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第十三話「詰問会」

「それじゃあ、明日もよろしく」



「はいはい」



「『はい』は一回!」



「……はい」



「全く、これだから……」



 ある意味いつも通りのやり取り。けれども心なしか、照川の口調は軽い。何かいいことでもあったのだろうか?



「それじゃ、また明日」



 そのまま店の前で解散の運びとなる。



(さて……)



 照川の姿が見えなくなってから、俺自身も帰路につく。最も、今この場所が自宅の前ではあるのだが。



 だがここはあくまで店側の出入り口、自宅の玄関は店の裏側にある。だからちゃんと自宅側の玄関に向かわねばならない。まぁものの数分で裏側に回れてしまうため、大した労力ではないけれど。



「……ただいま~」



「このバカ兄貴!」



 帰宅した瞬間に飛んでくるのは罵声。……いや、いきなり罵声っておかしくないか?



「何がバカなんだ絢華」



「は? あんな可愛い女子と一緒に居るなんて聞いてないんだけど?」



「なんでそれがバカになるんだ。つーかお前に報告する義務なんてないだろうに」



「あるに決まってるでしょ!」



「あんな可愛い女の子を連れてお客として店に入ってきてるのに、私たちには何の説明もないのかな~?」



「そうだぞ零斗、いつの間にあんな子と仲良くなったんだ⁉」



「零斗にあんな子がいたとはね~。あんたも意外と隅に置けないじゃん」



 絢華だけでなく母さんも父さんも、果ては涼香さんまで出てくる。店はいいのか?



