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綾が選ばれた理由

「私明日から領城の寮に戻るんですけど、ラム君とのダンスの練習ってどうなるんですか?」

 綾は心配になって訊いてみた。自分の為に移動してもらうのも、申し訳ないとの思いからだ。

「僕も普段は領城にいるから、問題ないよ!」

「え、そうだったんですか?」

 ラムの意外な答えに、綾は目を丸くする。今まで領城内で出会った事が無かったからだ。

「普段は図書館で、メルの助手をしてるんだ」

 自慢げに胸を張るラムは、その仕事に誇りを持っているのだろう。楽しそうで何よりである。

「ああ、メルさんの!大きな図書館なのに、司書の方が少ないから気になっていたんですよ」

「司書はメルを入れて数人だけど、ゴーレムがいるから問題ないよ?」

「ゴーレム!?」

 ゴーレムって錬金術師が作る、アレだよね?と内心驚きながら、綾は図書館内の様子を思い出す。

「あれ?見た事ない?そこら辺に配置されているよ?」

 不思議そうな様子で綾を見つめるラムは、首を傾げる。そして綾は、あ、と思い出した。

「……もしかして、あの等間隔で置いてある、埴輪みたいな置物がゴーレムだったり?」

「ハニワ?が何か分からないけど、赤土色の置物がそうだよ」

 微妙に違う埴輪によく似たアレが、ゴーレムだったらしい。綾は動いている場面を見た事がなく、本気で驚いた。

「アレ、動くんですか?」

「もちろん!働き者だから、問題なし!」

 人手不足を勝手に心配していた綾だが、そういう事なら安心だ。本って、嵩張るし結構な重さがあるので、女性の司書の方はキツイだろうと綾は思っていたのだが、ラムの話によると、そういう持ち運び作業は殆どゴーレムが受け持っているのだとか。

 凄いな!ゴーレム!今度ゴーレムに話しかけてみようかと綾が本気で考えていたら、休憩が終わった。


「ちょっと分身体なしでやってみようか?」

「はい」

 綾は記憶を辿り、ステップを踏む。少し遅れる場面もあったが、ラムがリードして補助してくれた。こういうさり気ない気配りが出来る相手だと、パートナーも楽なのだと綾は実感する。…クロード様は、どうなのだろう?とアクアマリンの瞳を思い浮かべていたら、ラムの足を踏んでしまって謝る。ラムはスライムに痛覚はないのだと笑って許してくれた。

 いけない、集中集中!とクロードの事を頭から追い出し、ステップを踏んでいたら、姿勢が悪くなってるとラムに言われて、自分の運動音痴具合に落ち込む。

「アヤ、初日にしては、進んでいるから安心して?」

「…はい」

 アヤが落ち込んでいるのを見て取って、ラムが女性の姿になるとお手本を踊ってくれた。女性版ラムは、アヤと身長が同じくらいなのですごく参考になる。優雅で気品もあって、凄く素敵だ。綾は早くあんな風に踊れるようになりたいと思った。

 それに、変幻自在に姿を変えられるって、スライム凄い!スライムには性別はなく、分身して増えるのだそうだ。

「この分身体も、暫く離れていたら、別の自我が育つのですか?」

さっきまで綾に張り付いていた分身体のスライムを突きながら、綾はラムに訊ねる。

「うん。今は意識が繋がっているから僕に従順だけど、意識を切り離すと別個体になるよ」

「へぇ、凄いんですねぇ」

 ………アレ?ちょっと、気付いたらのだけれど…。


「ラム君が女性の姿になって、クロード様のパートナーになれば良いのでは?」

「……あ、気付いた?」

 ラムがニンマリと人の悪い笑みを浮かべた。

「気付いたって、え?そういう案もあったって事ですか!?」

 綾は目を見開く。

「まぁね」

「え、私必要無いじゃないですか!?」

 綾は、今日の訓練の必要性に疑問が浮かぶ。

「でも僕、従魔とは言え魔物だし?失礼な相手を、酸で溶かしちゃうかもしれないし?」

 ふふっふふふと笑うブルートパーズの瞳に、本気を感じて綾は背筋が震えた。魔物は人間とは違う理の中で生きているのだと、肌で感じる。

 綾は服を溶かされた紳士淑女を想像して、首を振る。アカン、アカンやつや…と脳内で関西弁になりながら、自分が選ばれた理由に納得したのだった。

「クロードをよろしくね!」

「…はい」

 やはり、それ以外の答えは見つからない綾だった。

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