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ゴロゴロ?

 綾は部屋のドアへ魔力を流し、クロードを招き入れる。

「靴はこのマットの上で脱いでくださいね」

 大人しく従うクロードを見て、綾は思わず笑顔になった。綾の国の文化を理解してくれるのが、嬉しかったのだ。そして靴を脱いで揃えた綾を見て、クロードもそれに倣う。

「………もう二人だけだが?」

 クロードにじっと見つめられて、綾は頬を染めた。

「クロード…お仕事お疲れ様」

 そう言って、綾はクロードに抱きついた。そしてクロードは、満足そうにため息を吐き、抱きしめ返してくれる。森のような香水の匂いに、ふっと力が抜けて綾は安心してしまう。クロードも同じだろうか?と綾は考えてみたけれど、それを言葉にするのは恥ずかしい。


「今日は制服着てるから、着替えて来るね。クロードも上着脱ぐ?」

「うん、ありがとう」

 やり取りが新婚夫婦みたいに思えて、綾はそんな事を考えてしまう自分の浮かれ具合に苦笑する。適当に座って待っててと言い置き、クロードから上着を受け取って、クローゼットに向かった。中は見た目以上の広さがあって、ドレスでも数十着収納出来る大きさだ。空間魔法が使われているらしく、初めて見た時は驚いたが、今はもう慣れた。

 ハンガーにクロードの上着を掛け、綾自身も楽な半袖のワンピースに着替えた。その上からカーディガンを羽織り綾の身支度は終わった。

 本当はTシャツと短パンになりたいところだが、この国でははしたないとされる格好なので我慢している。空調の魔道具のおかげで部屋だけでなく、建物全体が適温に保たれているので、外に出ない限り快適に過ごせるのだ。


 クローゼットから出ると、クロードが寛いでいた。その普段とは違う力が抜けた様子に、ふふっと笑ってしまう。

 クロードが座っているのは、今日チェスターが納品してくれたビーズソファーだ。人を駄目にするアレである。綾がチェスターにこういうものが欲しいと言って、作ってもらったものだった。チェスターは綾の話を興味津々で聞いてくれて、面白いと言って絶対に完成させると約束してくれたものが、とうとう出来上がったらしい。

「気に入った?」

 伸縮性のある生地選びなど、妥協しないで作ってもらった甲斐があったと思いながら、綾はクロードのそばに近寄る。そして、その傍らに座った。

「これがチェスターが言ってたものなんだな…話に聞いていた印象よりいいな…」

 ふにふにとソファーを触りながら、クロードが呟く。

「もしかして、これがあったから部屋に来たかったの?」

「いや、それもあるが………チェスターが…呼び付けてばかりいないで、自分から行った方が良いと言うから…。久し振りに食べたが、ドニが作る食事も良い。父上が、こっちでばかり食事するのも理解出来る」

 クリストフは、昼食も、夕食もこちらで摂ることがい多いが、それはドニの食事を気に入っていたかららしい。

「私は、領城の料理人達が作る、料理も好きだよ?毎回、結構楽しみにしているくらい…」

 ドニの料理は家庭的だが、領城の料理人の料理は洗練された印象を受ける。町の定食屋と高級レストランぐらいの違いがあると綾は思う。だが、どちらも美味しいのは、間違いないのだ。

「どっちも、それぞれの良さがあるな…」

「うん、そうだね」


「はぁ、これは良いな。自分の部屋にも欲しいぐらいだ」

 クロードはビーズソファーを、いたくお気に召したらしい。そのうち、注文しそうな勢いである。

「チェスターさんの思う壺だね。ただこれは靴を脱ぐ文化の家の中で使うものだから、こっちの人に受け入れられるかどうかは、分からないよ?」

「ああ、確かに…」

 靴を履いてない方が、リラックス出来る気がするが、使えない事はないだろう。この世界には、便利な浄化魔法があるから問題ないのかもしれない。

「この肌触りの良いラグも、チェスターさんが勧めてくれたんだ。元々はハイハイし出した子供用用品なんだって。綿も入って弾力もあるから、ゴロゴロするのに向いてて良い感じ」

「ゴロゴロか…」

「クロードは、しなさそうだね」

 思わずくすくす笑ってしまう。

「いや、ベッドでゴロゴロはするぞ?」

「ふふ、そっか」

 そういう姿も、見てみたいと綾は思った。

「アヤも一緒に座らないか?」

「それは、一人用だよ?」

「こうすれば良い」

 クロードがそう呟いた途端、綾の身体が浮き上がり、クロードの膝の上に座っていた。しかも向かい合う形で。

「え、魔法?」

「アヤは、いまだに初歩的な魔法でも、使うと驚くんだな?」

「そりゃあ、魔法のない世界から来たから…」

 それよりも密着度とか、格好とか凄く恥ずかしいんですけど!?と抗議の視線を向けて見たが、蕩けるような笑みが返ってきただけだった。


 嬉しそうなクロードに負けて、綾もクロードの身体に身を委ねた。その日はふたりでゴロゴロしながら、唇を重ねてを繰り返しながら、たわいの無い話をしたのだった。

 癖になりそう…と呟くクロードが、次の日自分用にラグとビーズソファーをチェスターに注文したのは、言うまでもない。

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