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クロちゃん1

「え?私?」

 自分を指差し、綾はキョロキョロと辺りを見渡すが、漆黒のドラゴン以外に人っこ一人見当たらない。もしかしてこのドラゴンが綾に話し掛けて来たのだろうか?

『其方以外に誰がおる?ほれ、こっちだ。もう少し近う寄れ』

 じっと黒竜を見つめていた綾に、焦れた様子の声がかけられた。綾はひょこひょこと黒竜の方に近付く。

 獣舎には柵のようなものは無く、明かり取りの窓から光が差し込んでいるため明るい。意外な事に空調用の魔道具が使われているため、ひんやりと適温に保たれていて日差しのきつい外から中へ歩を進めるととても気持ち良かった。扉も開いているのに不思議だが、何か見えない膜のようなものでもあるのだろうか?仕組みは解らないが、快適は正義である。帽子を被っていなかったので、黒髪の頭が非常に熱かった綾はほうと息を吐いた。

『ほれ、その椅子に座るが良い』

 数秒前には無かったはずの椅子が、いつの間にか綾の目の前にあった。黒竜はアイテムボックス持ちなのだろうか?しかも猫足で深紅のビロードの布が貼られたお高そうなやつである。おずおずと綾が腰掛けると、目の前の黒竜の金色の瞳が満足そうに細められた。

「この場所は快適ですね」

『そうであろう。シリウスが気遣ってくれるからのう』

 シリウス様は結構面倒見が良いのだなぁと、綾は再認識した。そう言えば、異世界人の皆まで気に掛けていた気がする。

「黒竜様は、愛されているのですね」

『其方も愛されているではないか、アヤは皆に心配されておる』

 黒竜の言葉に、綾は目を丸くした。

「え、黒竜様は、ここから殆ど動いてらっしゃらないのに、何故ご存知なんです?」

『身体強化で、聴力強化して皆の話を聞いておる。我ぐらい高度な術じゃと対象を絞って聞き耳を立てる事も容易に出来るのじゃ』

 凄いな!黒竜様!と驚く綾に、黒竜は誇らしげに目を細めた。表情らしいものは黒竜にはないのだが、不思議な事に言葉だけでは無く感情も伝わってくるのだった。


 黒竜との会話が途切れたとき、綾のお腹がぐぅと鳴る。慌ててお腹を押さえてみたけれど、バッチリはっきり聞こえてしまった様で…。

『あははは、もう昼だからの。人間だと腹が減るだろうて。其方は救護室で魔法を使っておったしの。話をしながらここで食べていけば良い』

 そう言って更に卓まで出してくれた黒竜に、綾は顔を赤くしながら頭を下げた。

「黒竜様は、何を召し上がるのです?」

『我は魔素があれば生きていけるのだがの、嗜好品として食べ物を食す事もある』

「ではご一緒にどうですか?」

 さすがに一人だけ食事をするのも、綾は気が引けるのだ。

『シリウスが食べていた、黒い食べ物が良い!我の身体同様に黒い食べ物なので興味があったのだ!』

 聞き耳を立てて人の会話を聞いていたり、この黒竜は結構好奇心が旺盛な様だ。綾はアイテムボックスからおにぎりをイメージして取り出すと、卓の上に置いていく。


「焼いたサーモンに、昆布、味噌、コーンチーズでしょう、それから唐揚げ、角煮のガッツリ系」

 海苔が巻いてあるので判別は出来ないが、包んだ葉に巻いた紐にメモを挟んであるのでそのへんは、抜かりないのだ。

「量はあるのですけど、足ります?」

 綾は黒竜の大きな身体では、満足出来ないかもと心配になる。

『心配要らん』

 そう黒竜の声が聞こえたかと思うと、みるみる黒竜の身体が縮み長い黒髪の10歳くらいの美少女になっていた。金色の瞳に、さくらんぼの様な唇、少し波打つ艶のある黒髪に白い肌。当然だが素っ裸だ。綾は慌てて周りを見渡し人がいない事を確認する。

「人型になるのが久し振りで服がないわ」

 アイテムボックスを探っていたらしき黒髪美少女が、残念そうに呟く。綾は自分の服や下着をぽいぽい出して、無言で少女に差し出した。

『おお、悪いの!しばし借り受ける』

 服を完全に着終わって白い肌が殆ど見えなくなった少女の姿を見てやっと、綾はほっと安心したのだった。やっぱり綾は10歳児と一緒の身長なんだなぁと遠い目をしながら、綾は黒髪美少女を見詰めた。

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