個人戦1
今回も遅くなりました!
午後からの個人戦は、団体戦よりも盛り上がる。基本的に騎士団の実力者達が出場するので、見応えもあるし、団長クラスの人間の剣技や魔法など、こんな時しか見られないからだ。
トーナメント形式で各騎士団の代表者一名が、戦っていく個人戦は模擬試合の最大の見せ場だった。今回は特別枠として、『勇者』も出場する予定だ。
「『勇者』はシード権があるんだね」
「今回七人だからね。普段は持ち回りで、各騎士団から選ばれて八人で戦うんだよ」
「戦う相手とかって、抽選?」
「普段はそうだけど…これは…ねぇ?」
エメリックがそう言いたくもなるくらい、作為的なものを感じるトーナメント表を綾は見る。クロードは、二回戦に『勇者』と戦うことになっている。そして王立騎士団のメイナードが順調に勝ち残れば、決勝でクロードと戦う事になるのだ。
「なんか『勇者』が気の毒になってきたよ、俺」
「なんか、兄弟対決観たい人の、意図を感じる気がするね…」
綾もエメリックも、クロードが『勇者』に負けるとは、疑ってすらいない。決勝の兄弟対決は予測出来ないが、『勇者』ならば勝てると思ている。
いくら才能や魔力があっても、それを生かし切れるかどうかというのは、別の話なのだ。綾だって、変形魔術や回復魔術には、相応の時間を費やした。でも、まだまだ他の人には敵わない。異世界に来て半年程しか経っていない異世界人が、いくら『勇者』と言えども太刀打ち出来るとは思わない。日頃の積み重ねが強さに関係するのは、ウラール地方騎士団を見ていれば感じられる。彼らは平民が多いが、それにもかかわらず、強い。貴族程魔力は多くはないが、その精度や体力、何より戦いの経験が強さを作っているのは間違いないのだ。
経験が、その積み重ねが、揺るぎない自信となって、そこに強さが宿るのだと綾は思う。
クロードのお弁当は奇抜さを出さないように、おにぎりではなくサンドイッチにした。勝利に勝つ!という意味で、カツサンドだ。たまごサンドも入れて、コールスローサラダもつけた。
水筒には、最近のクロードのお気に入り、綾の減らないコーヒーである。魔素が入っていないのに、クロードはそれが良いとリクエストしたのだ。
「ちゃんとお弁当食べてくれたかなぁ…?」
「お昼休みぐらいあるって」
「そりゃそうだけど」
「可愛い彼女のお弁当食べて、気合い十分じゃない?」
エメリックがニヤニヤしながら言ってくるので、綾は頬が赤くなるのを自覚しつつ、そうですねーと返事を返す。視線を闘技場に向けると団体戦で使用した的はすっかり仕舞われて、サッカーのフィールドぐらいの大きさの、石の舞台が広がっている。
「そう言えば、試合って勝ったら何か貰えるの?」
賞金とかあるんだろうかと綾は疑問が浮かんで、エメリックに訊ねてみた。
「団体戦は賞金とトロフィーだな。騎士団の部屋に飾られてるよ?」
「そうなんだ。個人戦は?」
「陛下からのお言葉と、その時の陛下の気分で決められるんだって」
「き、気分?」
王様の気分って…?と綾は疑問が浮かんでしまう。
「良い試合の時は、豪華なものが貰える」
「例えば?」
「兄弟対決でメイナードが優勝した時は、個人的に竜貰ってたね。竜舎と世話係付き」
「そ、それは凄いね…って言うか、前の兄弟対決って、メイナード様が勝ってたんだ?」
「そうそう、シェリー様に良いとこ見せたいからって、気合い入りまくりでさー」
闘技場を破壊する威力の魔法の応酬と剣技は、それはそれは激しかったらしい。
「今年の闘技場はソフィア様が作った特別製だし、破壊されることはないと思うよー!客席は流れ弾も弾く防御結界付きだし!出場者は、思う存分戦えると思うよ!」
ソフィア様大好きエメリックは、ガーネットの瞳をキラキラさせて説明してくれた。
「そ、それは凄いね…」
そんな事を話していた時、ファンファーレが鳴り、皆席を立って首を垂れる。王族席に、王族が入場するのだ。そして面をあげよと厳かな声に顔を上げてその姿を見た皆が、息を飲んだ。
王女王子達以外にも、本来来る予定ではない国王陛下まで、入場したからだ。
「試合が気になって、執務が捗らぬ故、来てしまった」
そう陛下がにこやかにおっしゃった。テヘペロって実際はしてないけど、雰囲気がそんな感じだった。王様ってお茶目な方なのかも?と綾は思ったのだった。




