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勇者の独白4

「大丈夫か?」

 メイナードが俺に声を掛ける。その心配そうなアメジストの瞳に、俺はどう映っているのだろう。平気な振りは得意な筈だけれど、この人は他の人と違って誤魔化されてくれない。

「団体戦、相手のウラール地方騎士団は、強いね。驚いたよ」

 王立騎士団の天幕で、椅子にだらりと腰掛ける。

「ウラール地方は魔素が濃くて、魔物も強い。それに、戦い慣れた者ばかりだ」

「メイナードの弟さん、凄いね。全て防がれると、さすがに落ち込むよ…」

「クロードは兄弟の中でも、一番魔法の扱いが上手いんだ。訓練もずっとしているだろうから、そうなって当然だから気にしない方が良い」

 …次の対戦、その人なんだけど…。気にしないのは無理だと思う。

「だけど、クロードの上もいる。前騎士団長の叔父は剣技もグリフォンの扱いも、超一流だし。それに魔族の母には、絶対勝てない」

 言い切るくらいに凄いのだな、魔族は。観客席にも凄い人達が集まっている場所があった。内包している魔力が桁違いの人物が三人ほど、俺たちと同じ高位貴族並の魔力の人も、たくさんいた。特に気になったのは、金色の神気が付着している人だ。上手く隠していたけれど、それは、俺の目には、とても目立った。それに、俺達異世界人の特徴だから…もしかして?と思う。

「だから、調子に乗る事すら出来ないんだよ…」

 そう言って肩をすくめて見せるメイナードが、眩しく見えた。あんなに強いのに自然体で、気遣いも出来て、皆から慕われている。それに比べれば、俺なんて…と沈む心を、無理矢理浮上させて笑顔を作った。

「個人戦も頑張るよ。メイナードの弟さんと戦えるのは、楽しみだ」

 それは嘘ではなかったのだけれど…。



 個人戦の結果は惨敗だった。強い人達が出場しているのだから仕方ない事ではある。だけど『勇者』として、この結果だと格好悪いのは確かだ。本心では、自分より強い人がたくさんいるのだから、『勇者』なんて必要ないのでは?なんて思う。それにウラール地方の客席にいる、桁違いの魔力の三人には、どう頑張っても勝てる気がしなかった。それこそ赤子と大人くらいの違いがある。何で誰も気にせず平然としていられるのか、不思議でならなかった。

「ウラール地方の客席の人達って、何者?特に三人凄い人がいるよね?」

 試合に負けた事も気になったが、それよりもただならぬ気配が気になって仕方ない。

「気配に聡いエリオットには、分かると思ったよ。あれは、私の母と叔父、クラデゥス帝国皇帝だ。魔族の王族は桁違いだろ?あれでも抑えてるんだよ…比べるだけ無駄だから気にしない方が良いよ?あと一人は叔父上の黒竜だ」

「それ以外にも、高位貴族並の人達がゴロゴロいるし…神気を纏った人まで…気になるんだけど!?あれ、やっぱり異世界人だよね?」

「あ、やっぱり異世界人同士だと分かるよね?」

 軽い感じで、メイナードが肯定する。

「そうそう、クロードの彼女なんだって!あのクロードが、上手くやったもんだな!バドレー家も安泰だよ」

 アメジストの瞳が嬉しそうに細められて、頷くメイナードは良い兄なのだろう。

「俺に話しても良い事なのか?」

「異世界人の管轄は、第二王子殿下に移ったし、陛下も殿下もご存じだ。だが、王女殿下と第一王子殿下は知らないから、黙っていてくれると嬉しい。秘密が守れる人なら、エリオットの判断で話しても良い…アントンまでくらいが良いと思うけど」

 確かに俺も、そう思う。

「何で、王城に居ないの?」

「一人だけ別の場所に飛ばされたみたい。バドレーの領地の森だったらしいよ。彼女、誘拐犯に協力したくないって、拒否したらしい」

「…強いな」

「見た目は幼いけど彼女、君達より歳上らしいから。慎重だったんだろうね…」

「ちょっと話してみたいかも…」

「俺も話した事ないんだよ!でも良い機会だから、連れてきてあげる」

「………は?」

 行ってくると言って消えたメイナードが、次の瞬間ローブを纏った黒髪の女性を連れて来て驚く。その女性も、俺と同じで、目を見開いていた。

 俺は心の中で、メイナード!!と叫んだ。

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