表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/175

寝耳に水の話

 綾は自分が第二王子に確認されていた事など何も知らないまま、次の日を迎えた。朝食の席で聞かされた時は、数秒固まったが知らない間に終わったのだと思えば、悪くないかと綾は前向きに捉えてパンを口に運ぶ。焼きたてのパンはふわっとモチっとしていて、今日も美味しい。

 綾の食生活は半分和食、半分洋食が占め日本にいた頃と変わらずバランスが良い。中華料理も作りたいが、材料が足りないのであまり作っていない。誰かオイスターソースをください!

 とそんな感じに衝撃の事実を受け流していると、レナードが口を開いた。

「綾は明日から、元の仕事に戻ってもらうことになったから」

「え?まだ先の予定でしたよね?」

「それが、避暑にバドレーの領地を訪れた貴族家から冬の社交シーズンの注文が、予想以上に入ってるらしくて…」

 レナードは苦笑しつつ、肩を竦めて見せる。

「アヤさんを戻すように、クリストフがうるさいのよ」

 ソフィアが補足して説明してくれる。何だか、綾は少し嬉しくなって頬が緩む。猫の手でも借りたい状況なのかも知れないが、少しは戦力として見てくれているのかもと考えてしまうのだ。

「あらあら、アヤさんは嬉しそうね?レナードの相手は、嫌だったのかしら?」

「いえ!そうではなく、必要とされた事が嬉しくて…」

 綾は彫金師なので、彫金師として必要とされるのに喜びを感じるのだ。

「僕も必要と思ってるよ!?」

 レナードが慌てながら綾に言う。

「振られたわね!でも良い頃合いかも知れないわ…クロードが寂しがっているから!」

 ソフィアの言葉に、綾の顔は朱に染まる。いや、冗談だろうけど…と思いつつも、綾もクロードに会いたかった。そう、会いたいと思ってしまったのだ。

 綾は平静を装いながら、黙々と朝食を口に運ぶ。そんな綾をソフィアが可笑しそうに見詰めていた。


「今日の休みは何するの?アヤさん」

 笑顔で綾に問いかけたソフィアは、今日もタンザナイトの瞳が美しい。

「特に決まっていません」

「じゃあ、ダンスレッスンしない?」

「ダンスは得意じゃないので…」

 バリバリの文化系なので、学校の授業でしかダンスなどした事ないので、心から遠慮したい綾だ。

「でも、必要になると思うんだけど?」

「?…彫金師には縁のない技能だと思うんですが?」

「でも、冬の社交シーズンまでに数曲ぐらいは踊れた方が良いと思うけれど?」

「舞踏会への出席予定はありませんよね?」

「だって、今年のクロードのパートナーになってもらわないと…ダリアとジルに悪いもの…」

「へ?」

 意味が分からず困惑を隠せない綾に、レナードは説明し出す。

「父上が爵位をクロード兄上に譲ってから、社交シーズンのパートナーを努めてくれていたのが、ダリアなんだ」

「ダリアさんって、ジルさんと夫婦ですよね?何で、社交シーズンのパートナーなんてやってるんです?適役は他にいくらでもいるんじゃ?」

「クロードは、モテるんだけど…誤解されて面倒な事になるのが嫌だって、譲らなかったの…」

 もしかして勘違いされて、面倒な事になった経験でもあるのかしら?と綾は思いながらソフィアの話に、相槌を打つ。

「それで、ダリアさん…」

 ダリアは娘や孫までいるが、魔族である彼女はいつまでも若々しいし、美人だし、彫金を推しているバドレーの広告塔にもピッタリで、適役なのだとか。


「あの二人も、それが原因で別居してるし…もうそろそろ解放してあげたいのよ!」

 別居!?って普通に寮の部屋なだけじゃ…と綾が思っていたのを察したレナードが、夫婦や家族で使える部屋もあるんだよ?と苦笑した。知らなかった!

「え?あの二人、喧嘩中だったんですか!?」

 いつもにこやかに会話してますけど!?

「喧嘩というよりは、ビジネスな関係とはいえ、他の人のパートナーになるのダリアを、ジルが止めなかった事が原因ね。クロードは女性が苦手だし、仕方ないとジルは譲ったのだけど、ダリアは止めて欲しかったのよ。乙女心は複雑なのよね…」

 そんな話を聞いた後だと、本気で断れない雰囲気なんですが!?

「何故私なんです!?広告塔なんて無理ですよ!」

 ダリアみたいな、ナイスバディな美女ではない綾は、ブンブンと首を振る。

「あら、アヤさんはダリアにはない可憐な魅力があるわ!清楚な雰囲気だし、これから養殖真珠を売り出していきたいバドレーには、ぴったりだと思うわ!」

「でも、クロード様は、誤解されるのが嫌だって…」

 それは、私が誤解されようもないくらい、安全な存在だという事だろうか…。ちょっと自分で考えていて、悲しくなってくる。あれ、何で悲しいんだろう…?


「兄上は、誤解でも何でもされたいと思うなぁ…外堀埋めるチャンスだし?」

 ぼそっと呟いたれなの声は、綾には聞こえてない。

「クロードを助けると思って、引き受けてくれないかしら!?」

 ずいっと前に身を乗り出して、頭を下げるソフィアを前に、綾は頷くことしかできなかったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