「ほかのみんなも説明を欲しがってるんだから、ちゃんと記者会見しないと」



「いや記者会見って……。そんなことを必要とすることでもないだろうに」



「いやいや」



「必要だってば」



「やってもらわなきゃねぇ」



「やれ」



 母さん、父さん、涼香さん、絢華の四人が息を合わせたように俺の言葉を否定する。命令気口調なのが誰なのかは言わずもがなだが。



「はぁ……わかったわかった。閉店したら説明するから。先に夕食の準備させろ」



 このままの膠着状態が続いたら今夜は全員夕食抜きになる。それに三人も抜け出してきて、店だってちゃんと回っているのか不安だ、



「いったん解散! 各々やることをやる!」



 俺の鶴の一声によって、その場はいったん終了する。




     *




「……それで、何を話せばいいんだ?」



 閉店したカフェナトラエ。そこに今日入店していた従業員を含めた全員が集まる。その手には俺が淹れた紅茶がある。



「聞きたいことなんで、一つに決まってるでしょバカ兄貴」



「そうそう。あの女の子が誰かってこと」



 絢華と涼香さんが真っ先に詰め寄ってくる。



「近い近い! 別にはぐらかしたりはしないっての」



「じゃあとっとと話して」



「はいはい……。彼女は照川陽里。同じ部活の同級生」



「照川陽里さんっていうんだ」



「へぇ~。確かに明るそうな子だったな。名は体を表すというけれど、まさにその通りだ」



 母さん父さん、その他の従業員の皆さんは名前だけでも大収穫だと言わんばかりの様子。



「同じ部活? あんな可愛い人が、オタクの溜まり場の部活にいるの?」



「……その言い方はさすがに怒るぞ」



「事実を指摘して起こるなんてバカじゃないの?」



「おいっ!」



 絢華と言えども、あの場所を、あの人たちを否定するのは我慢に堪えない。



「ストップ。そういう言い争いはあと」



 涼香さんが俺たちの間に入って止めにかかる。こういう時、涼香さんの大人の女性な部分には助けられる。



「……はぁ。言ってなかったけど、今年からいくつかの部活と統廃合して新しい部活になったんだ。照川は合併した別の部活の部員だったってだけ」



「それは初耳ね」



「別に言う必要もないし」



 普段の学校生活ならともかく、部活にはほとんど関わることなんてないのだから。



「じゃあ今日出かけてたのは、その彼女とデートするためだったんだ」



「は?」



「いや~。知らない間にあんな可愛い彼女をゲットしてただなんてねぇ~」



「はい?」



「意外と零斗もやるねぇ」



「ちょ、ちょっと待ってくださいよ涼香さん! あいつは彼女でも何でもないです!」



「は?」



「はい?」



「えっ?」



「うそっ?」



「わざわざ土曜日に二人で出かけたのに?」



「二人でカフェに入っちゃってるのに?」



「あんな楽しそうに話してたのに?」



 俺の言葉に対して一斉に疑問を鳴らす面々。



「照川さんって人が彼女だなんてありえないでしょ」



 けれども、それに対して最初に助け舟を出してくれたのは絢華。意外にして稀有なことだ。



「あんな可愛い人が、こんな特徴もなければ冴えもしないオタクのことを好きになるわけないでしょ!」



「おいっ!」



 助け舟を出したと見せかけて、やっぱり罵倒目的だったか。



「しかもなんか一瞬怒らせてたし。女の子の扱いがなってないって証拠じゃん。そんなバカ兄貴に彼女なんて、できるわけないでしょ?」



「こいつ……」



 言いたい放題言いやがって。



「……まぁでも、マジで絢華の言うとおり、俺のことなんて眼中にないのは間違いないだろうな」



「えぇ~……」



「むしろ性格は絢華そっくりなんだぞ? 部活でも俺を道具扱いしてくるんだから」



「そうなの?」



「今日だって、部活で出す広報誌のメイン執筆が照川で、その助手という名の何でも屋として呼ばれただけだから。うちに寄ったのは、前に友達と来たことを覚えてたからってだけだし」



 アレはデートでも何でもない。確かに最後うち(カフェ)に寄ると言い出した理由は分からないけど、決してデートではない。



 仮にそんなことをあいつの前で口走ろうものなら、



『は、何言ってんの? 馬鹿じゃないの!』



 と叱咤されるのがオチだろうな。



「なーんだ、つまんないの」



「つまんないって涼香さん……」



「だってついにあんたに彼女ができたのかって期待したのに。これでも心配してるんだよ?」



「……そもそも彼女なんていらないです。三次元に興味ないんで」



「そういうところが心配なんだよ……」



 やれやれと肩をすくめる涼香さん。別に彼女ができないことくらい、心配することでもないだろうに。



「それ以外に何かある?」



 彼女に関することはあらかた話したはずだ。だからこちらからみんなに聞き返す。



「「「「「…………」」」」」



 全員沈黙、それ即ち、話は終わったということだろう。



「ちなみに明日も行かなきゃいけないから、明日も店には入れなさそうだから」



「「「はい⁉︎」」」



 俺の予定に驚愕という声をあげたのは三人。



「いや、今日も入ってないだろ零斗!」



「仕方ないだろ」



「零斗目的のマダムたちが今日もたくさんいらっしゃって、ガックリして帰っていらったのに!」



「たまにはそういう日だってあるだろうに」



 毎週土日は入ってるのが基本だが、もちろん入らない日だってある。父さんも母さんも、俺が入店しない週末が久々だからって騒ぎすぎだ。



「あんたがいなかったら、私が入らなきゃいけなくなるじゃん! そんな予定今すぐ無くして!」 



「そんなの無理に決まってるだろ! 大体お前は最近サボりすぎだ。ちょっとは家に貢献しろ」



「そんなのあんた一人だけで十分でしょ! 私の分まで働きなさいよ‼︎」



「ふざけるなっ!」



 なんでこいつの分まで俺が負担しなきゃならないのか。



「……そういえば、零斗が女の子と一緒に居るのを見るのは二度目ね」



「はい?」



 絢華との言い争いに割り込んでくる母さん。



「昔一回、部屋の誘ってなかったっけ? 確か名前は……」



「あぁ、夢のこと?」



 夢は中学生の時に、一度俺の部屋に遊びに来ている。夢の部屋に行ったことがあって、その等価交換ってことで連れてきたのだ。その時は俺の部屋のゲームを一日中遊び倒した。



「そうそう夢ちゃん。私はてっきり、あの子が零斗の彼女だって思ってたけど」



「別に夢も彼女じゃないって。確かに一番仲のいい女子って言ったら、間違いなく夢だろうけど」



 男子含めてもと言っても過言ではない。高校からの付き合いである与一よりも、夢の方が気兼ねなく話をできると思う。



「でも、あの子……」



「は?」



「ううん、なんでもない。零斗の周りがなんだか楽しくなってきたんだなって。ちょっと安心しただけよ」



「???」



 母さんの言ったことは全くさっぱり理解できなかった。



まぁこうなりますよね。自分の店にお客として入って、しかもそれが女の子と一緒だったらねぇ……。

割と野次馬根性が強いナトラエの面々なのでした。


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