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過去と不安1

 幸せな気持ちで眠った筈なのに、綾の目覚めは最悪だった。

「………はぁ!」

 目覚めて見慣れた天井で夢だと気付き、綾は安堵の息を漏らす。のそりと半身起き上がると、顔を手で覆う。だが、いまだに鼓動は早く、寝汗で肌が冷えて、ふるりと震えた。

「………やだ、もう…」

 一番思い出したくない出来事の夢だった。異世界に来て、この夢は見ていなかったのに…と思わず唇を噛む。知らない間に涙が流れていた様で、それを手で無造作に拭うも、今度は手の方が震えていて、ぎゅっとタオルケットを握りしめた。

「…大丈夫………大丈夫…」

 ベッドの上で膝を抱えて綾は目を閉じて呟く。この夢を見た時は、大丈夫という言葉を呟いて、いつも落ち着くのだ。少しずつ、少しずつ呼吸が正常になり、震えがおさまってきた。心臓の音が正常に戻ると、綾はやっと顔を上げる事が出来る。

「…何時かな?」

 カーテンの隙間は明るくないので、まだ夜中だろうか…と思いながら枕元の時計をみると夜中の三時で、綾はくまたんっ⭐︎を握りしめ、もう一度ベッドに潜り込んだ。今度は怖い夢を見ない様に祈りながら…。



 朝、その後は怖い夢を見る事なく目覚めた綾だが、少し身体に怠さを感じた。怖い夢のせいで、睡眠時間が削られたせいだろう。だが、ちゃんとした社会人の自覚がある綾は、少しの不調程度で仕事を休む事はない。いつもの様に身支度を整えると、階段を下り食堂へと向かった。

「おはようございます」

 ドニとマーサに挨拶をすると、厨房から野太い声で挨拶が帰ってくる。

「アヤさんおはよう!」

 そしてマーサがいつもの柔和な笑顔で、挨拶を返してくれる。綾は二人の声に元気を貰いながら、席に着いた。

「アヤ、おはよう〜」

 エメリックがいつもの様に眠そうに階段を降りてくる。それに挨拶を返しながら、綾もあくびをしてしまう。エメリックのあくびが移った様だ。

「あれ?アヤ、よく眠れなかったの?」

 ガーネットの瞳が綾を見つめたまま、見開かれる。

「ちょっと怖い夢見て、夜中に起きちゃったから…」

「ああ、あるよね!俺も忙しい時は、宝石に追いかけられてる夢見るよ?仕事関連の夢見ると、ゾッとするよね」

 そう言いながら、綾の向かいの席に座ったエメリックは、マーサが運んできた二人分の朝食に目を輝かせていた。今日の朝食も大変美味しそうだ。

 宝石に追いかけ回されたら、確かに怖いかも知れない…綾は納得しつつもエメリックのいつもと同じ態度に安心してしまった。

「明日は静の日だし、今日乗り切れば休みだから頑張るよ」

 綾は気合いを入れる様に、エメリックの前で宣言した。

「無理しないで良いんだよ?俺たちの仕事って、集中力が要る仕事なんだからさ」

 少し心配そうな目で綾を見るエメリックに、心が温かくなりながら笑い返す。

「本当に大丈夫だよ。エメリックと話してると元気出るし!」

 綾はドニ特製の朝食をゆっくりと味わって、エメリックとの会話を楽しむ。私の日常はここにあると、確かめる様に…。



 問題なく一日の業務を終えた綾は、一度伸びをして更に作業机に向かっていた。ここからは仕事ではなく、趣味の時間だ。

 不良真珠を半分にカットして綺麗な面だけボタンに加工したいと思っていたのだ。もちろん本物ではないが、綾のいた日本では真珠っぽいボタンは珍しくもないものだった。だが、ここで真珠は希少性が高くアクセサリーに加工されるものばかりだ。大きさも不揃いなので、今までボタンに加工しようとする人が存在しなかったらしく、綾自身も見たことがなかった。でも、無ければ作りたくなるのが、彫金師の性なのだ。しかも使うのは不良とはいえ、本物の真珠。これで良いものが出来ないわけがないと、綾は思う。

 女性用に華やかな花の様なボタンと、男性用にはシンプルなデザインを考えて、綾は変形魔法で形を作っていく。手作業も好きだが、変形魔法のコントロールも上達している綾は、早く出来る魔法を使っての作る作業が楽しくて仕方なかった。細かい作業は訓練にもなるので、一石二鳥である。

「これ作ったら、エリスさんとパメラさんにあげよう!あと、クリストフ様でしょう?ソフィア様とレナード様、もちろんクロード様は外せないし。エメリックとダリアさんに、ジルさん、メルさんもお世話になってるし…マーサさん…ドニさんは受け取ってくれるかな?クロちゃんは、白い真珠は嫌かなぁ…?」

 思っていたより多くなりそうなので、綾は不良真珠の在庫を確かめる。あまり使い道がないと綾は不良真珠を沢山貰っていたので、十分足りそうで安心した。


 綾は黙々と作業を続ける。集中した時の綾は、周りが見えなくなるのだ。だから…油断してしまったのだろう。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

投稿が遅くなったりして、ごめんなさい!広い心で待っていてもらえると、嬉しいです!

ではまた⭐︎あなたが楽しんでくれています様に♪


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