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それぞれの思惑1

 クロードは、普段通りを装いつつも、浮かれていた。

 もの凄く分かり難いが、長い付き合いのアルフィーには、ちょっと引くほどの浮かれ具合なのが丸分かりだった。クロードにとって綾は、初めての恋人なのだから致し方ないとは思う。仕事が捗らないなら苦言を呈するところだが、逆に凄い勢いで捗っているので恋の力は偉大だなぁと、アルフィー自身も妻子との時間を作るために効率よく働いている自覚があるので、気持ちが凄く分かるのだ。


「メルヴィル様が、引くぐらい訓練に気合が入ってるって言ってたけど…」

 執務室での休憩中、二人だけで話す時に使う崩した口調でアルフィーは訊ねた。

「合同演習の日が迫っているから、当然だろう?」

 紅茶のカップを傾け、優雅な所作でクロードはそれを口に含む。

「良いところを、見せたいだけだろ?」

 アルフィーは誰にとはあえて言わないが、クロードは察して少し頬を染めた。こういう素直なところが、アルフィーは友人として良いと思うのだ。

「…アンクレットを受け取ってくれるのだし、アヤに無様な様子は見せたくない」

 呟く様なクロードの声音だったが、アルフィーはしっかりと聞き取れた。付き合うことだけでなく、プロポーズまでしたのかと、アルフィーは驚いた。

「アヤさんって、アンクレットを受け取る意味、理解してる?」

 ふと、疑問を口にするアルフィーに、クロードは怪訝そうな顔をする。

「だって、常識………………あ…」

 今気付いたというように、クロードの目が見開かれた。綾にとって、この国の常識が、常識でないことに、今思い至ったからだ。そしてクロードは分かりやすいほどに、青褪める。アクアマリンの瞳が、揺れて動揺している様子が手に取るように分かった。

「説明しなかったのか?」

「だって、そこまで…頭が回らなかった………」

「浮かれてたんだから、仕方ないか………でも、説明しといた方が良いぞ?」

 先程までの浮かれた気分は何処へやら、すっかり落ち込むクロードを気の毒に思い、アルフィーはクロードの肩を叩く。

「恋人としては、認めてくれてるんだろう?アヤさんが結婚しても良いと思える男に、なればいいだけさ」

 アルフィーもなりふり構わず、エリスに何度もプロポーズしているので、一回断られたくらいで諦める事はないと笑う。

「………そうだな」

「合同演習で良いところを見せたら、惚れ直してくれるかも?」

 ウラール地方騎士団にとっても、バドレー領にとっても大切な試合なので、クロードがやる気になってくれないと困るのだ。

「……そうだな」

「仕事を早く終わらせて、アヤさんとの時間を作るのが、良いんじゃないかな?」

「そうだな!」

 アルフィーはふっと、目の前の銀髪の人物を見て笑う。アクアマリンの瞳が、生気を取り戻しているのを確認して、クロードの前に追加の書類を置いた。

 領主をやる気にさせるのも、秘書官の仕事なのだ。



 そんなやり取りが執務室で行われていた頃、綾はぐるぐるとエメリックの言葉の意味を考えていた。と言っても、考えても答えは出ず、仕事に集中して考えないようにしてしまうという結論しか出ない。

 今綾は、大事な書類を届けるようにクリストフに言われて、何ヶ所か領城内の部署を回っている。財務部と総務部、魔道具開発や調薬をしている錬金部、医療部、建築部など、回るだけでも大変だった。魔法の手紙があるにも関わらず、綾に頼むぐらいなのだから、よっぽど大事な用事なのだろうと察することが出来る。必ず責任者に渡すように言われているので、そういう事なのだろう。

 格好もいつもと違い、ちゃんと制服を着て、所属を表す濃い紫のタイを締めている。ロングスカートだが足にまとわりついて動きにくいという事もなく、軽くて歩きやすい。ただカッチリとしたジャケットは、普段の綾の仕事には向かないだろう。

「騎士団は最後でいいとして…次は営業部?って、ウラール地方の商品の宣伝とかしてるんだねぇ…税収に関わるんだから、当たり前か…」

 地図を確認しながら独り言を呟く。廊下の途中立ち止まり、書類の入っている封筒をアイテムボックスから取り出していたら、声を掛けられて振り向いた。

「アヤさん、珍しいですね」

 そこには笑顔のチェスターが立っていた。

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