表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/175

検証

 綾は早々に取り繕うことをやめた。我慢の限界とも言う。何故なら、もんのすごお〜っく!眠いから!!何時間検証に付き合わせる気なのか、この男は!!!

 綾は隣のソファに腰掛ける、艶やかな銀色の髪と涼やかなアクアマリンの瞳の美丈夫をじとっとした目で見た。爽やかな見た目に騙されてはいけない!この男は粘着質だ。多分研究者気質なのだろう。一人で研究に没頭するのは構わないが、他人を巻き込んだら駄目なタイプだと切実に思う!!

 客観的に見るとドキドキしそうな距離の近さだが、ただ効率的に物事を進める為の距離感である。出来る事なら、さっさと終わらせて離れたい。

 本人はごく真面目に検証しているつもりなのだろうが、限度があると思うんですけど?

夕食後から、4時間は経ってる!!!時計の針は今日の終わりを告げ、明日になってしまった。普段ならとっくに寝ている時間だ。だと言うのに、終わる気配が全く無い。そう!全くないのだ!!


 夕食後、検証を始めたのだが、最初のうちこそ和やかに進んでいたのだけど。アイテムボックスに入っていた、お気に入りのお菓子やコーヒーをクロードにすすめていた綾だったが、時間が経ってクロードの本性を察したのだ。あ、これ、興味の対象に対しては、周り見えなくタイプの人だ、と。初めての面談の時もその片鱗が窺えたのだが、綾はその認識を甘く見積もってしまっていたようだ。


 検証の結果は、宝石を他人に譲渡すると、新しく再生?されるらしい。そう、減らないという事なのだ。それはお菓子や飲み物も同じで、いつの間にか残り少なくなったコーヒーポットの中身やお菓子が、一旦アイテムボックスに戻し、再度取り出すと満タンになっている不思議さに、綾は密かに感動した!お気に入りのものだから、これは手放しで嬉しかったのだ。

 ただし、その効果があるのは最初からアイテムボックスに入っていたもの限定らしく、新しい宝石を手に入れたからといって、それは再生されないのだった。


 次は、工具類の検証に入ったわけだが、金属の板などの素材や、薬剤、ガスバーナーのガスなども再生されるのは、綾にとっては朗報だった。小躍りしたい気分だが、クロードの前ではしおらしくしていた。流石にこの状況ではしゃぐほど、綾は子供ではない。

 ……が、綾は今キレそうになっている。半眼でクロードを睨め付けて、ガスバーナーで、目の前の綺麗な銀色の髪を、チリチリにしてやりたい衝動を抑えているのだった。あろう事かこの男は、綾の所持していた工具を傷つけて良いかと訊いてきたのだ。破損しても状態が戻るのか知りたいとぬかしやがったのだ!


「それは駄目です!工具は職人の命ですよ!?」

 何考えてんだ、馬鹿!と口に出さなかった私を、誰か褒めてください!

「ほんの少し…先だけならそれ程影響はないのではないか?」

 執念い!それは、今絶対にしなければいけないことでは無いはずだ。

「本当にヤルつもりなら、クロード様の物も同じようにしますから!クロード様の剣を、刃こぼれだらけにしてやる!!」

 ペンチを持って綾は凄む。眠いので無礼な態度なのも無自覚だ。

「ま、待て!」

 さすがに綾の怒りに気付いたクロードは、慌てて愛剣をアイテムボックスに仕舞う。

「大体、鑑定結果に胸やウエストのサイズまで含まれているなんて、聞いてませんよ!?」

 ここぞとばかりに、綾は不満を吐き出す。何故なら、もの凄く恥ずかしかったのだ。エメリックに訊いたら、見られたくない情報はそう願えば隠せると教えてもらった。最初に説明してくれても、いいのでは?と思ってしまうのも無理はないと綾は思うのだ。

「アレは必要だっただろう?」

 クロードは全く悪びれない。その姿勢に更に綾の苛立ちが募る。

「効率だけじゃなくて、もう少し気持ちも察してくれたっていいじゃないですか!!」

 今度は悲しくなって、綾の目に涙が溜まる。もう、眠くて感情の制御が出来ないのだ。

「わ、悪かった!謝るから、それを仕舞ってくれ!」

 そんなこんなで、ペンチをアイテムボックスに仕舞った綾は、側にアルフィの姿を見付けた。いつの間に来たのだろう?


