表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/175

昼食にて

 綾達は今、ウラール地方騎士団の、天幕の中にいる。白い天幕の中は、空間魔法のおかげで広々としていた。

 平民達は会場で食事をしたり、屋台近くの簡易テーブルや椅子が置かれている空間で食事をするが、貴族はそうはいかないらしい。綾自身は平民ではあるものの、クリストフやソフィア、レナード、メルヴィルとパメラ、そしてシリウス皇帝陛下は貴族なので、彼らと一緒に食事するなら、このスタイルになってしまうのだ。といっても、ここに居るのは綾達だけではなく、合同演習に参加している騎士達もいる。

 もちろん、広々とした空間できちんとしたテーブルと椅子がある方が落ち着くのは確かなので、綾はありがたいと思っていた。

 

 屋台の料理も良いが、ドニの作ってくれたサンドイッチ弁当は格別だ。野菜のシャキシャキ感とジューシーな肉の旨みを、香草を使った特性ソースがバランスよく調和させている。レナードの作ったスモークサーモンを使ったサンドイッチも、玉ねぎと黒胡椒がアクセントになっていて、クリームチーズの濃厚さを感じる逸品だ。

 もちろん、綾も今日の為にお弁当を作った。重箱の中に、いなり寿司とおにぎり、玉子焼き、アスパラベーコン、唐揚げ、ブロッコリーとプチトマトで彩りを添えて。これぞお弁当という定番メニューは、皆から好評で褒められて、綾は嬉しくなる。ちなみに、重箱はマヴァール前公爵の贈り物である。

「クロードにも渡したんでしょ?」

 エメリックは唐揚げを美味しそうに咀嚼しながら、綾に訊ねた。

「クロードが食べたいって言うから…」

 王族への挨拶がある為、お昼を一緒に食べられないクロードに、綾がお弁当を持たせたのだ。アクアマリンの瞳をキラキラさせて受け取っていたので、喜んでくれていたのだと思う。

 本来ならば保存性を高める為に、お弁当は冷ましたものが好ましいのだが、時間経過のしないアイテムボックスがあるので、温かいものを入れても問題ない。冷ました方が良いものと、アツアツで食べたいものを分けて保存しておいたので、クロードも適温で食べることができるだろう。もしかしたら、クロードも今頃食べているかもしれないと綾は考えながら、団体戦を思い出す。


「チェンバレン公爵家は、武門の家柄だったっけ?ルウェリン地方騎士団と、ウラール地方騎士団の戦いは凄かったですね!最終戦の王立騎士団よりも、凄く激しかったです!」

「ルウェイン地方騎士団も、王立騎士団も新人を出してくるから、気合が入るんだよ」

「それにしても、『勇者』をコテンパンにしちゃって大丈夫だったんですか?」

 忖度しないで、勇者の攻撃を完全に防いだクロードが敵視されないか、心配になって綾はクリストフに訊いてみる。

「新人騎士の鼻っ柱を折る役割だから、問題ない」

 美味しいそうにドニのサンドイッチを食べながら、クリストフは笑う。

「そうそう、特に王立騎士団は貴族の子弟が多いからね。平民出身者の多いウラール地方騎士団に、コテンパンにやられる経験は、良い勉強になるんだよ」

 エメリックも、サンドイッチの山を攻略しながら、何でもない事の様に話す。

「それは『勇者』と言えど、例外じゃない。上には上がいるのを学ぶのも、必要な事だからな」

 クリストフの言葉に、綾は納得する。確かに、自分の攻撃が、全く通用しない相手がいた方が、これから伸びるのだろう。

「それに、ウラール地方騎士団が勝つと、平民が喜ぶんだよ。これを見て、騎士を目指す子どもも多いんだ」

 周りのいる騎士達が、エメリックの言葉に同意する様に頷いた。

「強さというのは、魔力の多さだけじゃない。身体の強さ、しなやかさ、魔法を創意工夫する使い方や、効率も大事だからな」

 メルヴィルも頷きながら、もぐもぐといなり寿司を食べている。フォークに突き刺されたいなり寿司なんて新鮮だなぁと綾は思いながら、ふと感じた疑問を投げかけてみる。

「ウラール地方騎士団が、負けた年もあるんですか?」

「もちろんある!あれはメイナードが王立騎士団に新人として、団体戦に参加した時のことだ…」

 少しの隙を突かれて、的を破壊されてしまったのだとメルヴィルは悔しそうに語った。もうその事が悔しくて、二度と負けないと誓ったらしい。

 その後の訓練は、地獄だったととメルヴィルの見えないところで、中堅以上の騎士達が遠い目をして話していたのを、綾はしっかりと聞いてしまった。…メルさんって、厳しいんだね。普段は穏やかで優しいのに。

「次の年はクロードがウラール地方騎士団に入団したから、団体戦も個人戦も激しい戦いになったな。メイナードとクロードの兄弟対決が激しすぎて、会場を破壊したから、こっぴどく開催地方の領主に抗議されてしまってな…」

 バツが悪そうにメルヴィルは頬をかく。

「それ以降、クロードは団体戦にも個人戦にも、参加していない。だがあの年の兄弟対決は、今でも語り草になるほどだ」

「母上との訓練の方が、もっと激しいけどねー」

 レナードの感想に、ソフィアの視線が鋭くなって、笑顔が深まる。笑顔なのに吹雪が見えます…!

「今回はどうして参加になったんですか?」

 ソフィア達から意識を逸らす様に、綾はクリストフに訊ねる。

「国王からの指名らしい。『勇者』の闘志に火をつける目的かもしれんな…」

「国王からの?」

「ああ、そうだ。有事ではないから、功績があまりなく凡庸だと噂される国王だが、国益を最優先に考える賢王だと、私は思っているよ」

「『勇者』を成長させるため…ですか」

「戦力は、あるに越したことはない。他国への牽制にもなる」

 クリストフの言葉と国王の意図に、綾は同じ異世界人として、モヤモヤと何とも言えない気持ちになった。それがどうしてなのか分からないまま、昼食は終わりを迎えた。

遅くなって、すみませんっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