献血1
綾はのんびりとした休日を過ごして夕食を食べに食堂に行ったら、エメリックが居たので話しかける。
「もう来てたんだ。早いね」
「騎士団覗いてたら、強引に訓練に付き合わされて、お腹空いた…」
ガーネットの瞳から生気が無くなっていて、綾は目を見開く。
「そんなに体力使ったの?」
「体力より、魔力使い過ぎた感じ。もうすぐ本番近いし、訓練し慣れていない相手で、練習したかったんだって…」
ストイックなウラール地方騎士団は、訓練に気合が入っているようだ。
そんな状態にも関わらず、エメリックは魔力回復薬を使わないあたり、それに対して相当な拒絶反応があるようだ。ドニの美味しい食事と比べたら、まぁ納得は出来る。って言うか、その身体の何処に、大量の料理が入るのだろうか!?謎だ。
でも、この前、無理矢理魔力回復薬を飲まされた恨みは忘れてないけどね!と綾はエメリックを見て思ったが、その疲れた顔に少し気の毒な気もした。
「血、飲む?私、今日あまり魔力使ってないし」
こういうところがエメリックに甘いと言われるのだが、性格なのだから仕方ない。魔力不足の怠さは相当しんどいらしいので、気になってしまうのだ。
「………凄く有難いんだけど、クロードに確認した方が良くない?」
「…気にしないと駄目なの?」
「………じゃあ俺が超絶可愛い女の子で、恋愛感情は無かったとしても、クロードの血を飲んでたら、アヤはどう思う?」
クロードが私以外の女性を膝の上に乗せている様子を、想像するだけで悲しい。
「………それは…ちょっと…嫌かも」
「だよね?クロードもいい気はしないはずだよ?」
「でも、友人関係だし…報告してくれれば、許せる気もする。クロードに報告してみるから待ってて!」
微妙な表情のエメリックに構わず、綾はクロードに伝令蝶を飛ばし満足して頷いた。
「………アヤ、だから…うーん…まぁ、いっか」
嫌だったら言うだろうとエメリックも納得し、肩をすくめた。
取り敢えず、夕食を食べてから献血を行う予定で、テーブルを挟んでエメリックの正面の椅子に綾は腰掛ける。
席について間も無く、マーサが料理を運んで来てくれた。マーサに礼を言って綾とエメリックは料理を受け取る。
今日はチーズインハンバーグらしく、エメリックの瞳に生気が戻ったのを見て、マーサが微笑んだ。もちろんエメリックの皿は、ハンバーグ5段の大盛りだ。ハンバーグの塔から、ソースが滝のように流れている。
「模擬訓練、『勇者』も出場するって、アヤは知ってる?」
モグモグと美味しそうにハンバーグを食べながら、エメリックは綾に話しかける。
「『勇者』…って異世界人だよね?称号を持ってる人だったんだ?」
「そうそう。『聖女』と『勇者』は召喚魔法陣に組み込んであるから、絶対来るんだってさ」
それは綾が、初めて聞いた話だった。対魔王対策っぽいなぁ…と綾は思いながら、他の異世界人に、思いを馳せる。綾の存在は、第二王子公認とはいえ、他の異世界人達と交流を持つのはどうなのか…と疑問に思う。
「私が出会ったら、まずい事になると思う?」
「どうだろう?第一王子とは、出会わない方がいいとは思うけど…」
どうやら綾を探しているらしい第一王子とは、接触しない方が良いらしい。そこは綾も同感だが、同じ会場内にいたら、バレる可能性がないとは言えない。もちろん全力で回避する気満々だが、あちらは王族…平民である綾が対処するには無理がある。
「認識阻害のローブを用意してくれるって、クリストフ様が言ってたんだけど…それで何とかなるのかな?」
「それ、ソフィア様が魔法掛けてくれたやつの事だと思う。その辺の魔法使いじゃあ、見破れないと思うよ?」
魔法の精度や格が違うらしく、同等の魔力と知識を持った人物にしか見破れないらしい。…それって、実質高位魔族数人しかいないのでは!?
「そう言えば、シリウス様から預かってるボタン…異世界人に渡してくれって言われてたっけ…出会う事があればで良いって言ってたけど…」
出会ったら彼等に対して、どういう感情を抱くのか、綾は分からない。
「機会があれば渡せば良いし、なければそれで良いって事だよ。気負う必要は無いって」
「………そうだよね」
そう綾は言ったものの、段々気になってくる。
「…でも、彼等って、幸せに暮らしてるのかな?目的も無く召喚された身の上だからこそ、戸惑う事も多いんじゃないかな?」
綾は、クロードから聞かされて、この召喚が第一王子の独断だと知っている。クラデゥス帝国との和平が成立した今は、不必要なものだったのだ。
綾自身は、クロードを筆頭にバドレー領の皆に会うために召喚されたのだと思えば、受け入れる事ができたけれど…彼等は?
「………そうかもね。受け入れるのにも、時間は必要だろうし…」
エメリックも、彼等に同情的な感情を持っているらしい。
「この世界で、大切な人を作って生きて行こうって覚悟は、多分簡単に出来ることでは無いと思う。私は周りに恵まれていたけれど、彼らは違うかもしれないし…」
綾は環境に恵まれていた。だけど、そんな綾ですら納得して受け入れるまで、時間はかかったと思う。
未知だからこそ怖いものだってあるだろう。その未知を埋めてくれる誰かが、信用出来る人かそうじゃ無いかで、違ってくるのかもしれない。
未知の事は知りたい。でも、それが本当の事か知る事は、多分異世界人である自分達は、難しい。性格が慎重なほど、信用出来る相手かどうかが重要なのではないかと綾は思う。
どうか、彼らの心が、平穏でありますように…綾はこの世界の神に祈った。
食事が終わる頃、クロードから綾へ返事が来たが、エメリックへはクロード自身が血を与えるから、綾はしなくて良いと言う内容だった。拒絶って事で良いのかな?もしかして、嫉妬?
そしてその数分後、クロードが階段を降りて、食堂にやって来た。どうやら綾の部屋の魔法陣を使ってやって来たらしい。
「やっぱりね、想定内!」
と言って、エメリックは可笑しそうにクロードを見て笑う。
「さっさと終わらせるぞ」
むっとしながらも慣れた様子で、首元を緩めるクロードは食堂の椅子に座る。首筋に噛み付くエメリックに対して、クロードはされるがままになっていた。
どうしよう…男同士でも妬けるんですけど!?綾は複雑な気分のまま、腐女子が喜びそうな絵面を眺めたのだった。
先週は投稿出来ずにすみません!ちょっと色々ありまして…気力が湧きませんでした。
では、また⭐︎あなたが楽しんでくれていますように♪