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フレデリックとマークとレナード

 時間は少し遡る。レナードやシリウス、ソフィア、クロード達が前マヴァール公爵夫妻と歓談した後、丁度綾達がクロを着飾って楽しんでいた頃。

 マヴァール前公爵夫妻らとの歓談も終わったレナードは、自室に引き上げようと席を立つと、ソフィアに呼び止められた。ソフィアはメイドに指示してお茶やお菓子をレナードに持たせたのだ。複数人分はあるお茶とお菓子、軽食持たせるソフィアを不思議に思いながらもレナードは素直に受け取り、アイテムボックスに仕舞った。

 何故?とソフィアに訊いても、必要だと思ったからだと言うばかり。説明してもらう事を諦め、レナードは自室に向かう。ソフィアが必要だと思ったからという理由で、説明してくれない事などしょっちゅうなので、レナードも慣れたものだ。でもこういう時は、大体それが必要なのだと、レナードは経験上わかっている。


 自分の実験室の扉を開けると、ソファーの上で寛いでいる二人の人物が目に飛び込んできた。ああ、母は知っていたのだ。彼らがここに来ている事を。

「フレデリック、来てたの?」

 艶のある黒髪に理知的な金色の瞳、通った鼻筋と形の良い唇が完璧な配置にある美形、エナリアル王国第二王子である、フレデリック・エナリアルである。そして、もう一人はレナードとフレデリックと王立学園時代の同級生で、現在は王城で文官をしているマーク・グレーズである。茶色い髪に琥珀色の瞳の、特にこれといった特徴のない顔、何処にでもいそうな容姿の男だ。そして、姿を消して自分の気配を希薄にするという、実に便利なスキルを持っている。実はこの三人で、王立学園時代はよくつるんでいたのだ。


「こっそり来るためだけに、フレデリックはマークと一緒に来たの?マーク、王城の文官って、大変だね」

 王城は意外とブラックな職場なのだろうか?とマークを心配していたのが顔に出たのだろう、フレデリックがちゃんと特別手当が出るのだとレナードに力説する。

「お金さえ払えば良いっていうのは、ちょっとどうかと思うけど?」

 溜め息混じりにレナードがそう言うと、マークがこれにはちゃんとした理由があるのだとフレデリックを擁護した。

「ちゃんとした理由って何?」

「突っ立ったままいないで、お前も座れよ」

 フレデリックがレナードを手招く。

「…ここ僕の部屋なんだけど?」

 我が物顔でくつろぐ二人に何を言っても無駄だろうが、一応抵抗はしてみるレナードだ。でも、そうは言っても座らなければ話にならないだろうと、レナードは諦めて向かいのソファに座る。

