5000ボルのダッチオーブンでドラゴン肉を焼いた後で・・・・・・
※焚き火にはご注意ください。
※登場人物と同じことをすると犯罪になることがあります。
「ドーモ、アイアンヘルムです。今回は愛車のプラチナさんに乗ってボタニカル大森林にお邪魔してマース!!いやー、なんか近くの村に行って聞いたら魔物が出るとかお化けが出るとか?とにかくヤバイからあんな森なくなりゃいいのにとか、散々言われてたけど、イイネここ!雄大な自然を感じる!!」
あちこちに大人が10人手を繋いで囲んでも抱えられない幹の太さの巨木が生えまくっているせいか、割と木と木の隙間は大きめの道路くらいのスペースが空いているため普通に走る分には特に困らない。プラチナさんのタイヤに発生する走行結界は沼地だろうがダートだろうが舗装道路の走りに変えてしまうチート仕様。
でもでっかい根っこに突っ込むとバウンドしてケツにくる!
「いやー、日本にいた頃はオフロード自体ほとんど走らなかったし、そもそもこんなにでかい木が生えてるところなんて屋久島くらいしかないんじゃないか?貴重な体験有難いです。が、不満がある!!景色が代わり映えしないから迷う!!迷ったのでもうご飯にする!!」
やけくそ気味に少し開けたところを発見した俺はテキパキとテントを設置し、火を起こす。
「今回はー、これ!ミスリルダッチオーブン!!魔術学院のキャサリンに聞いたら、焼く時に食材に空気中のマナが入り込むからめっちゃ美味しくなるんだって!マナの味なんかわかんねーよ!!」
テンションを上げていく俺、今回の俺はドラゴンの肉を買ってきている。ドラゴンだよドラゴン!?食っていいのかアレ!?テンション上げなきゃ食えないっての。
「そして、今回の食材はグランドドラゴンの尻尾肉!!なんと100g1000ボル・・・・・・国産和牛ぐらいのお値段?霜降りかつなんかドス赤いです。うんまそー!」
例によって焚き火は火の精霊に加減してもらうことで最適な焼き加減を目指す。
余分な脂が落ち、表面はこんがり、中はしっとりとしたミディアムに焼き上げる。
「これが、ドラゴンのテールステーキ!?よ、ヨダレがとまんねええええ!!いっただきまーす!!」
1口放り込んだ瞬間に俺は理解する。
「牛肉よりも臭みがなく、とろけるような柔らかさ・・・・・・・・・というより半生だとなんか思っていたより水っぽいなこれ、なんか俺食ったことあるぞ???クジラ肉じゃねえの???」
これこっちの世界の人には分からないから言わないけどさ、友達と集まって協力プレイで素材集める狩りゲーがあったんだけど、美味そうにドラゴンの肉焼いて食うのよ。俺の子供時代の憧れがクジラ肉にやられちまったよ。
「ってこの世界にクジラいるのかな?次は海岸攻めてみるけどリクエストあったらよろしく!まあクジラ肉っぽいけどおいしいことはおいしいから残さず食べる!っておいキャサリン、マナの味やっぱりわかんねえよ!」
そして俺は腹いっぱいになったのでハンモックを固定するとうたた寝をするのだった。
ブーン
ブーン
ブブブブブブーン
「うるっせえ!蚊か!?ハエか!?残念だったな、俺の鎧には防虫結界も組み込まれてんだよ!たかれないからうせなぁ!って、なんじゃこりゃ!?」
スズメサイズの蚊が10匹ぐらい俺に群がっている。でかい、痛そう、ていうかあれ注射針くらいの口がすげー怖い。
幸いにも防虫結界がバリバリに効いてるようで文字通り歯が立たないみたいだが、気持ち悪い。俺はハンモックから飛び降りると、ミスリルダッチオーブンをハエたたきの如く叩きつけまくる。
「オラ!スマッシュ!!ひゅー!!たのしぃ!!」
パコン!
スパン!
ペチン!
