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第十話「連行された結果」

 連れてこられたのは部室。……ではなく図書室。



「図書室? なんで?」



「決まってるでしょ? 広報誌を書くための作業よ」



「はい?」



 確かに広報誌を書く手伝いをすることにはなったが、こんな時間に図書室で、一体何をしようというのか。



「あんたには、今から指定する本をすべて読んでもらうから」



「……は?」



「ついてきて」



 詳しい説明なく、照川は図書室の奥へ入っていく。その後ろについて、とある本棚の前に止まる。



「これとこれとこれ、あとこれも……」



 次から次へと本をピックアップしていく。



「これ、全部読んで。明後日までに」



「はい……?」



 分厚い本が七冊は積まれている。



「『ナポレオン全集』、『ナポレオン言語録』……。これ、本当に全部?」



 すべて合わせて一万ページくらいあるだろうか。それを明後日までにすべて読破なんて、不可能に決まっている。



「いや、さすがにこの量は……」



「拒否権なんてないから」



「…………」



 どうせそんなことだろうとは思っていたけど。



「……せめて、必要な部分だけを抽出してくれないか?」



「はぁ、仕方ないわね。じゃあひとまずそれをすべて貸出処理してきてもらって」



 言われた通り、腕に抱えた本を全て貸出手続きができる場所に持っていく。



「……これ、全部ですか?」



 司書の人も流石に目を丸くしていた。そりゃこんな分厚い本を何冊も、しかもその全てがナポレオンについて記載した書籍だ。そんな反応になるのも仕方ないだろう。



「とりあえず、借りてきた」



「はいこれ」



 戻ってきた俺に、一枚の紙を差し出してくる。本を置いてその紙を受け取って、書かれた文字を見る。



「……これって」



 そこに書かれていたものは、今さっき貸出処理してきた本のタイトルと、それに対応したページ数。



「そこに書いたページ数のところを絶対読んで。そうすれば、私が書きたいことについて分かると思うから」



「いや……え、なんでページ数まで覚えてるんだ……?」



 いくら照川のピックアップした本とはいえ、そのタイトルから中身まで完璧に覚えているとは恐れ入る。



「それ、私の家にもあるから。何度も読んで覚えてる」



「なるほど……」



「だから、零斗にも……」



『キーンコーンカーンコーン』



 照川が何かを言いかけようとしたと同時に予鈴が鳴り響く。お昼休みの終わりまであと十分のチャイムだ。



「……ひとまずこの時間はここまで。明後日の土曜日までに絶対読んでおくこと。部活は休んでもいいから」



「え、今なんて……」



 俺の疑問には答えず、照川は去って行ってしまった。



「……ひとまず俺も戻るか」



 大量の本を再び抱えて、教室への帰路へ着いた。




     *




「おっ、お帰り零斗」



「ただいま」



 教室に戻ると、まずは与一が出迎えてくれる。



「って、何その本の数? ……もしかして、また何か頼まれごと?」



「いや、今回は俺自身が借りたんだ」



「へぇ~。でも、そんなに読むの? 見た感じとんでもないページ数だけど……」



「あぁ。それについては読む場所を指定されたから問題ないと思う」



 それでもそこそこのページ数にはなるだろう。照川の言った通り、部活は休ませてもらって、本腰を入れて読もう。



「それにしても、それどうやって持ち帰るの?」



「……考える」



 バックの中身全部抜けば何とか入るだろうか? とはいえ、これをすべて持ち帰るのは骨が折れるだろうな。



「まぁ僕は何でもいいけどね。()()



