決勝戦1
会場の期待は最高潮に高まり、その熱い視線は、会場に入場した二人の男に向けられた。よく似た髪色に、細身の長身というよく似た体型、一目で血の繋がりがある事が分かる。
銀色の長髪を後ろで括った、アメジストの瞳のメイナードは、白い騎士服がよく似合う。一方漆黒の騎士服に、深緑のマントを羽織ったクロード。銀髪は耳にかかる程度の短髪で、そのアクアマリンの瞳は、真っ直ぐにメイナードを見つめる。
表情はメイナードが笑顔なのに対して、クロードは通常通りの無表情だ。綾の前では、豊かな表情を見せるクロードだが、これから試合という事で、緊張しているのかも知れない。
「今回は、勝たせてもらいますよ」
クロードが宣言すると、メイナードが、笑みを深める。
「兄としての威厳があるから、私も負けないよ?」
お互いの視線が、火花を散らすように交わった。
「ああ、負けた方は、母上の特訓が待っているでしょうね?」
クロードは、僅かに口元を綻ばせる。
「………負けないよ?」
メイナードは、母の特訓を思い出して、ぶるりと震え、そして気合を入れ直す。
「私はしょっちゅう母上と訓練していますから、兄上にも機会を作って差し上げます」
余裕の笑顔でそう言った弟に、メイナードは笑顔が引き攣るのを感じた。クロードは何が何でも勝つつもりなのだろう、その意思をひしひしと感じる。それだけ、綾に良いところを見せたいのだろうとメイナードは思った。だけど、メイナードとて、妻子に良いところを見せたい気持ちは変わらない。お互いそんな譲れない想いを抱えて、両端に離れる。
試合な始まりを告げる笛の音が高らかに鳴った。
お互い、様子見の遠距離魔法が放たれる。クロードの放った数百発の火魔法の矢が、メイナードの強固な防御魔法に最も簡単に防がれた。メイナードの放った数百の風の刃も、同様にクロードの防御魔法に防がれる。
間髪入れずに、氷の槍が空から降り注ぎ、風の刃が続け様にクロードから放たれた。メイナードの放った灼熱の業火が、クロードを襲うも、お互いの防御魔法の前には、どちらもダメージを与えられない。激しい高度な魔法の応酬が続く。
このまま長期戦になり、先に魔力切れを起こした方の勝利かと思いきや、お互いが剣を持って接近戦に切り替えた。目にも止まらぬ速さで、剣や魔法の応酬が行われる。だがどちらも、最低限の防御魔法で防ぎ、お互いの剣筋を読み合っているのか、決定的な攻撃が通らない。
「ちゃんと訓練してますか?持久力がなくなってません?」
「まだまだ余裕だよ?クロードこそ、そろそろバテててきたんじゃない?」
「ふ、まさか」
二人は、そんな言葉を交わし合うぐらい余裕だった。
繊細な魔法のコントロールと、剣を融合させた攻撃は、バドレー家の得意技だった。魔力量も多い二人は、何時間も戦っていられるほど持久力もある。
大規模魔法からの、接近戦、その高度な魔法と剣の応酬は、この大会一の盛り上がりを見せている。
綾もその戦いを固唾を飲んで見守っていた。素早い剣戟は目で追うのが難しいくらいで、切先がクロードに当たって怪我したらどうしよう…と怖くなる。でも怖いからと言って、目を逸らすことも出来ない。それまでの試合で、攻撃の応酬を見慣れたと思っていた綾だが、クロードとメイナードのものは、素人の綾から見ても次元が違うと感じられるのだった。
「うう、怪我しそうで怖い…」
「怪我しても、あいつら自分で治せるって」
「治せても、痛いのは嫌でしょう?」
エメリックと綾がそんなやり取りをしていると、ソフィアがふふふと笑う。
「アヤさんは、優しいのね…でも、強くなる事は、自分も他人も守る力を持つと言うことよ」
「…自分と他人…」
その他人の中には、綾も含まれているのかもしれない。いや、含まれているのだろう。
「だから、見守ってやってね」
「はい」
綾は、戦いの行方を見守った。
遅くなって、申し訳ないです。
どうも、戦いを書くのが苦手だと自覚しました。精進します。
では、また⭐︎あなたが楽しんでいてくれますように♪