ちょうどバドミントンのシャトルを打つ感じに当たる。
俺のフルプレートは体を捻ったり飛び跳ねたりするのには向いていないが、腕を振り下ろす分には全く制限がないのだ。むしろ筋力増幅とウェイトがある分キレキレのスマッシュが打てる。
10分ぐらい無心で打ち込んでたら奴らはいなくなっていた。そして、ふと我にかえって確認したミスリルダッチオーブンは、蚊を叩いた反動でボコボコに変形かつ、さらに蚊から出たやばい汁で見るも無惨なゴミに成り果てていた。きったねえ。
「あー、なんつーか、ごめん。これでもう調理できる気がしないからこれは、地面に埋葬するわ。うん、職人さんマジごめん」
さらばミスリルダッチオーブン。お前は悪くない。蚊が悪いのだ。ていうかハンモックしまってテントで寝よ。夜中にまた来たら嫌だし。
エルフのテントは虫除けバッチリ。
「エルフのテントってなんかこことは別の、森の中のいい匂いするんだよね。エルフ臭とかあるのかな?今度長老に会ったら聞いてみようかな。あ、ちなみにエルフの長老ってあんまり外出てこないから知られてないけど見た目は俺より若いイケメンよ。でも2000歳とからしいから人は見かけによらないね」
元から薄暗い大森林に夜が訪れる
変な虫が来ると嫌なので外の焚き火はガンガン燃やしてキャンプファイヤー状態にしておく。飛んで火に入る夏の虫、て言葉があるけどまじで吸い込まれていくからこれで安心。
「一応ランタンにも火の精霊に入ってもらってテントに持ち込んでるけど外眩しいわー。バイザー閉じて寝ちゃおう。それじゃ本日はここまでーsee you again!!」
俺は記録水晶をオフにして深い眠りにつくのであった。
今日はどこだか知らない宿にいる夢を見ている。野宿し過ぎで全然宿とか行かないからキャンプギア購入に資金が使われまくるよね。
暖炉の火が暖かい。遠赤外線で低温火傷しそうな心地良さ。
窓辺に座っているのはこないだの夢でも見た銀髪のスタイル抜群のキレイなおねーちゃん。日本にもこっちにもこんな知り合いは居ない。こっちで割と親しくしているキャサリンはもっとガキっぽいし、フローラ王女は大人しい通り越してコミュ障の引きこもりだし、錬金術師のミーアはマッドサイエンティストでヤベー奴だし。好みのどストライクなんだけどマジで知らん人なのよ。向こうも喋ってくれないんだけど視線は俺の方に向いている。
「――――、・・・・・・!」
何を言ってるか分からないが手を伸ばして心配そうにこちらを見ている彼女に俺はかける言葉がみつからなかった。
パチパチ
暖炉の火がひときわ強く燃える音がする。
ゴオオ
ブワァ
パチパチパチ
うん、すげー燃えてる。俺わかったわ。
「やっぱりそうですよねーーー!?森林火災起こしちまった!!」
飛び起きると同時に記録水晶をオンにして、テントを出ればそこは一面オレンジに輝く世界。
「あははは、うわー、すっげー綺麗」
は!?俺は何言ってるんだ!?現実逃避してる場合じゃないぞ!?とりあえず状況判断だ!!
・炎は既に周辺の木々に燃え移っており30mくらいの高さの火柱が出てる。
・オーラのごとく繋がって辺り一面燃えている。
・まだ燃えてない方向もあるので燃える前に抜ければ何とかなりそう。
・鎧の性能のおかげで実はこの状況でも俺は快適。
「消火は・・・・・・無理そうなのでテントとギア積み込んで出発しまーす!!」
俺は手早く荷物を片付けると急いでボタニカル大森林を後にしたのだった。
配信された動画のコメントは非常に賑やかだった。
東の賢者「ボタニカル大森林て魔王軍の四天王いたはずだけど、今空から見たら森林消し炭になってて受ける」
遠くの王様「開墾しやすくなったしいいんじゃない?」
キャサリン「マナの味が分からないってセンスないわね」
ドワーフ爺「キャサリン沸いた(笑)」
キャサリン「エヘ」
付近の村長「あの邪悪な森がこんなにあっさりと消滅してくれるなんて夢のようです」
魔王軍四天王「木のゼペットは我ら四天王の中では1番の小物。あの大火災ではひとたまりもあるまい」
「プラチナさんに、すす汚れが着いちまう。洗車しねーとな」
俺はボタニカル大森林を走り抜け、ひたすらプラチナさんのアクセルを回した。ひと心地着いたのはすっかり朝になってからだった。
「はーい、かゆいところはありませんかー?なんてねー。ピカれ!」
丁寧に優しく拭きあげる。無表情なバイクのはずのプラチナさんもご機嫌に見えるから不思議なもんである。
それにしても朝日を浴びて艶めかしく輝くメタリックボディ。惚れ惚れするわー。森を1つ地図から消してしまった罪悪感すら薄れる。と言うか忘れたいので無理くり忘れてしまおう。
「街に戻って補給するかな」
俺はプラチナさんに跨ると近くの街目掛けて走るのだった。
次回は街です。