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収穫祭2

 綾がクロードに手を引かれてやって来たのは、見上げるほどに高い八角形の時計塔だった。

 時計塔は大通りから外れた場所にある背の高い建築物で、決まった時間に鐘が鳴る様になっている魔道具でもある。この塔への立ち入りを許されているのは、管理している人物と、領主一族だけなのだとクロードは言う。

 クロードが扉に魔力を流すと、ガチャリという重い音で解錠される。中はひんやりと涼しく、長い螺旋階段の手すりは曲線と幾何学模様が同居する見事な細工で、趣があった。


「登るのは大変だが、ここからの眺めは絶景なんだ。無理なら背負うが…?」

 クロードが親切心から言ってくれているのは分かるが、綾にも人並みの羞恥心はあるので心から遠慮したい。

「いえ!歩けます」

 階段で手を繋ぐのは逆に危ないので、手すりを持って階段を登って行く。手を繋げなくて少し残念に思ってしまった綾は、自分の気持ちを自覚せざるを得ない。………ずっと気付かないふりをしていたのに、二人で居ると意識してしまう。…私は………どうしたいのだろう?


 クロードは時々心配そうに振り返りながら、綾がついて来ている事を確認していた。

 頂上近くになると…息を乱しているのは綾だけで、クロードは涼しい顔をしている。でも、インドア派の彫金師の綾には、この階段はキツくて当たり前なのだ。クロードをはじめ、体力お化け達が綾の周りに多いだけである。

「………あと少しだが、大丈夫か?回復魔法をかけようか?」

 心配そうなアクアマリンの瞳を見つめ返して、綾はハッと気付く。

「ああ、その手があった!」

 魔法が生活に染み付いていない綾は、咄嗟に使うべき魔法が思い浮かばないのだ。そこは、この世界の住人と魔法のない世界で育った綾との差違だろう。

 綾は自分自身に回復魔法をかけ、息をついた。魔法が上手くなったと、クロードに褒められて少し照れる。


 相変わらず、変形魔法以外の魔法は、ポンコツな綾だ。怪我や疲れを感じた時の回復魔法と、ドライヤー代わりの風魔法は最近、特訓の成果もあって何とかモノになっているが、それ以外はからきしである。火魔法はや水魔法は、弱い威力のものは問題なく出せるが、威力が大きいと恐怖心から上手く扱えないのだ。必要に迫られれば使えるようになると、エメリックやソフィアは言っていたが。

 ソフィアの指導のもと、最近魔法陣の勉強を始めた綾だが、転移魔法陣の解読に苦戦していた。言葉と記号の組み合わせは、まるでプログラミングのようだと綾は思う。そんな話をクロードにしていると、頂上に到着したようだ。


「手すりはあるが、気を付けて」

 当たり前のように差し出されたクロードの手が、綾は嬉しかった。…それが子供扱いだとしても。

 綾はクロードの手を握って上を見上げた。そこには大きな鐘があり、外から見える時計と連動して、時間を知らせてくれるようになっていた。領城は別として、町には時計塔以外に高い建物は、五階建てくらいのものしか無いので見晴らしが良い。

 青い空、緑の森、収穫後の麦畑…整然とした町並み、それらを一望出来るこの場所は、まさにとっておきだった。

「………綺麗ですね」

 そんな言葉しか出てこなかったが、綾は景色に魅入っていた。

 元の世界とは大分違う…自分の住んでいる場所が異世界なのだとしても、ここには確かに人の営みがある。綾がこれから日々を過ごし、人々と交流していく世界が広がっているのだ。

「私は、悩んだりするとここに来るんだ。少し気持ちが軽くなって前を向けるから………」

 クロードの言葉が、綾の心に沁みた。

 私は………この不器用な気遣いをする…この人が好きなのだと、綾は心から思う。感情の揺れを如実に表すアクアマリンの瞳は、今、真摯に綾を見つめていた。


「………これは…言うべきか迷ったのだが…君は元の世界で、死ぬ運命だった」

 そこで綾は、召喚者達が元の世界で死ぬ運命だった事をはじめて知った。クロードは丁寧にシリウスが見た事を、綾に伝えてくれる。

 そこでやっと、綾は理不尽だと思っていた自分の運命を受け入れられたのだと思う。ただ、やはり悲しくて、涙が綾の頬を伝った。


「………それでも、その命が終わらず、ここに来てくれた事を、私は嬉しく思っている」

 手を繋いでいない方の手で、ハンカチを差し出すクロードから、綾は素直にそれを受け取った。

「…君が戻れない事を知っていて、こんな事を話す私は狡いのだろう。だけど、私はアヤが好きだし、許されるなら抱きしめたいほど、愛しく思っている」

 クロードの手が綾の手を強く握る。揺れるアクアマリンの瞳から、綾は目を逸らす事が出来ない。

「私では足りないか?」

 綾は首を振って否定する。

「…私も、好きだけど…」

「けど?」

「多分私の方が、色々足りない…と思います。それでも良いですか?」

 綾はクロードに伝わるように、言葉を紡ぐ。恥ずかしさから、思わず目を逸らしてしまった。

「私は、君が良い」

 繋いでいた手が離されたと思ったら、綾はふわりと抱きしめられていた。彼の腕の中は、温かくて森のような香水の匂いがした。

先週は投稿出来なくてすみませんっ!

照れて書けなかった、ヘタレな私です!

では、また⭐︎あなたが楽しんでくれていますように♪

良いお年を!

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