 そして、ソフィアから持たされた、お茶とお菓子、軽食などをローテーブルに並べた。一応こんなのでも王子だから、最低限のおもてなしは必須なのだ。

「おお、気がきく!」

 嬉しそうに顔を綻ばせながらフレデリックは、サンドイッチに手を伸ばした。

 おい、毒味しなくて良いのか?とレナードが視線で問えば、マークはお忍びだからと首を振った。まぁ、解毒の付与魔法の付いた魔道具があるから、問題ないのだろうが。

 …不用心過ぎないか?王族としての自覚が希薄なんじゃないだろうか?とレナードは王族らしく優美な仕草で、美味しそうにサンドイッチを頬張るフレデリックを見ながら思う。

「って言うかさ、君達うちの転移魔法陣使わなかったでしょ?まさか…一般人用の魔法陣使ったなんて事は…?」

 レナードが疑いの目で二人を見ると、マークがぶんぶんと首を振った。

「ない!ないから!王家の保養地の別荘の魔法陣を経由して、ここに来たから安心して!」

 焦るマークとは対照的に、フレデリックは実に優雅にお茶を飲んでいる。マーク…君、苦労していそうだな…。

「それなら…まぁ、安全かもだけど…」

「バドレーの領地は海に面していて羨ましい。このエビのプリプリさは新鮮だからだよな!」

 エビのサンドイッチが、フレデリックのお気に召したらしい。

「時間を止める魔道具で、普段から新鮮な魚介類を食べてるくせに…」

 王族の食事は、各領地から一級品が集まるのだから、フレデリックも普段から美味しいものを食べているはずなのだが。

「立地が良いじゃないか。海の近くで食べるのが良いんだよ!」

「ちょっと旅行気分でここに来たとか、ないよね!?」

 そう言ったレナードの視線を受けたマークは、琥珀色の瞳を伏せ視線を逸らす。…おい。

「軽食とお茶は、母上に持たされたんだ。フレデリックが気に入ってたって、伝えておくよ…」

 レナードは言いたい事は色々あるが、諦めてそう言った。

「さすがソフィア夫人!私たちが来た事、バレてたんだな!」

「さすが、魔族ですね」

 フレデリックもマークも、感心した顔でソフィアを褒めちぎる。

「魔族がって言うより、母上だから…」

 実の子であるレナードも、ソフィアの能力の全てを把握しているかと言われたら、多分出来ていないだろうなと思うくらいなのである。規格外すぎて、自身と比べることすら烏滸がましいと思うレベルなのだ。だから、バドレー三兄弟は、普通よりも魔法が得意な自覚があるが、上には上がいる事を知っているため、天狗になりようがないのである。


「晩餐も楽しみだな?」

 実にいい笑顔で、フレデリックはそう宣う。

「…多分母上は用意すると思うけど…って言うか、用事って何!?いい加減、本題話してよ!」

「ああ、君の所にいる異世界人について…かな」

 そうフレデリックが呟いた途端、マークが防音魔法を部屋に張り巡らせた。一応レナードの部屋には防音魔法が付与されているが、魔力の高い者にはそれを無力化させる力がある。だからマークが更に魔法を重ねがけしたのだ。こうすると、ちょっとやそっとじゃ、無力化出来ないものになる。

 レナードは深々と溜息をつく。

「知ってたの?」

「まぁ、最近だがな」

 おそらくその情報の出所は、マヴァール前公爵だろう。

「第一王子には…?」

「安心しろ、知られていないから」

 フレデリックの言葉を受けて、レナードは胸を撫で下ろす。

「今日の目的は…アヤに接触すること?」

「そうだ。だが、安心していい。無理矢理王城に引っ張って行ったりしないから」

「本当に?」

「ただ、国王だけには話す」

「うん、それは仕方ない。…兄上へのお咎めはないのかな?」

 敬愛するクロードを思うと、レナードは心配になってしまう。

「アヤ…だったか?彼女の希望だったのだと聞いてるよ」

「そう。誘拐犯の言う事は聞きたくないんだって、兄上に直談判したらしいよ?」

 実際、誘拐犯だとは綾は言っていないが、概ね同じ意味の言葉は言ったのだから、大差無いかもしれない。

「……誘拐犯。…うん、そうだな。彼らにしたら、それが真実だ」

 他の異世界人達も、概ね同じような意見だったとフレデリックは苦笑する。そりゃそうだ、家族や友人、恋人と引き離されて、こちらに召喚されたのだから。しかも一方通行で、元の世界には帰れない。レナードが同じような立場になったなら、報復必須案件だ。

「ここで、面会さえ済ませておけば、しばらくはアヤ嬢を自由に過ごさせてあげられるよ?」

「それは、こちらにばかり、都合が良いような気がする。フレデリックのメリットは?」

 レナードは警戒心を滲ませて、フレデリックを見詰めた。

「私が立太子するまで、第一王子が成果を上げない事かな?私が第一王子派の貴族達を、取り込むまでの時間稼ぎが出来れば良いんだよ」

「…それさぁ、僕が知って良い情報?」

「ふふふ、知ったからには、協力してもらわないとね!」

「フレデリック、確信犯だろ?」

「中立のバドレーが、僕に付いてくれたら心強いけど、無理にとは言わないよ?でも、バドレー侯爵は、彼女に夢中みたいだし?利用しない手はないかな〜なんて…」

 この第二王子は結構腹黒なのだ。

「兄上の婚姻は、一族の問題だからね…」

 レナードは溜息をつくと、覚悟を決めたのだった。

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