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思わぬところで1

 カマルと綾の面会は明後日に決まったようだ。というのも、森の各所への魔道具の設置が明日にならなければ終わらないのもあるし、マーレの館の準備もあるという事で、そのように決まったのだった。


 次の日、レナードは綾の護衛をしつつ、綾が魔道具を設置する様子を眺めていた。綾の様子はいつも通りで、浮き足立っている風でもない。そこから導き出される答えは、綾はカマルへ恋愛感情を抱いていないのだろうという事。会ったのは一度きりだし、手紙のやり取りだけだったのだと話す綾は、カマルに対して友人以上の感情を持っている様には見えない。

 だが相手のカマルの気持ちはどうなのだろうか?もし、友人以上の気持ちを持っているとしたら…?超奥手のクロードに、勝ち目はないかも知れない!と言うか、うかうかしていたら、カマルに綾を掻っ攫われる可能性もあるのか!?レナードは自分に嫉妬させてクロードを煽ってやろうとは考えていたが、カマルの出現に乗ったソフィアの『クロードをヤキモキさせちゃおう!作戦』が、裏目に出る可能性を危惧し、危機感を抱いた。

「要観察かなぁ…」

 レナードは眉間に皺を寄せ、思わず呟いた。

「え?ここの場所ですか?」

 綾が首を傾げてレナードを見上げていたので、レナードは何も答えずにっこりと笑っておいた。


 ウラール山の中腹のポイントに、最後の魔道具を設置し終わると、レナードは手招きして綾を呼んだ。

「おいで、アヤここから領城が見えるよ」

 綾は慣れない登山に疲労の色を滲ませていたが、そこからの景色を見ると顔が綻び笑顔を見せた。黒曜石の瞳を輝かせて、景色に見惚れている。

「わぁ、本当だ…!」

 青い空には雲一つなく、夏の日差しがウラール山の木々の上に降り注いでいる。遥か遠くに見える領城は、優美には程遠いが荘厳な姿で佇んでいた。

「ここからだと、マーレの町より、領城の方が近いんですね」

 綾は遠くに見える領城から目を逸さないまま話した。

「そうだね。ここはウラール山でもクラデゥス帝国との国境に近い場所だから」

 レナードもまた、背線を領城に向けたまま話した。その時、レナードはふと良い事を思いついた。

「そうだアヤ、領城に寄って行こうか?」

「え?」

 綾は黒曜石の瞳を瞬かせる。

「今日の作業は終わりだし、魔法の練習はどこでもできるから。アヤも会いたい人もいるでしょう?明日休みなら、今日は自分の部屋に泊まっても良いし。実は僕も兄に話したい事が出来てさ、どうかな?」

 レナードの目的は、クロードに危機感を抱かせる事である。せいぜい煽ってやるつもりだが、綾がいた方が効果的だ。

「私はどちらでも構いませんよ?」

「じゃあ、決まり!』

 レナードはソフィアに伝令蝶を送った後、綾の手を握り領城へと転移するのだった。



 綾が転移の間にレナードと到着した時、前マヴァール公爵であるジェラルドは、前バドレー侯爵であるクリストフと現バドレー侯爵であるクロードと応接間で会談していた。ジェラルドの白髪の混じった黒髪は、この国では珍しいが、サファイアの瞳は高位貴族にはありふれた色である。その向かい側には淡い金色の髪の友人と、銀髪のその息子とは久しぶりに会う。

 私的な訪問とはいえ、応接間を使っているのは防音に優れた部屋だからだろう。ジェラルドは彫金師のクリストフに修理の依頼をするためにここにやって来たのだ。本当はもう一つの目的もあるが、そちらは難しいだろうと考えていたので、今日のところは期待していない。

「この髪飾りの修理依頼ですか?」

 クロードが木の箱に入った髪飾りをしげしげと見つめる。

「鑑定しても?」

「うん、構わんよ」

 ジェラルドはそう答え、クロードが鑑定している様子を穏やかに見守っていた。

「…これは、隠蔽魔法?と言うか、この言語は?」

 表情がほとんど変わらないクロードが、眉間に皺を寄せて困っている様子を見せる。アクアマリンの瞳が、ジェラルドのサファイアの瞳を見つめ返した。そう、『鑑定』しても、その言語が読めないのだ。なぜなら異世界の言語だから。

「それは私の祖母の形見でね。祖母から我妻へ、我妻から息子の妻へ、それから孫娘へと受け継がれているんだ」

「修理自体は簡単にできそうに見えるが…」

 クリストフが布越しに髪飾りを手に取り、観察している。紅珊瑚の髪飾りは、精緻な細工が施されており、手に取るとチリチリと軽やかな鈴の音が鳴った。

「修理が出来ないわけじゃないんだが、鑑定が出来ないせいで職人達が不安がってしまってな」

「ジェラルド様の祖母と言えば、異世界人の?」

 クロードがわずかに目を見開く。

「そうだ。この隠蔽された言語は、異世界の言語。祖母がそのように隠蔽魔法を掛けたのだ。理由はわからないが…」


 コンコンコンコンとノックの音が扉からしてジェラルドが顔を上げると、秘書官のアルフィがレナードの来訪を告げた。

「お通ししてもよろしいですか?」

「レナード君に会うのも久しぶりだな!私も是非会いたいよ」

 ジェラルドは笑顔で答えた。

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