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魔力登録

 それにしても領主の仕事って、忙しそうな気がするんだけど…?こんな場所で、油を売っていて良いのだろうか?綾は疑問に思う。

「えっと、もしかして暇…とか?」

 ぽそりと綾が呟いた言葉に、クロードが固まり、エメリックが目を見開いた後、口を抑えて肩を震わせる。パメラはくるりと後ろを向いた。あ、思ったことが口をついて出てしまった。さすがに失礼過ぎたかも知れない。ちょっと心の声が漏れただけです。

「っ違う!…魔力登録は、領主一族の誰かがしなければいけないからだ。…君のことは私の責任だから、見届ける義務がある!」

 そんな力説しなくても…。そもそも『暇』って単語が悪かったのだな…。うん、これからは気をつけよう。

「…よろしくお願いします」

 綾は頭を下げた。昨夜はキレてしまったから今更感は強いけど、普段は温厚なのですよ?えっと、異論は認めませんが。


 扉の内側、その脇の何の変哲も無い壁に、クロードは手を着いた。ふわりと淡い光が広がると、そこにあったのは丸い球体が嵌まった窪みだった。一番大きな球体はピンポン玉くらいの大きさで、七色に輝いている。その他の球体は色違いで、ビー玉のような大きさのものが四つ嵌まっている。

「これで魔力を登録するんだ」

 クロードが綾に手渡したのは、ビー玉くらいの大きさの小さな丸い球体だった。ただの白い石に見えるが、大きさといい四つ嵌まっている球体と同じものに見える。

「ここに魔力を込める。昨夜、水晶に込めたみたいにすればいい」

 なるほど…昨夜はこれの予行練習だったのか…。クロードは効率的だなと綾は感心した。

 昨日と同じように石を握り込んで、魔力を込めるように意識を集中する。手を開くと、丸い石の中で淡い黄色が揺らめいていた。成功したので、綾はほっと胸を撫で下ろす。…だって、試験官の目の前で行われる実技試験みたいなんだもの。

「その石をこの窪みに嵌め込む」

 クロードが示した場所に、少し力を入れて窪みに石を嵌め込むと、その横の壁が光った。

「この光ってる部分に、手のひらを登録すれば完了だ」

 そっと、綾は手のひらを光る壁に押し付けて待つ。

「掌紋認証ですか?」

 綾の質問に、クロードは頷く。

「そうだ。魔力と掌紋、両方で確認するんだ」

「二重に確認するのですね」

 結構厳重なセキュリティーみたいなので、それだけ重要度の高いものを扱っていると言うことか、と綾は考えた。宝石だけでも価値が高いから、当然だろうと納得する。

「そうだ。魔力は変化する場合があるからな」

「変化するのですか?魔力が?」

 魔力が変化するなんて話、初めて聞いた気がする。

「…あー、自分の魔力は基本的には変わらないが…その…」

 クロードが言い淀む。何かまずい事を聞いてしまったのだろうか?

「俺は食事した直後は、魔力に変化があるよ」

 エメリックが当たり前のように言う。綾は首を傾げて考えた。

「えっと、血を飲むから?」

「そう。他人の体液が自分の中に入った直後は、変化があるな」

 そういえばエメリックに、血には魔力が多く含まれてるって教えてもらったな。飲みたいって言われたんだった。

「私、吸血しないけど?」

「…血、以外でも変化があるから…」

 血以外って、涙とか?うん?

「魔力薬でも変化するし、妊娠中も変化があるわね」

 パメラが補足してくれる。

「あ、なるほど。妊娠か!あ、でも予定ないから、関係なさそうですね」

「あー、多分アヤはピンときてないな…」

 エメリックが苦笑し、パメラがそうねと同意する。

「…私が後で説明いたします」

 神妙な顔で、パメラがクロードに告げる。そうしてくれとクロードが言ったが、やや疲れた表情の意味が綾には分からない。


「えっと、食べ物は?」

 魔力が体内に摂取されたら、変化がある気がする。

「それは大丈夫だ。調理された食べ物は、殆ど影響ないと言っていい。鮮度の良い生肉を食べたら別だが」

「生だと影響があるのか…」

「え!?食べるのか!?生肉を?」

 クロードが目を見開く。

「えっと、肉類は新鮮なら食べる事もありますよ?生魚は大好きです!」

 居酒屋で食べた鶏刺しや、馬刺しは美味しかった!タタキもいいよね。でもやっぱり魚の刺身でしょ!色々思い浮かべてたら、ああ!食べたくなってきた!

「…大好き!?」

 クロードの信じられないものを見るような目が、居心地が悪い。

「意外と身近に、レナードと趣味が合いそうな人物がいたんだな…」

 エメリックがチラリとクロードに視線をやると、眉間に皺を刻んだ不機嫌そうな顔が見えた。

「レナード様って確か、クロード様の弟さんでしたか?」

「…ああ、マーレに母と居る」

「海辺の街なのだから、生魚は当たり前では?」

「他国で生の魚を食べる国があるのは知っているが、この辺では食べないな」

「…なんて勿体ない。美味しいのに」

 刺身の美味しさを知らないなんて、人生の損失と言っても過言ではないと綾は思う。

「…レナードと同じ事を言う」

 溜息を吐くクロードは、綾を見て複雑そうな表情をする。綾としては、刺身好き仲間がいてくれると心強いのだが。


 少し席を外すと言って奥へ行ったパメラが、戻ってきた。

「クリストフ様が、今良いところだから少し後にしてくれ…と仰っています」

 クロードの表情が消えたと思ったら、冷気が漂って来そうな笑顔になった。えっと、雰囲気が怖いです!

「私が、交渉しよう!」

 あ、なんか普通の交渉じゃない予感がする!戦いに赴く戦士のような風格が漂っているのは、気のせいでしょうか!?

「私は急いでませんから!!クリストフ様の空いている時間で問題ないです!!」

 綾の言葉に、ちょっと残念そうな顔のクロードは、そうかと頷いた。あ、危なかった!でも、危機は回避できたはず!

 コホンと咳払いが聞こえて、そちらを向くとパメラがにっこりと笑顔で綾達を見ていた。

「先に寮を見学しては、どうですか?」

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

クロードのかっこい良い場面が出てきませんね!あれ?おかしいな?

その内そんな場面もあるかと思いますので、気長にお待ちくださいませ!

ではまた⭐︎あなたが楽しんでくれていますように♪

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