合同演習 模擬試合1
空には鱗のような雲がかかり、少し秋の訪れを感じさせる陽気の今日は、合同演習の目玉行事、模擬試合の行われる日だ。
数日前から始まった合同演習では、王都と各地方騎士団同士で戦術の連携の確認をしたりしている。飛行従魔部隊の一糸乱れぬ動きを遠目に見学出来たりして、場所取りが加熱したりもするのだ。この合同演習は、夏の終わりを告げる風物詩の様な役割も果たしていた。
だだっ広いこの場は、日頃から騎士団の訓練に使われたり、祭りが行われたりする空間で町から遠過ぎず、近過ぎず程よい距離感だ。土魔法で作られた闘技場は、即席で作ったとは思えない程の規模で、円形の舞台を囲むように、すり鉢状に観覧席が設けられている。男女の可愛い売り子が席を回り、飲み物や食べ物の販売に精を出していた。まるで野球場に来たかのような、高揚感を感じさせる。
もちろん、闘技場の外にも食べ物の屋台が所狭しと並び、大道芸人が様々な芸を披露しては、拍手を浴びていた。
綾とエメリックは屋台を冷かしながら、祭りの様な雰囲気を楽しんでいた。もちろん、綾は認識阻害の白いローブを羽織っている。
「向こうにテントが張ってあるね」
綾は人がごった返す場所からかなり離れた場所を指差す。まるで闘技場を囲むように配置された六つの天幕には、騎士服を着た人達が見える。綾も、視覚強化を短時間なら使えるようになったのだ。
「訓練だから、騎士団の連中は野営なんだよ」
「何か、個性的な色合いのものもあるけど…」
エナリアル王国にある四つの公爵家が治めている地方毎に、色合いが異なる天幕が張られていた。
「白の旗は王国騎士団で、テントも白い。白や緑色のテントに各地方の旗が普通かな…マヴァール公爵家が治めるシスレー地方は青い旗、カルヴァート公爵家が治めるグラント地方騎士団は黄色の旗、チェンバレン公爵家の治めるルウェリン地方騎士団は紫の旗、ウラール地方騎士団は深緑色のテントに同色の旗だよ。これは森で目立たない為だね」
バドレー侯爵家が治めるウラール地方のテントの側には、深緑色のマントに黒の騎士服を着た人達がチラチラと見えた。
「………真っ赤なテントに真っ赤な旗、そして真っ赤なマントに真っ赤な騎士服…」
「それなぁ…アラバスター公爵家が治める、東方のカトラル地方騎士団だな」
エメリックが、ガーネットの目を細めて赤いテントを見ている。
真紅は綺麗な色だが、あまりに多用されていると目がチカチカする。旗は分かるが、テントまで赤い必要があるのだろうか?と綾は疑問に思った。
シスレー地方騎士団の紺色の騎士服は、制服っぽくて落ち着く色だし、黒を基調にポイントだけ濃い紫色のルウェイン地方騎士服は、センスが良いと思う。グランド地方のも、紺色を基調に、ポイントだけ黄色が使われているのに、全身真っ赤なカトラル地方騎士団の騎士服は遠目に見ても目立つ。王国騎士団は真っ白だから、それ以上に目立つが、爽やかさもあるので違和感はない。
「いつ見ても、目に優しくない色だな…」
「うーん、似合う人を選びそうな色だとは思うけど、訓練に支障はないのかな?」
「どうだろう?魔物から隠れようと、してないんだろうね。そもそもカトラル地方は海の近くで大した山もなく平野だった筈だし…だから、魔物が少ないんじゃないかな?」
「なるほど」
まぁ、綾には関係ないので、騎士服の話はそこで切り上げた。
それよりも気になる事がある。認識阻害のローブを着ているのに、綾は視線を感じているのだ。
「やっぱり、見られている気がする」
防音魔法を使って、エメリックにだけ声を届けると、エメリックのガーネットの瞳がきらりと鋭く光る。
「確かに…でも悪意は感じないから、様子見で良いと思う。念の為、一人で行動しちゃ駄目だよ?」
「うん」
エメリックの忠告に、綾は神妙に頷く。
「一応クロードに知らせておくけど、試合があるから行動が制限されると思うし…」
「自衛するから、大丈夫!」
綾は相変わらず攻撃魔法は使えないが、防御魔法の練習は頑張っているのだ。
そんな綾の状態が、どれだけ幸福な事か、この時の綾は気付いていなかった。
先週は投稿出来ずに、すみません!
週一投稿出来るように、少しずつ書いていこうと思います。