったけれど、不穏な言葉が聞こえた気がする。そこには触れずに、綾は工房内を見学した時に疑問に思った事を質問してみる。皆が作業していたので、質問出来なかったのだ。

「こちらの装飾品は銀、プラチナ以外は、純金(24金)ばかりなのですか?工房で合金は、銀以外無かったので気になっていたのです。私がいた場所では、強度を高める為に敢えて金に、銀と銅を混ぜた18金という合金が、多く使われておりました。また、配合に銅を多めに混ぜたピンクゴールドとかもありましたけれど」

「…強度を高めるのは理解できる。実際、銀は貴族では普段使いの装飾品にも使われるから、銅が混ぜてある物もあるからな。ただ、金に何かを混ぜるなんて、普通しないと思う。価値が下がるだろう?」

 耐久性より、資産価値の方に重きを置いているのだと綾は理解した。純金だと摩耗し易いと思うが、普段使いしない装飾品なら、納得出来る答えだ。宝飾品を買うのが、圧倒的に貴族が多い影響かも知れない。

「でも、ピンクゴールドなんて色が可愛いですよ?」

 だが綾的には、もっとバリエーションが欲しいと思う。アクセサリーはファッションの一部だという感覚が、綾にはあるからだ。

「…可愛い…か。ふむ、あまりそういう発想は、なかったかも知れないな」

 クロードはクリストフにも話してみようと言って、ほんの少し口角を上げた。


いつもお読み頂き、有難うございます!

ちょい短いですが、キリが良かったため今回はここまでで。

ではまた⭐︎あなたが楽しんでくれていますように♪

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