団体戦2
試合開始の笛が鳴り響き、いっせいに動き出した領陣営は、接近戦をする者、的を守る者、遠距離攻撃をするの者に分かれた。両者の攻撃は魔法有り、剣などの武器有りで見応えがある。ただ、接近戦の者達は中々的へ進めず、苦労している様に見えた。
と、そこからメイナード率いる遠距離攻撃班が、一気に動いた。接近戦の者達が遠距離攻撃班を守る様に取り囲んだのだ。そして茶髪の青年、『勇者』が動く。
「あれは、銃?」
綾の呟いた声と同時に、的が音を立てて破壊された。『勇者』が銃を構えて的を狙ったのだ。しかもその音は三回連続、辺りに鳴り響いた。どっと歓声が沸き、興奮した話し声が客席に漂う。
試合終了の笛が鳴り響き、前のめりになって見ていた綾は肩に入っていた力を抜いた。
「へぇ、弾丸に魔力纏わせて、相手チームの貼った防御の結界突き破ったんだね」
エメリックが批評して、うんうんと頷く。
「強い結界を難なく突き破るなんて、さすが『勇者』ね」
ソフィアの声は弾んでいる。
「おいおい、うちの騎士団、大丈夫なのか?」
クリストフは眉尻を下げながら、心配していた。
「クロードが、負けるわけないじゃないの」
呆れた様にソフィアが言い、クロードへの信頼度の高さに、綾まで嬉しくなってくる。
「初見じゃなくて、助かったのじゃないかしら?手の内を見せてしまったら、対策されちゃうものね」
「確かに…」
ソフィアとクリストフの会話を聞きながら、綾は闘技場へと視線を戻す。騎士達が退場しようとしていて、綾は何となく『勇者』を見た。目が合った気がして、肩が跳ねる。
「…見てる?」
綾が呟いた言葉に、エメリックが答えた。
「見てるね、ガッツリ。手でも振ってみれば?」
相手からどんな感情を向けられているか分からないのに、そんな事出来るわけがない。綾は、そんな鋼の心臓してないのだ。
だけど隣のエメリックは、勇者に対してヒラヒラ手を振っていて、ソフィアやクリストフもメイナードに向けて、手と旗を振っている。綾も小さく旗を振ってみた。敵意はありませんよー、無害ですよーと気持ちを込めて。
勇者が視界から消えて、綾は一息ついた。小心者なので、勘弁してほしい。
「そう言えば、王族が来るかもって言ってなかったっけ?」
王国騎士団の応援席の一部は、現在無人だった。あの場所が王族の席なのは、綾も一目見れば分かる。
「多分、午後の個人戦には来ると思う。警備の問題なのか、長時間は滞在しないらしいよ?団体戦は魔道具で、別室で見てるんだってさ」
今回は第一王子、第二王子と第一王女が出席するらしい。綾は王族を見るのは初めてなので、少し緊張してしまう。確かに王族が昼ごはんを、観覧席でモグモグ食べたりしなさそうなので、妥当なのだと思えた。ただ、同じ会場内のどこかにはいるのだから、警戒は怠れない。
「エメリック、詳しいね?」
「そりゃ、調べたし。アヤの安全の為にも」
「そうだったの、ありがとう!」
嬉しくて、綾は素直にお礼を言う。エメリックにはお世話になりっぱなしだ。
「クロードから、アヤをよろしくって頼まれたからね!」
「そっか、クロード、心配してくれてるんだね…」
「そりゃあ、もう!本当は一緒に観覧したかったらしいし」
心がじんわり温かくなって、綾は自然と笑顔が溢れた。
「次は、アラバスター公爵家が治める東方のカトラル地方騎士団と、我らがウラール地方騎士団との対決だからね!見逃せないよ!」
エメリックが鼻息荒く言う。
「アンナとシンディも、打倒!カトラル地方騎士団!って言ってたなぁ…」
マーレで知り合った女性騎士達を思い出し、綾は呟く。シンディも模擬試合出るって言ってたし、クロードと一緒に注目しよう。
「ほほほ、今年も完膚なきまでに叩きのめして、ぐうの音も出ない状態に追い込むのよ!」
ソフィアが高らかに宣言したところで、騎士達の入場が始まった。
「あ、シンディだ!」
ダークグリーンの髪を頭の高い位置に結び、切長のオレンジジェードの瞳は、蜂蜜のように美しい。長身のモデル体型を、キリッと黒い騎士服に包んでいて、見惚れるくらいかっこいい。
赤髪のガーランド騎士団長と、ロスウェル副騎士団長も見えた。そして最後に入場して来た人物を見て、綾は鼓動が早くなる。
銀色の髪が風に靡き、アクアマリンの瞳が鋭く前を見据えていた。そして綾と目が合うと、ふっと表情が緩んで軽く手を上げてくれる。綾は嬉しくなって、旗と手を必死で振って、頑張れ!と心の中で叫んだ。
いつもお読み頂きありがとうございます。
来週は仕事の為、2、3日投稿が遅れそうです。気長にお待ちいただければ有り難いです。
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