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新人『影』の仕事

 エナリアル王国、王都は晴れ上がっていて雲ひとつない青空が広がっていたが、その部屋は暗雲が垂れこめていた。王城内にある魔術塔の一室にある、魔術師や魔法使いが会議の為に使う部屋、防音魔法が施されているのをいい事に、苛立ちを隠しもせず大声で怒鳴る第一王子ベリスフォードがいた。


 新米の『影』であるマークは、王家の諜報員と城の文官との二足の草鞋を履いている。同級生であった第二王子の推薦で『影』の打診が来たのだが、本人もさもありなんと思う程マークのスキルは諜報向きの能力だった。姿を消して自分の気配を希薄にする能力で、その能力を使っている間、全く誰にも気付かれずに過ごせるのだ。さすがに音を出すと気付かれてしまう事もあるが、絨毯が敷かれた室内ではその心配もない。

 本来は国王直属の『影』であるが、王太子にもそれを使える権限がある。第二王子はまだ正式な王太子ではないものの、『影』を使っている。それはもう、そういう事なのだが、それを知らぬ哀れな第一王子は、まだ自分が王太子になる可能性があると信じているらしい。マークはべリスフォードの罵詈雑言を聞き流し、その中に含まれる有益な情報に耳を澄ました。


「何故、この呪い…状態異常が無くならない!?四人全ての異世界人から『許す』と言われたのに!!」

 木目の美しい重厚な机を叩きながら、べリスフォードは叫ぶ。

「私達にも原因が判らず…考えられる可能性を探っているところです」

 昔は綺麗な金髪だっただろうが、今は白髪になっている老人がべリスフォードを宥める調子で話す。魔導副大臣の老人は、ここに所属する魔法師達の最年長だ。だが、べリスフォードの苛立ちは収まらない。

「百年前の儀式に関わった者の手記が、間違っていたのではあるまいな!?」

「それはあり得ません。現に彼は天寿を全うしています」

「その情報があったから、私は儀式に関わったのだ!!召喚の儀の呪いが、解けると思っていたからこそ!下げたくも無い頭を下げ、許しを乞うような真似をしたのに!何故だ!このままなら、私は十年以内に命を落としてしまう!!」

 召喚魔法の呪いは、十年以内に命を落とすというもので、あまりにも有名な話である。それに抜け道があったなど、マークは初めて知ったので驚く。だからこそ、ベリスフォードは、自ら召喚魔法を使い禁忌を犯したのだ。

「殿下、落ち着いて下さい」

 魔導大臣であるアラバスター公爵の冷静な声で、苛立っていたべリスフォードは少し大人しくなった。

「伯父上…」

 べリスフォードが、眉尻を下げてアラバスター公爵を見詰める。

「今回儀式に関わった者で、状態異常になった者は十人中五人。過去例外はあれど、概ね召喚者の数と状態異常になる者の数は同じ…」

 アラバスター公爵が、ひたとべリスフォードを見据えた。

「まだ、あの異世界人四人以外にも、召喚者がいる可能性があると言う事か!」

 絶望の中に差し込んだ希望の光に、べリスフォードの表情が明るくなる。

「…断定は出来ませんが、可能性は高いと思われます」

「確か、過去にも離れた場所で発見された例があったかと…」

 そう言って、副大臣の老人も頷く。

「でも、伯父上…平民に紛れ込まれたら、見つけるのは困難では?」

 べリスフォードが、真っ当な疑問をぶつけると、アラバスター公爵は余裕のある微笑みで答えた。

「異世界人は魔力が高い、それは王族や公爵位に並ぶ魔力だ。高い魔力の者は他者に狙われやすい…どこからか噂が流れて来るでしょう」

「でも伯父上!悠長に待ってなど、居られぬ!」

 焦りを浮かべてべリスフォードは縋るようにアラバスター公爵を見た。

「まぁ、落ち着いて下さい。他に策がないわけでは無いのです」

 そう言った公爵は、徐に懐から何かを取り出した。それは拳代の丸い石のようなもので、微かに濁っている。それから古い紙の束も取り出す。

「これは?」

 怪訝そうな顔を隠しもせず、べリスフォードはその丸い石と紙束を覗き込む。

「これは百年前の研究者が、異世界人について研究したものです。そしてこの石は、世界を渡る時に異世界人に付着した物質から放たれる力を、検知出来る石です」


 話終わった彼らを見送った後、マークはそっとその場を離れた。


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