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マヴァール公爵家の別荘にて

 クラデゥス帝国皇帝シリウスは、マヴァール公爵の所有する別荘へとやって来ていた。マヴァール公爵本邸とは違ってこぢんまりとした別荘だが、立地はとても良く高台にある。海が一望できるバルコニーには、長椅子と心地よさそうなクッションが置いてあり、昼寝したならとても気持ちがいいだろう。部屋のインテリアは華美ではないが、上品で質の良さが目を引く逸品だ。

 海の見える広間は落ち着いた空間で、そこに前マヴァール公爵夫妻がシリウスの対面のソファーに腰掛けている。

「やはり、このボタモチは美味いな!」

「陛下に気に入って頂けて、嬉しいですわ」

 エネリアル王国の上位貴族特有の金色の髪を上品に結い上げた女性が、エメラルド色の瞳を細めて微笑む。年相応に年齢を刻んだ目元や口元には皺があるが、頬はハリがあり表情が豊かなのもあり、年齢よりも彼女を若く見せていた。

「む、夫人、シリウスで良いと言ったであろう?」

「そうでしたわ!私の事もレーシャとお呼びくださいませ」

「このボタモチは、レーシャ殿の手作りなのだろう?食感も甘さも絶妙で、この緑茶と一緒に頂くと、何個でも食べられそうだ!」

「まぁ、シリウス様!嬉しい事を言って下さるのね!義祖母に作り方を習ってから、何度も作りましたので、慣れているだけですわ」

「私の好物なので、妻は数え切れないくらい作ってくれているのです」

 白髪混じりの黒髪のマヴァール前公爵は、サファイアの様な青い目を細めて隣に座っているレーシャを見詰める。二人の間には、穏やかな愛情が見て取れた。

「それは羨ましい限りだな!」

「たくさん作りましたので、お土産にも持って帰ってくださいませ」

「では、遠慮なく頂こう!」

 シリウスは、ホクホク顔で頷いた。


「そう言えばジェラルド殿は、先日アヤと会ったらしいな?」

「さすが、シリウス様、お耳が早い!隠蔽魔法が掛けられていた祖母の形見を『鑑定』してもらったのですが、祖母の想いを知る事が出来て有意義な時間でした」

 異世界言語の解読は、とても難しい。異世界人自体の人数も少ないし、異世界人はこちらに渡るとこちらの言語を理解出来るようになるので、そもそも解読する必要が無いから研究もされないのだ。

「祖母殿は、アヤと同郷であったのだな?」

「ええ!こんな奇跡があるでしょうか!私は年甲斐も無く運命を感じました!」

「そうか、それは良かった」

「ただ、マヴァールは異世界人の召喚に反対してきた立場上、表立って彼らを支援する事は出来なかったのです。だから偶然を装って接触するしかありませんでした。今回縁を繋いだ事で、理由が出来たのは僥倖だと思っています」

 ジェラルドは、サファイアの瞳を細めて微笑む。

「アヤの後ろ盾が侯爵家であるバドレーでは心許ないのは事実だ。もしもの時は、私が保護するつもりではあったが、そうすると国同士の軋轢が生じかねん。公爵家が動いてくれるなら、アヤにとっても良いことだろう」

