個人戦2
毎回遅くなって、すみませんっ!
第一試合のクロードは圧巻だった。カトラル地方騎士団の団長相手に、魔法でも剣技でも圧勝したのだ。相手の攻撃の大規模魔法の迫力は凄いが、クロードはことごとく相殺して無効化してしまう。そして剣技でも圧倒し、あっさりと相手の喉元に切先を突きつけ、ピタリと止めたのだった。
試合終了の合図の笛が鳴る。綾が安堵から溜息を吐くと、隣のエメリックがくつくつと笑う。
「息止めてたでしょ?」
「だ、だって…」
「綾さんは戦いを見慣れてないもの、無理もないわ」
「てっきり模擬剣だと思ってたので、真剣だとは思わなくて…」
クロードが試合で使った剣は、普段から彼が愛用しているミスリル製の、長剣だったのだ。何故知っているかというと、綾が工具を片手に『刃こぼれだらけにしてやる!』と、ブチギレた時に見たからである。今思うと、懐かしい思い出だが、当時は工具を守ろうと必死だった。
「あらあら、そこだったのね」
「実力者なら、手加減出来るのは当たり前だよ。普段から剣の指導もしているからね」
エメリックはそう言うと、クロードを指差す。クロードが丁度こちらを見ていたので、綾も他の歓声に負けにように、必死になって声援を送り、手と旗を振った。
クロードが笑ったような気がして、綾も自然と笑顔になる。私の彼氏、世界一かっこいいかも!と心の中で叫ぶ。
綾に向かって、クロードが何か言った。
「次も勝つ?」
ふふふ、とソフィアが笑いながら、確かにそう言ったわね〜と扇子で口元を隠す。
「『勇者』にも、負ける気はないようですね」
綾は頼もしいクロードを、誇らしく思う。
「私の子だから、当然よ!」
誰よりも自信満々で、ソフィアが宣言した。
「貴賓席の方々も、楽しんでいらっしゃるようですね?」
ふと視界に入った彼らが気になり、綾はソフィアに話しかけると、ソフィアもそうねと頷く。
「一人、機嫌の悪そうな人がいるけどねー」
エメリックはアゴをクイっとして、貴賓席を指し示す。指差すことが出来ないからだが、そちらの方が不敬ではないだろうか…。良いのか、それで。
「あれが第一王子殿下ですか…」
金髪に青い目をした、これぞ王子!という綾のイメージそのままの容姿の、男性が無表情で座っていた。第二王子や王女、王様が笑顔で話している様子とは対照的だ。
「カトラル騎士団が負けたからよ。うふふ…いい気味」
ソフィアは満面の笑顔を扇子で隠しながら、言い放つ。本当にカトラル地方騎士団と仲が悪いんだなーと、綾は思った。シンディやアンナの話では、失礼な態度をとっているのは向こうらしいので、この反応は仕方ないだろう。
「第一王子殿下の母親の王妃殿下がカトラル地方を治める、アラバスター公爵家のご出身でしたっけ?」
「そうそう、高慢ちきな意地悪女なのよねー。だから子供が第一王子だけなのよ」
敬称もつけずに呼ぶのは、それだけ嫌っているのだろう。
「それ、誰かに聞かれたら拙くないですか?」
ちょっと怖いのですが!?と綾は思っていたが、クリストフやレナードは平然としている。
「ふふふ、ちゃんと防音魔法しているし、唇も読ませないように隠してるでしょ?」
さすがソフィア様、その辺り、抜かりない。
「あ、私口元隠してない…」
気付いて綾は慌てて口元を手で覆った。さっと血の気が引く。
「認識阻害のローブ着てるから、大丈夫よ!」
ソフィアの自信満々の声に、綾は胸を撫で下ろした。
それから、ルウェイン地方騎士団副団長と、王立騎士団副団長のメイナードとの戦いが始まった。ルウェイン地方騎士団は、武門の家であるチェンバレン公爵家が管理しているので、強い。その副団長ともなれば、相当な実力者だ。
それにも関わらず、メイナードは開始数分であっさり勝利してしまったのだ。
「あれは、面倒になって終わらせたな。ちゃんと盛り上げろよなー」
エメリックが、文句を言っている。クロードの試合を考えても、見せ場が足りない気がしたので、綾も頷く。
「あら、クロードとの試合を考えて、体力を温存したんじゃないかしら?可愛いとこあるじゃない」
ソフィアは、ニマニマと笑っている。
「ええー、観客は不満だと思いますけど」
エメリックは、不満顔だ。
「その分、決勝でいい試合にして、帳尻合わせるわよ。あの子、そこそこ要領いいから」
ソフィアの言葉に、なるほど、と綾は納得した。