クロちゃん4
「私はそろそろ自室に戻りますけど、クロちゃんはどうしますか?」
食べ終わった皿やコップを片付けながら、綾は黒に訊ねた。
「折角変身したのでな、この身体で暫く過ごすとしよう」
そう言って、クロはクルリとその場で回って見せた。
はい、可愛い!文句なしに可愛い!クロを着飾らせたら、さぞかし楽しいに違いないと綾は思う。
「じゃあ、一緒に邸に戻りましょう。服も侍女さんに言ったら、新しいものを用意してくれると思いますよ?」
多分一発侍女の皆さんで、メロメロです。
「ふむ、では装飾品もいるかもしれぬの」
「シリウス様が、用意してくれるんじゃないでしょうか?あ、今なら真珠もありますよ、きっと!」
「ここの真珠は白いであろ?我は、ほれ、こういう黒真珠の方がいい」
アイテムボックスから取り出された黒真珠が、クロの手の平でジャラリと鳴った。天然の大粒真珠だ。少し歪な形も、天然真珠ならではである。
「おお!これは貴重なものですね!」
綾は無意識に彫金師として、黒真珠の品質を見定める体制に入ってしまっている。
「シリウスと海で遊んでいた時に、もらったのだ」
「マーレの海でも獲れるんでしょうか?」
綾は、ワクワクしてクロに訊ねる。
「いや、黒真珠が出来る貝は、もっと南の海域に生息していたはずだ」
「…そうですか、残念です」
黒真珠は日本でも人気があったので、もし養殖できたら素敵だなと綾は思ったが、そう上手くはいかないらしい。
「アヤは彫金師だろう?他の宝石もあるが、これで装飾品を作れるか?」
そうして、装飾も何もないりんご箱のような木の箱に入れられていたのは、あらゆる色の宝石の山だった。海賊もびっくりの質と量である。宝石を見慣れた綾でさえ、硬直するほどの衝撃だった。綾はゴクリと唾を飲み込む。
「こ、これは…?」
驚きから綾の声が掠れた。
「ああ、私が暇つぶしに土魔法で作ったものだ。価値はないに等しいが、我は宝石の価値に頓着しないのでな」
「え、価値がない、とは?」
綾は意味が分からず、眉根を寄せて首を傾げる。
「土魔法で作った宝石は無価値だ。ガラクタ程度の価値しかない。魔力の多い子供が、遊びで作るぐらいだの」
「ええ!こんなに綺麗なのに!?ガラクタ同然だなんて!」
ブリリアントカットされた、大粒のダイヤモンドを一つ手に取り綾は叫んだ。
「人工宝石は、価値がないのじゃ。どこの産地で採掘され、どこで誰に加工された宝石か、鑑定魔法ですぐに分かるからの」
トレーサビリティ、鑑定魔法で筒抜けだもんなぁ…。
「ああ、鑑定魔法か…」
綾は納得して頷く。
「宝石商は、『鑑定』が命綱だから、その結果しか信用しない。結果、人工宝石は無価値となる」
土魔法で、宝石作ってウハウハ豪遊は無理らしい。人生そんなに甘くないと言うべきか。べ、別に期待なんてしてなかったんだからね!
「とても、納得しました」
りんご箱ごとクロに渡されて、綾はそれをアイテムボックスにそっとしまった。練習にはとても良い素材である。
「欲しかったらいくらでも渡すから、アヤが好きに使うといい」
「ありがとうございます!」
綾は笑顔でクロに礼を言う。
この時の綾は気付いていなかった。黒竜が作った宝石は黒竜の魔力が宿っており、無価値とは対極にある超レア素材だという事に……。
今回も短めです。すみません!




