クロちゃん2
「早速食べようではないか」
目の前の美少女がもう一脚自分用の椅子を取り出し座る。そして綾に椅子を薦めるので、綾は素直に腰掛けた。金色の瞳を輝かせながらおにぎりを物色する美少女の様子は、最強種の黒竜には見えない。
「うん、美味い!」
おにぎりを頬張りながら、口の周りに米粒を付けている少女に、綾は自身のアイテムボックスの中からおしぼりを取り出し彼女に手渡した。
「おにぎりがお好きなんですね」
二個目のおにぎりを物色中の少女に、綾は話し掛ける。
「うむ、黒いからな」
…うん?黒いから?
「何で私に声を掛けてくださったのですか?」
「それは、黒いからだな」
…うん、黒色に好意的なのは理解。私は黒髪で黒目ですからね…と納得した綾だったが、少し心配になってきた。
「シリウス様は…」
「黒い服しか着ないし、好きだ」
「ブラッド様は…」
「其方と同じ黒髪だがら、好きだな」
どうしよう…かなり心配になってきたんだけど!?綾は内心狼狽える。
「ウラール地方騎士団は?」
「黒い騎士服は素晴らしいな!見てると落ち着く」
………うん、このままじゃ色々危ない気がする。
「黒竜様…」
「其方は黒いから許す、我の事をクロと呼べ」
「クロ様?」
「ソフィアはクロちゃんと呼ぶ」
良いの?そんな親しげな呼び方許してもらって…と益々心配になる綾だったが、本人が期待を込めた金色の瞳を向けるので、それ以外の選択肢は無さそうだった。
「クロちゃん」
「何だ?アヤ」
満面の笑みを浮かべて、クロは綾を見る。…やっぱり無防備過ぎて、心配だ。えっと不審者に対する心構えは…。
そう!いかのおすし!確か…「知らない人についていかない」「他人の車にのらない」「おおごえを出す」「すぐ逃げる」「何かあったらすぐしらせる」だったっけ?
「クロちゃん!黒い食べ物食べさせてあげるって言われても、知らない人に付いて行ったら駄目ですよ?」
「何故だ?」
キョトンとした表情で、首を傾げるクロ。
「その人が、良い人か悪い人か分からないでしょ?」
「黒い服を着ていても?」
「黒い服を着ていても!」
「黒髪や、黒目なら?」
「どっちも駄目です!えっと、いかのおすしって言う言葉があって…」
「すしは知っているぞ!マヴァールで食べた!いかのおすしは黒いのか?」
「…白いかな」
イカだしね…。
「何だ、つまらぬ」
途端に興味をなくした、クロの言葉に綾は頭を抱える。そっからかぁ!!
でも綾も諦めるつもりはなく、『いかのおすし』を『いかすみのおすし』に変更して、「知らない人についていかない」「他人の馬車や馬にのらない」「すぐにシリウス様に確認」「見た目(黒色)に騙されない」「おおごえを出す」「すぐ逃げる」「何かあったらすぐしらせる」余分の二つを無理矢理ねじ込み、クロに何度も言い聞かせて教え込んだ。綾の迫力に気押されたのか、クロがコクコクと頷いたのを確認して、綾は満足げに微笑む。
「イカスミのおすしは、黒いんだろう?楽しみに待っておるでな!」
うん、富山名物の黒造りを軍艦巻きにしよう!それで万事解決だ。
綾はクロに頷くと、他の黒い食べ物を、アイテムボックスから取り出した。
「チョコレートは、召し上がりますか?」
「食べる!!黒いからな!」
拘りますねぇ…。まぁ、種族の特性なのだろう。
「コーヒーもありますけど…」
「おお!黒い飲み物か!飲んだことはないから、楽しみだ」
「あー、ちょっと苦いかもしれませんよ?」
見た目お子様だけど、綾より歳上らしいから大丈夫だろうか?と綾がカップに注ぐと、クロは瞳をキラキラさせてコーヒーを覗き込んでいて、大変可愛らしい。
「ミルクと砂糖を入れ…」
ますか?と続ける前に、涙目のクロがプルプルと震えている。どうやら一口飲んで大変苦かった様だ。うん、見た目通りお子ちゃま舌でした。
「ミルクを入れるとまろやかになりますよ?」
「…ぐ、ミルクを入れれば、色は黒く無くなるであろう?白に負けた気分になるから嫌だ」
まだ涙目で悔しそうにクロは言う。白い生き物と何かあったんだろうか!?綾は心配になった。
拘りますねぇ…そこまでいくと、天晴れですよ!
「砂糖だけ入れましょう。色は変わりませんから!」
クロは頷くと、綾がスプーンに掬った砂糖がコーヒーに溶ける様子をじっと眺めている。うん、多めに入れておきますね!
ソフィアが『クロちゃん』と呼ぶ理由が分かった。黒竜は可愛い生き物だ!
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