 シリウスはジェラルドを真っ直ぐに見て、頷いた。


「シリウス様に伺いたい事があるのですが…昨夜届いた便りの中に、見過ごせない情報があったのです」

 ジェラルドは真剣な顔でシリウスを見詰めているので、シリウスも大事な話なのだと表情を引き締めた。

「見過ごせぬ事?」

「…第一王子が、アヤを探しているかも知れないのです」

「ああ、その報告なら私も聞いている」

 シリウスは鷹揚に頷いた。

「さすが、シリウス様ですね」

 ジェラルドは目を見開いて驚いている。

「まぁ、大きな声では言えぬが、クラデゥス帝国にも影はいるし、魔族だけでは無く人間の協力者もいるのだ」

 細部まで情報を得ていると、自信を持って言えるくらいには、シリウスはエネリアル王国の内部にも詳しい。

「では、第一王子が話していた内容もご存知ですか?」

「うむ。百年前の魔術師の手記の話であろう?ただ死期が先延ばしになっただけなのに、人間は禁忌をを犯す。愚かな事だ」

「本当に異世界人の許しで、実際に状態異常は回復するのでしょうか?」

「まぁ、事実だ。だが、問題はそこでは無い」

「どういう意味でしょうか?十年以内に死ぬのと、天寿を全うするのでは、大きな差があるかと思いますが?」

 ジェラルドは怪訝な表情をしているが、シリウスは魔族の常識と人間の常識が、同じではない事に思い至った。

「ああ、人間は魂の存在に無頓着だったな…だから安易に禁忌の召喚魔法なんぞに手を出すのだろう。困ったものだ…」

「…魂ですか?」

 ジェラルドは益々、困惑した顔になっている。

「人間の刑罰で一番重いのは、死刑だったか?ジェラルド殿、魔族の一番重い刑罰は何だと思う?」

 質問形式の方が理解しやすいだろうか?と考えながら、シリウスはジェラルドに質問する。

「…死刑では無いと?」

 さすが、前マヴァール公爵は理解が早い。

「魔族の一番重い刑罰は、魂の消失だ」

「…魂の消失ですか?」

 シリウスは、ジェラルドに魔族にとっての魂の存在が、どれだけ重いものか説明する。

「人間には、死者の国から魂が戻って来るという日はないか?」

「この世とあの世の境目が曖昧になる日ですね?人間にもあります、墓参りに行ったりしますね」

 輪廻転生の考え方は、一般的で人間も魔族も同じ考え方だ。

「魔族は死んだ後、魂となって生きている家族などを見守るのだ。その日は本当に騒がしくて敵わん!小言ばかり言われるし、いつまで経っても子供扱いだし…」

 シリウスは、その光景を思い出して溜息を吐いた。

「騒がしいとは?本当に死んだ者の魂に会えるのですか!?」

 ジェラルドも、レーシャも目を見開いて、驚いている。人間の魂は見えぬ者の方が多いので、無理もないだろうとシリウスは話す。

「で、だ。先程の話に戻るが、状態異常は許しを得れば無くなる。だが、この世界に招いた魂の分だけ、他の魂は消えなければならない」

 シリウスは真剣な表情でジェラルドを見据えた。

 これは理屈では無く、この世界の理なのだから仕方ない事なのだ、だから禁忌魔法なのだ。

「異世界人はアヤさんを入れて五人、状態異常も五人…では招いた人数分だけ、こちらの魂は必ず消える運命なのですね?ただ、遅いか早いかだけの差だと?」

「そうだ」

「なんて事だ!」

 ジェラルドは鎮痛な表情で項垂れた。

「だが、人間は生きてる間さえ何とか出来れば、それで良いと考えるのだろう?だから禁忌を禁忌だと思わず繰り返す」

 シリウス達魔族からすれば、正気の沙汰とも思えないが、人間は魂の存在に無頓着過ぎる。

「まぁ、その話は国王にも話したが、代が変われば認識も変わる…これからもどうなるか分からんな…」

 

 しばらくショックを受けていたジェラルドだったが、何とか回復してシリウスと今後について話し合う。まだ第一王子に綾の存在には気付かれていないので、今の状態で大丈夫だろうと結論が出た。

 遅くなってしまったので泊まる事を勧められ、シリウスはマヴァール公爵の別荘の客間に案内される。

 明日は、ソフィアや綾本人にも話さなければいけないだろうと考えながら、シリウスは眠りに落ちたのだった。

 先週は投稿出来ずにすみません!

 ではまた⭐︎あなたが楽しんでくれています様に♪

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