「ん?」



「僕以外の人は、どうでも良くないみたいだよ」



「は?」



 与一が振り返った先、実に恐ろしい視線が無数に向けられている。



「……さて、海野くん」



「俺たちは君に聞きたいことがある」



「もちろん、要求に応じてくれるよな?」



 一瞬にして男子連中に囲まれる。逃げ場はどこにもない。



「ははは、はは……」



 一難去ってまた一難とはこのことを指すのかと、身をもって実感した。



「はいはい〜、面倒だけど授業やるよ〜……って、みんなどうしたの?」



 いつものボヤきと共に教室に入ってくるのは成瀬先生。五限目は成瀬先生の古典の時間だったな。



「止めないでくれ、成瀬ちゃん!」



「俺たちは……俺たちはどうしても、こいつに聞かなきゃいけないことがあるんだ‼︎」



「成瀬ちゃんって言うな。……それで、聞かなきゃいけないことってなんなの?」



「こいつが照川陽里さんに引っ張られていったんですよ!」



「ほうほう」



 首を縦に振りながら、なぜか椅子に着席する成瀬先生。



「先生、一体何を……?」



「え、だってそんな面白そうな話を妨害しちゃいけないでしょ。私はここに座っているから、存分に話して頂戴」



「ちょっ、授業はどうするんですか⁉︎」



「だって面ど……ちゃんと予定より早く進んでいるから大丈夫」



「今面倒だって言いかけましたよね⁉︎」



 この人の面倒臭がりは相変わらずだ……。



「それに、一応自分の部活のことは知っていなくちゃいけないしね」



「だったら部活に顔を出せばいいだけでしょ……」



「え? あはははは」



「笑ってごまかさないでください!」



 今度から俺も成瀬先生のことを成瀬ちゃんと呼んでやろう。



「おいっ! そんなことよりも、照川陽里さんとの関係を洗いざらい告白しろ!」



 先生との話は遮られ、再び男子に囲まれる。



「……話すって言っても、別に何ら特別なことはないって」



「はぁ⁉」



「あの照川陽里さんがわざわざ教室までやってきたのに⁉」



「お前のことを引っ張って行ったのにか⁉」



 それぞれが言いたい放題言っていく。



「別にお前らの考えてるようなことはなんもないっての。今は照川が執筆予定の部の広報誌の手伝いをすることになっただけだ。その手伝いのために呼ばれただけだっての」



「手伝い?」



「広報誌?」



 首を傾げる男子がちらほらと。



「うちの部活は活動記録を残すためにそういうのを作ってるの。今回その執筆担当が照川になったってだけ」



「なるほど」



 何人かはその説明で納得した様子。



「その広報誌、絶対に手に入れなきゃ……」



「戦争だ……」



「設置待ちしてやろうか……」



「いや印刷室出待ちだろ……」



 一部からは怖い声が聞こえてくる。照川が書くというだけで、ここまでのことになるのか……。というか印刷は基本部長である俺しか手続きができないから、印刷室から出た瞬間に襲い掛かってこられるのは勘弁してほしい。



(まずったか……?)



 言わなきゃいいことを口走った気がする。



「それにしても、やっぱり海野が照川さんと同じ部活だっていう噂は本当だったのか……」



「それってつまり、『文化部の三大美女』と同じ空間にいるってことだよな?」



「は、なにそれ? 羨ましすぎるんだが?」



「そんなの処されて当然だよな?」



「山? 川?」



「トーキョーワンだろ?」



「おいそこやめろ」



 人を埋め立てる場所の相談を始めるな。



「っていうか、夢も助けてくれよ……。夢なら知ってるだろ、特に何もないって」



 夢は部活監査委員だから、うちの部室にもやってくる。そうでなくても昨日みたいに、部室にあるゲームをしにちょくちょくやってくるのだから。



「……でも零斗って、部室で給仕してるとき結構楽しそうだよね?」



「ちょ⁉」



「え、給仕?」



 男子連中の大半が首を傾げる。



「零斗の部室には給湯器があって、それを使ってよく紅茶を淹れてるんだ」



「……なにそれ?」



「は? イケメンか?」



「ナチュラルに点数稼ぎしてやがるな……」



「そういうんじゃないって!」



 紅茶を淹れるのは趣味みたいなものであって、それを逆手にとってあの三人が強要してくるのだ。



 そもそも三次元になんて興味ないし、ましてや召使い扱いしてくるあの三人のことなど心底どうでもいい。



 だからこそ、あの写真を撮った真犯人をあの三人の中から見つけ出して、立場を逆転してやるって決めているのだ。



 それにしても、



「っていうか、誤解を生む言い方をしないでくれよ夢……」



 夢が変なことを言わなければ、無用の誤解を生まずに済んだのに。



「ふーん」



「……なんで怒ってるんだ?」



「しらなーい」



 照川に強制連行されるまであんなに機嫌が良さそうだったのに、どうして急に不機嫌になったのか。俺がいなくなってから何かあったのだろうか?



「つーんだ」



 結局その日の残りをかけて、夢のご機嫌取りに勤しむこととなった。



まぁ案の定、零斗は吊し上げられましたね笑

陽里ってああ見えて実は頭がいいです。特に好きなものに手は抜かないタイプだったり


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