綾とエリオットの邂逅2
エリオットの顔が幾分和らいで、綾とエリオットがお互いの近況を交換している時に、天幕の外が俄かに騒がしくなった。クオォオオとか、キエェエエとか動物の鳴き声が、綾達の耳に届く。だがその直後、それがピタリと止まった。
「何か、あったんでしょうか?」
綾が首を傾げて、エリオットに話しかける。
「今の鳴き声、竜だと思う。普段は無駄に鳴いたりしないんだけど…?」
犬はストレス溜まると、無駄吠えするって言うけど、竜はどうなんだろう?と思いながら、綾は外に出て確かめたい衝動に駆られたが、さすがに堪えた。王立騎士団の天幕の外になど、出られるわけがない。
「俺、見てこようか?」
エリオットが席を立つと同時に、天幕の外から声が掛けられた。この声は…!綾は息を呑む。
「邪魔するぞ」
そして天幕の布が持ち上げられた。そこに立っていたのは、黒いローブを纏った男、声の持ち主であるクラデゥス帝国皇帝陛下、シリウスだった。その後ろには黒い膝丈ワンピースドレスを着た、クロちゃんだ。
彼らは目を丸くする、エリオットの返事を待たずに天幕に入ってくる。そして椅子がないことに気付くと、アイテムボックスから豪奢な椅子を二つ取り出して、座った。ローブのフードを後ろに払うと、白銀の美しい髪が現れる。
綾が立ち上がって自分の椅子を勧める暇もないほどの、早業だった。さすが、元祖せっかち…。
「どうして、シリウス様が?」
「メイナードの役目を、代わってもらったのよ」
クロが、珍しそうに天幕の中をキョロキョロと見ながら、綾へ返事を返してくれた。
「『勇者』と話す、丁度良い機会だったからな。アヤがいて良かった。迎えに行く口実が出来たからな。其の方、エリオットという名だったか?」
固まっていたエリオットがハッとした顔で、シリウスを見た。金色の瞳に見つめられ、慌ててその場で膝をつく。………さすが身分制度の厳しい王城にいるだけの事はある…と綾が感心しつつも、自分だったら出来ないかも…と遠い目をしてしまった。色んな意味で、『勇者』は凄い。
「立って座ってくれ。これは非公式なものなのだから。私の横にいるのは、黒竜のクロだ。」
「…はい」
シリウスに促され、エリオットは椅子に座るが、そわそわと落ち着かない態度だ。………分かるよ。
「外で竜が騒いでいたのですが、シリウス様が居たからです?」
綾は首を傾げて、疑問を口にした。エリオットに心の準備をしてもらおうと、世間話をして時間を稼ごう作戦である。
「正確には、妾とシリウスが来たからじゃな。竜は、魔力に敏感だからの。歓迎とか言っておったが、ちょっと五月蝿かったから黙らせてきた。気にせんで良い」
………黙らせたんですね、クロちゃん。その様子が目に浮かびます!今は、もの凄く静かですね、はい。
「黒い色は好きか?」
唐突に、クロはエリオットの話し掛けた。ちょっと、綾からすれば、神を信じますか?みたいで、怪しい感じなのだが、クロは全く気にしていない。ゴーイングマイウェイである。
「え?あ、はい」
エリオットは、目を白黒させながら答える。
「そうか!好きか!白い服を着ていなかったから、そうかと思ったのだ」
クロは満面の笑みで、アイテムボックスから黒い服を取り出した。それ、見覚えあるんですが!?
「えっと、俺は王立騎士団に所属していないし…白の騎士服は、恥ずかしいから…」
エリオットは、クロの雰囲気に呑まれたように、話し出す。
「白よりも、黒の方が良いよな?そうよな!其方気に入った。褒美にこれをやろう」
クロがエリオットに差し出した黒い服。見覚えがあり過ぎるそれは、クロちゃんのドレスを作った時に一緒に作ったものだった。それって、お針子さん達が、悪ノリで作った黒の肋骨服じゃないですか!?と綾は驚く。
「シリウスは、着てくれないのじゃ…」
むすっとした顔で、クロは話す。
「私が専任の者の以外の服を身につけたら、その者が卒倒するだろう?」
苦笑しつつ、シリウスはクロを宥める。
「ここに居る間だけでも良いのに…」
「彼奴はバレたら、泣き喚く故、面倒なのだ…」
シリウスにも、人知れず苦労があるらしい。早速着ろとクロが、エリオットを急かせ、布の向こう(多分ベッドがある場所)へ追いやった。…せっかちって感染るのかな?
「あ、クロちゃんに貰った宝石を使った、マント留めのブローチありますよ!」
その肋骨服にも合うし、丁度エリオットの瞳の色と同じだと綾は提案してみた。練習で作ったものだが、綾の自信作である。早速アイテムボックスから取り出したそれを、シリウスの手渡す。
シリウスはブローチを、手にとって頷く。クロとシリウスが何事か呟き、ブローチが微かに光を帯びた。綾は仕事で付与魔法の光は見慣れているが、シリウスとクロの早業に、瞬きもせず魅入ってしまう。かなり高度な付与魔法である事が、綾には分かった。
おずおずとエリオットが顔を出す。黒の肋骨服は、エリオットに凄く似合っていた。クロちゃんが土魔法で作ったサファイアを使ったブローチは、見栄えが良い。エリオットが元々纏っていた黒のマントに着けると、しっくりくる。
シリウスも、クロちゃんも私も、満足げに頷いたところでハッとした。…これ、何の時間!?勇者を黒く染めてしまって、良かったのだろうか?………まあ、いっか。
連休中に投稿出来なくてすみませんでした!
サイレントウィッチを大人買いして、一気読みしてたら時間がなくなってしまいました。
面白過ぎなのが悪い!わけはなくて、私の意思の弱さです。
ではまた⭐︎あなたが楽しんでくれていますように♪