バドレー家使用人の実力
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クロから貰った宝石を、どうやってアクセサリーにしようかと考えて、浮かれ気分の綾は無意識に鼻歌を歌っていた。日本のポップソングで、歌詞もうろ覚えなので鼻歌なのである。
「知らぬ曲だな」
「異世界の曲ですからね」
「そうか」
そんな事を話していると、裏口の扉にたどり着く。護衛騎士が立っているので、彼らに挨拶して綾たち二人は邸の中に入った。
クロちゃんが呼び止められるかもと思ったら、彼らはクロちゃんが黒竜である事を理解していた。どうして分かるのかと綾が訊いてみると、黒竜の魔力は独特なので間違えることはないと言う。騎士って凄いんだなぁと感心していると、綾が鈍いのだとクロちゃんは呆れたように言った。やっぱり真剣に、視力強化と魔力感知を頑張る方が良いかもしれない。
マーレの邸の侍女頭の女性に、綾がクロちゃんの服を頼むと、彼女の眼鏡の奥の瞳がキラリと光った。
「あの、クロちゃんは黒色が好きみたいなので…」
綾は黒いドレスを侍女頭に注文すると、にっこりと彼女は微笑んだ。
「お任せくださいませ!」
そして他の侍女やメイド、針子も一緒になって何やらプロジェクトチームが立ち上がった様で…。
そして彼女らが何処からか取り出したメジャーで、身体のサイズを測られるクロちゃん。種類の違う黒い布、リボン、ボタンが所狭しと並べられて、それこそ魔法の様にあっという間に黒いドレスが出来上がった。
少女なのでドレスは膝丈で、フリルが付いて華やかでもある。コレはアレだ!ゴスロリファッションだ!マジでお人形レベルで可愛い!凄い!さすがバドレー家の侍女達である。
綾は知り得る知識で、レースカフスや、ヘッドドレス、ミニハット、リボンのブローチなどを提案していく。デザイン画を覗き込んだ侍女達の瞳が、またも熱を持った。そして、更に白熱するそれを、止める者は誰もいなかった。
何着もの黒のドレスと小物が製作されて、クロの為に用意された客間に運ばれて行く。あっという間に刺繍もされているのは、魔法であったらしい。凄いぞ異世界!
「私はチョーカーを作ります!」
手を挙げて宣言した綾は、魔力を練り上げ、クロから貰ったばかりの宝石を固定するための台座を変形魔法で作り上げていく。普段は腕が鈍らないように魔力を使わない彫金をしているが、異世界版の彫金作業にも最近はすっかり慣れた綾だ。次から次へと創作意欲が湧くので、十数本ものチョーカーを作り上げた。リボンや蝶、雫型の繊細なレースのようなデザインまで。侍女さん達のアイデアも貰い、ちょっと調子に乗って作りすぎてしまったが、後悔はしていない!
私達はやり切った感で、感動すら感じていた。クロちゃんは、ソファで寛いでいる。その完成形を眺めて、私達はお互いに健闘を称え合ったのだ。
「アヤ、調子に乗って魔力を使いすぎると枯渇するぞ?」
「え?」
クロの言葉に綾は目を丸くして驚く。
「今日は回復魔法の訓練だっただろう?まだ三分の一程はあるが、四分の一にまで減ると、倦怠感を感じて眠くなったりするんだぞ?更に減ると意識を失う事さえある」
確かに同じ内容を、エメリックから説明は受けた。だが、毎日それ程魔力を使わない綾は、それがピンと来なかったのだ。
「魔力圧が高くならないように抜く事はあっても、枯渇した事はないので失念してました」
綾が自身の魔力を探ってみると、確かに減りが感じられた。だが、いつもとどのくらい違うのか、細かい部分までは分からない。
「無理矢理他人の魔力を抜いて、誘拐される場合もあるのだから、自身の魔力の容量は把握しておくべきだな」
サラッと怖い事を言うクロの言葉にギョッとしながらも、綾はまた訓練内容が増えた事に溜息を吐く。
「気を付けます…」
気を利かせた侍女の一人が、綾の目の前にカルヴァジュースを置いてくれた。礼を言って受け取り口をつけると、身体の中に吸収されて行く様な感覚がある。先程も味わった五臓六腑に染み渡る感覚だ。
ダイアン医師も同じ様にカルヴァジュースを用意してくれていたなぁと考えて、やっぱり魔力回復薬はあまり使わないのだなと綾は納得する。日常生活の切羽詰まって無い状態で、美味しいジュースと不味い薬ならどちらを選ぶかなど、誰が考えても明らかである。だとすると、前から思っていた通り、クロードはそこそこの変人だということになり…綾は考える事を放棄した。人の趣味には口を出さないのが、大人の対処法である。
「知らない間に、凄く楽しそうな事をして!狡いわ?!ソフィア一生の不覚!!!」
この世の終わりかの様な顔でソフィアが現れたが、冗談なのか本気なのかの判断が綾にはつかない。今ソフィア様、転移魔法で来ましたよね?
今現在この部屋は、ちょっとした打ち上げ的なお茶会の場になっている。お針子さんの刺繍魔法の見事さを讃えたり、デザイン案を出した侍女やメイドに称賛を送ったり。
その場に突如現れた女主人の言葉に、場が凍りついた。
そこにまたもや突如、転移魔法で現れたシリウスが、のんびりとあたりを見渡す。皆凍りついているので、ソフィアとクロ以外動いている人影はない。シリウスはクロに目をとめて、瞳を細めて微笑む。
「クロ、良く似合っている!可愛いぞ!」
クロは嬉しそうに立ち上がり、シリウスにクルリと回って見せた。ふわり長い髪とスカートが揺れて、大変眼福な光景だ。
「皆が作ってくれたのです!」
はにかんだ少女の微笑みは、この場の全員の心を撃ち抜いた。皆が胸を押さえて悶えているが、綾自身もそうなのでその気持ちはよくわかる。
「うむ、さすがバドレーの使用人は、良い仕事をする!」
「…恐れ入ります」
侍女頭が代表して頭を下げて、皆もそれに倣う。
「おい、ソフィア。そんな顔してないで、皆を労え。女主人の仕事をしろ」
シリウスが呆れた様にソフィアを見つめる。
「分かっているの!皆がこれ以上ないくらい、素晴らしい仕事をした事は!でも、でもね!私もその場に居たかったのよー!!」
ソフィアの心の叫びが聞こえたが、なんなら涙さえ流しているが、シリウスはスルーしてクロを構う。その姿は父親の様で、微笑ましい。
そして数分後、侍女頭の取りなしで何とか立ち直ったソフィアは、皆の仕事をきっちり褒めて、労った。
後で侍女頭に聞いた話だが、ソフィアも交えてもう一度、ドレス作りをするらしい。諦めるという言葉は、ソフィアの辞書には無いのだった。