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フレデリックとマークとレナード3

「あ、伝令蝶」

 マークの呟きにハッとレナードが顔を上げると、虹色の光が目に入る。レナードの周りをクルクルと回りながら、文字になった光は。『夕食をアヤに運ばせるので、そこで確認してください。お客様のご家族に、お土産があります。社交シーズンでお役立てください。』

「………僕にって言うより、フレデリック宛だよね、コレ」

 直接フレデリックに届けると不敬になるので、レナードを使った様だ。

「……話は筒抜けだった様ですね」

 マークが自分でかけた防音魔法に自信を失くしながら、遠い目をした。

「……さすがソフィア様」

 フレデリックだけは感心した様に、うんうんと頷いている。

 マークとフレデリックと僕は、顔を見合わせて同時に溜息を吐いた。ソフィアは規格外なので落ち込むなと、マークの肩を叩きながら。


「お土産って何かな?」

 フレデリックは気持ちを切り替えたのか、お土産に興味を示した。

「養殖真珠だよ」

「ああ、話は聞いている。それにも興味があったから、ここに来たんだ」

 買うつもりだったんだけど、貰えるなんて嬉しいと笑いながらフレデリックは現物が見たいと言うので、レナードはアイテムボックスから布の袋に入った真珠をテーブルの上に置いた。マークとフレデリックが袋の中身を見て、目を丸くして驚いている姿が可笑しくて、レナードはふふっと思わず笑ってしまう。自信作なだけに、嬉しさが込み上げてきたのだ。

「養殖真珠の未加工のものを王族に献上しようと、母上達と話し合っていたんだ」

 未加工品の方が、色々使用しやすいだろうと話し合って決めていたのである。もちろん側妃殿下や、リシェル王女殿下に喜んでもらいたいという純粋な好意もある。

「アラバスター公爵家の治める東方のカトラル地方にも、天然真珠がよく獲れる領地があったか…」

 真珠を布越しに手で弄びながらそう呟いた途端、ニヤリとフレデリックは黒い笑みを浮かべた。嫌な予感がするんだけど!?

「ちょっと、喧嘩吹っかけてみる?」

 ニンマリと悪い笑みを浮かべながら、そんな事を言うフレデリックは、もの凄く楽しそうだ。

「ふふふ、側妃と王女がこんなに沢山の真珠で着飾ってたら、王妃様がどんな顔するだろうね?」

「いやいや、天然真珠の産地を抱えるカトラル地方を治めるアラバスター公爵家出身の王妃様に、養殖真珠を渡すのは拙いだろうと、候補からは外したけどさ。喧嘩売るためじゃ無いからね!?」

「まぁまぁまぁ、ちょっと気合い入れて真珠で着飾るだけだからさ!私もお揃いで何か作るかな?」

「クラヴァットピンとか、カフリンクス?じゃなくて!穏便にいこうよ!」

「え〜、私はいつも穏便を目指してるのに?」

 白々しくフレデリックは宣う。

「さっき、喧嘩売るって言ったじゃ無いか!?」


「ねぇねぇ、義姉上も真珠が好きなんだけど…協力してくれない?あと、私の愛しの婚約者の分もあるのかな?」

 聞いてない!!レナードの言葉をまるっと無視して、フレデリックはにこにことレナードに上目遣いをする。自分の顔が武器になると知ってやっているのだから、タチが悪い。

 レナードはフレデリックのお願いに弱いのだ。というか、王族のお願いって断れないよね!?

「チェンバレン家には別で贈るつもりだったんだけど……うん、婚約者の喜ぶ顔が見たいんだね?それから、ステファニア様に贈ったら、カルヴァート公爵家から何か言われない?関係悪化は嫌だよ?」

 ウチは領地こそ広いけど、しがない侯爵家なんだからね!?

「カルヴァート公爵は、第一王子派という事になっているけど、ステファニア様とロイスの話を聞く限り、気持ち的には離れている様だよ。当たり前だよね、第一王子が娘や孫にさえ会いに来ないんだからさ」

 確かに、蔑ろにされていると感じても、おかしくない状況だ。

「私からのお土産なら、問題ないと思うんだ。君と私が仲が良いのは周知の事実だし?それに、バドレーは中立でしょう?」

「それもそうかな?」

「友達の領地の新しい特産品を紹介するって事にしたら、何も問題ないよね?」

「うん、まぁ、そうかな…」

 なんだか上手く言い包められた気がするが、まぁ良いかとレナードは肩の力を抜いたのだった。



 綾が料理を運んで部屋から出て行った。気配を消していたマークとフレデリックは、綾の気配が部屋から遠ざかるのを待って、姿を現す。

「へぇ、あれがアヤ?本当に私と同じ黒髪だね」

 興味深そうに金色の瞳を輝かせて、フレデリックは綾が持ってきた料理を眺めた。

「そう考えると、アヤさんとフレデリックって、意外と縁があるかも知れないね?」

 マークも海苔の束を、不思議そうな顔で眺めながら言った。

「目的も果たした事だし、戴こうかな?どうやって食べるか、レナード教えてよ!」

「フレデリック、君ってやっぱり観光しに来ただけなんじゃ…」

 そう文句を言いつつも、レナードは手巻き寿司を初めて食べる二人に、食べ方をレクチャーしている。

 フレデリックは早速、海苔の上に酢飯を広げて躊躇いなくサーモンを乗せていた。

「フレデリックが生魚に抵抗がないのは、アヤさんと同郷だったっていう異世界人の高祖母様のお陰なのかな?」

 ふと思って、レナードはフレデリックに疑問を投げかけた。

「マヴァールでは、酢でしめた魚で寿司を作るからね。母の好物だから自然に食べるようになったんだよ。うん、これは美味しいね」

「好きな具を乗せて食べるのが良いね!」

 どうやら手巻き寿司は、マークにもレナードにも好評のようだ。おい、そこの第二王子、野菜も食え!

「母上とリシェルにも食べさせたい…材料さえあれば簡単に出来そうだな…」

 フレデリックは、モグモグと口を動かしつつも、乗せる材料を覚えるために観察している。…多分用意周到な母上が、追加でお土産を持たせるに決まっているが、言う必要はないだろう。

 

 こうやって突然の訪問者達は、お土産をいっぱい抱えて、満足して帰ったのだった。

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