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収穫祭3

 綾の背中に回されたクロードの腕が緩んで、綾は顔を上げた。クロードが鐘を気にしているので、もうすぐ鳴る時間なのかもしれない。もう少しこうしていたかったが、さすがの綾も恥ずかしくて口に出来なかった。

「アヤ、鐘が鳴るから降りる。掴まってくれ」

 綾はクロードの言葉が不可解で、キョトンとした顔をしていまう。

 その次の瞬間、クロードは綾の膝の後ろに腕を回され抱き抱えられた。いわゆるお姫様抱っこである。

「しっかり掴まって」

 綾は頷くと、クロードの肩に抱き付いた。見た目以上に、がっしりとしていて逞しいなと感じながら。

「行くぞ」

 そうしてクロードは、手すりに足を掛け何も無い空間目掛けて飛び降りた。綾は驚いて、悲鳴をあげそうになるが、実際には頬が引き攣って言葉が出て来なかった。

 風が吹いて、ふわりと着地したクロードは、そっと綾を床に立たせる。綾はドキドキしながら、ほっと息を吐き出した。

「飛び降りるなら、一言言ってください!」

「…降りると言ったが?」

 クロードは、綾の言葉に不思議そうな顔をする。

 いやいや、階段使わず降りるのって、この世界の常識なの!?と綾はカルチャーショックを受けた。風魔法があるから、実際は危なげない感じだったけれども!紐なしバンジーは勘弁して欲しい綾だ。

 むくれた綾の態度に、クロードは不安そうだ。そんなところも可愛く思えて、綾は我慢出来ずに笑ってしまった。笑った綾をほっとした顔で見つめるクロードを見て、さらに笑ってしまう。綾から見ると結構分かりやすいが、他の人はもっと表情豊かなので、堅い印象になってしまうのかもなぁと、綾はクロードを見て思う。

「やっと笑ったな」

 クロードのアクアマリンの瞳が優しげに細められて、綾は今度はキュンとした。多分、今日は普通に笑っていたと思うが、心から笑ったのは久し振りかもしれない。…本当に私の事をよく見ているのだな…と思って綾は胸が温かくなった。


「…私は君の抱える寂しさの全てを、埋めてやる事は出来ないけれど、これから一緒にいる事で少しだけでも、それが埋まれば………」

 綾は泣きそうなくらい熱い気持ちを言葉に出来ず、その代わりに自分からクロードに抱き付いた。クロードの腕が綾の背中に回される。

「ああ、もうすぐ鐘が鳴る」

 クロードはそう呟くと、大きな手で綾の耳をふわりと覆った。鐘の音が遠く聞こえる。もしかしたら、何かの魔法で音が小さく聞こえるのだろうか?そう思って、目の前のクロードを見上げた綾は、そのアクアマリンの瞳の中に、熱を感じた。ドキリと心臓が跳ねて、思わず視線を下げた綾は、もう一度そろそろとクロードを見上げる。もう一度アクアマリンの瞳と目が合って、次は捕らわれたように視線を逸せなくなった。熱を帯びたアクアマリンの瞳の中に、綾自身がいる。

「………あ」

 と思った時には口付けられていて、柔らかい感触を感じながら綾はそっと目を閉じた。二人だけの空間は甘くて、遠くで響く鐘の音さえ意識の外に行ってしまう。欠けていた何かが、埋まるような…満たされた気持ちをなんと呼べば良いのだろう………。

 この人に出会うために、ここにやって来たのかもしれないと、心からそう思えた綾だった。



 いつの間にか、鐘は鳴り止んでいて、二人は穏やかな静寂の中に居た。唇を離した後も二人は抱き合っていて、お互いの衣擦れの音がやけに新鮮に聞こえる。

 クロードの腕が緩んで、綾はクロードの腕の中からアクアマリンの瞳を見つめた。蕩けそうな甘い視線を直視出来なくて、綾は自分の顔に熱が集まっているのを自覚する。手で頬を冷やしていたら、クロードがふっと笑う気配がした。

「君にネックレスと、……アンクレットを贈っても良いだろうか?夜会のものとは別で、普段から身に付けられるものを…」

 照れた様子のクロードが、綾に提案する。自分だけが恥ずかしいのではなかったのだ、と思えば綾は少し落ち着く事ができた。

「嬉しいです。私からも贈っても良いですか?」

 ここで彫金師としての血が騒いでしまうのは、綾らしいだろう。

「では、君の色を贈ってくれ。やはり君の髪は黒の方が似合う」

 クロードが赤髪のウイッグの毛先を、弄びながら言う。綾は、本当の自分の髪色が褒められて嬉しくなり、笑顔で頷いた。


 その後の二人は、目一杯祭りを楽しんだ。食べたり踊ったり、服が花だらけになったのを笑ったり…。

 顔が割れているクロードは、早々に正体がバレてしまったりしたが、クロードと楽しそうに過ごす綾にも皆は好意的だった。

 その後城下町で綾の噂が駆け巡ったのは言うまでも無い。

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします♪

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