「ご自覚が無いようなので申し上げますが…、先程の会話の内容は、クズ男がせまっているようにしか聞こえませんでしたよ?」

 ちゅどーーーん!効果音があったならこんな感じだろうか。アルフィの言葉に、クロードが石の様に固まった。

「お先に失礼致します。ああ、それから防音魔法はしっかりかけておいてくださいね、丸聞こえでしたよ?」

 アルフィは、爆弾を投下して去って行った。


 アルフィが去った後、なかなか戻って来ない綾を心配して、エリスが様子を見に来てくれた。

 船を漕ぐ綾を容赦なく検証に付き合わせているクロードを見て、エリスはその形の良い眉を勢いよく吊り上げる。お構い無く綾に次の提案をしているクロードに向かって、エリスは底冷えする様な冷ややかな声で言った。

「クロード!しつこい男は、嫌われると覚えておきなさい!」

 と叱って助けてくれたのだった。

 ああ!後光が見える!!!エリスの姿が女神に見えた。



 次の日


「アヤ、昨夜はクロードに寝させてもらえなかったんだって?」

 ニヤニヤしながらエメリックが話しかけて来た。

「…言葉のセレクトに悪意を感じる」

 眠気覚ましのコーヒーを飲みながら、綾はエメリックから顔を背けた。

「おお!ご機嫌ななめだな」

 綾の正面に移動しながら、エメリックは綾の顔を覗き込み、頭を優しく撫でる。

「…眠いの」

 綾は、早く寝ても、遅く寝ても、毎日同じ時間に起きてしまうタイプなのだ。なので、遅く寝た昨日…いや、もう今日になっていたが、どうしようもなく睡眠不足なのだった。

「俺からも一般的な女性の体力を、騎士並みに鍛えてるお前と一緒にするなって叱っておいたから!」

 もう二度とあんな事はないから安心しろと、未来の親友は笑う。

「さすが親友!」

 なまじ体力があるから、クロードは厄介なのだ。


「それより、何故かクロード様とも文通する事になったんだよね…」

 話の流れで、決定事項の様に告げられれば、綾に拒否は出来ない。目の前で綾に水晶に魔力を込めさせ、クロードからも水晶を渡されたのだった。

「あー、まぁクロードなりに、アヤと親交を持ちたいんじゃないの?」

「どっちかって言うと、試験じゃないかな?それか、レポートの提出的な?」

 文章上達の為なら、頑張るけど。領主の仕事って忙しそうなのだけれど、そんな時間があるのだろうか?綾は首を傾げたが、クロードは睡眠時間削っても平気みたいだし、大丈夫なのだろうと思い直す。

「…自業自得とはいえ、クロードが不憫に思える」

 ぽそりと呟かれたエメリックの言葉は、綾には届かなかった。


 今朝クロードは皆に散々叱られて、しょぼくれていたと言うエメリックの言葉を信じるなら、反省はしているのだろう。その姿が目に浮かび、叱られた時の銀を思い出していた。ちょっと、見てみたかったかも…。

「あれでも、一応反省してるみたいだよ。ほらこれ、クロードから」

 エメリックから渡された、いかにも高級そうな黒い箱を綾は受け取る。鼻腔をくすぐる様にほんのり香る甘い匂いは、覚えがあるものだ。

「チョコレート?」

 サテン生地のリボンを解き、高級感のある化粧箱を開けると、宝石の様な美しいチョコレートが並んでいた。一気に機嫌が良くなった自分は、我ながら単純だなと思う。こんなもの渡されたら、許してしまうじゃないか。

「気に入った?」

「気に入った!」

 仕方ないから、昨日の事は許してあげますよ。早速お礼状の文面を考えなければ…でも、チョコレートを食べてからにしようっと!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