個人戦3
最近毎回遅くなってすみません!
綾はエメリックを人差し指で、ツンツン突つく。
「正直、どっちが勝つと思う?」
「クロードとメイナード?うーん、クロードも、メイナードもそれほど今の時点ででは消耗してないし…」
「二人の戦いは、持久戦って事?」
「あの二人、実力差はほとんど無いから。お互い、次の試合でどれだけ、体力と魔力を温存できるかが、勝敗を分けるかも?」
「もしかして、クロードの方が不利?『勇者』相手だから…」
綾は、少し不安になってくる。
「そうとも言えないかな。メイナード、最近格上の相手と戦ってないんじゃ無いかな?勘が鈍ってる可能性もあるし…」
エメリックは、うーんと悩みながら呟く。
「母上の相手とか叔父上の相手とかしてる、クロード兄上の方が、有利だと僕は見る」
レイナードは、確信を持って頷く。地獄の訓練を知っているレナードは、それを思い出しながら話しているようだ。
「惚れた女性の前では、格好良い所を見せたいものよ!」
ソフィアが、綾の手をポンポン叩いて、安心するように言った。それを言ったら、メイナードも、妻子の前で張り切っているに違いない。
「怪我が無ければ、良いのですが…」
綾は勝敗の行方よりも、真剣での試合の方が怖いのだ。魔法の迫力も凄いので、試合を見慣れない綾は、下手したら死んでしまうのでは?という不安が消えない。
「即死じゃ無ければ、助けられるから任せて!」
ソフィアの言葉は綾を安心させるどころか、逆に不安が増してしまう結果になった。治癒魔法の精度が上がったら、クロードの役に立てるかもしれない。治癒魔法…もう少し頑張らないと…密かに決意した綾だった。
クロードと『勇者』の試合が始まろうとしていた。綾はフードを念入りに深く被り、ドキドキ高鳴る胸を押さえた。
長剣を構えるクロードに対して、茶色の髪に碧眼の勇者は、銃を持っている。長距離用のライフルを背中に背負い、両方の腰には拳銃があった。
人に向けて拳銃を撃つなど、映画でしか観たことのない場面に遭遇し、綾の心臓は落ち着かない。それが綾の大切な人に向けられているなら、尚更だ。
団体戦では、クロードが勇者の弾丸を防御魔法で防いでいた姿を見ていたのいうのに、綾はやっぱり怖いと思ってしまう。
笛と共に、試合が始まり、両者の攻撃が始まった。綾は祈るような気持ちで二人を眺める。
綾はふと思う。『勇者』は怖くないのかと。国が違えば、武器を持つのが日常な場面もあるだろうが、そんな人は多くはないのではないか?それとも、『勇者』だから、特別なのだろうか?
同じ世界から来た人間でも、国や生い立ちが違えば、理解出来ないこともある。でも…と綾は『勇者』を見る。青年はしっかりとした身体だが、軍人には見えない。それは、ウラール地方騎士を見慣れているからだろうか、訓練された動きではないような気がするのだ。もし…武器を人に向けた事がない人間が、『勇者』に選ばれたとしたら?彼の苦労は、いかほどのものだろう?
「でも、確証がある訳じゃないし…」
あくまでも、綾の想像でしかない。
「アヤさん、どうしたの?」
ソフィアが、綾の呟きを聞いて、訊ねる。
「彼は…元々、戦う事を生業にしていたのではないような気がして…」
「そうね。反応速度も速いし、的確にクロードを狙っているけれど…引き金を引くのを躊躇っている気がするわ…クロードも戸惑っている気がするもの…」
ソフィアが頷く。その言葉に、綾の想像があっているのではないか?との思いを綾は強めた。
「私…自分の事に精一杯で…彼等の事、真剣に考えた事が無かったなと…」
「物理的に距離があったから、仕方ない部分もあると思うわ」
「………そうですね」
試合は見慣れない武器である銃と魔法の応酬で、中々に盛り上がっているが、その中でクロードが動いた。
踏み込んで、一瞬で勇者の目の前に距離を詰めたクロードは、剣先を喉元に突き付ける。少しでも動けば、血が流れる緊張感の中、勇者は手を上げて「負けました」と敗北宣言をしたのだった。
両者が傷付かずに済んで、綾はほっと胸を撫で下ろした。