第1話 異世界転移
「っつ…。俺、学校帰りだったよな。」
校門を出ようとしたところから記憶が無いのだか、俺はどうやら横たわっているようだ。
ふと上を見上げれば日差しが降り注ぎ、周りには見慣れない大森林が広がる。
「こんな大自然高校の近くにあったっけか?」
ふとそう思いつつ、俺は違和感を感じた。
手は動くのだということを確認しつつ、俺は身体?と思われるところを隅々まで触ってみた。
そして分かった。
「素っ裸じゃねぇかぁ!!!」
思わずそう叫び、立ち上がってしまった。
人がいるかもいないかもわからないこの場所で大声で叫んでしまったことを恥じらいつつ、
「まずは着るモン探さねぇと」
と思い、移動し始めることにした。
「本っ当ここは一体なんなんだ。」
とりあえず進んではみるが、周りには樹々とか植物は生えていたが、人間とか、動物といった生物が感じられなかった。
「てかこれ日本なら公然わいせつで逮捕だよなぁ」
日本というか地球でないことは薄々分かりつつも、そう呟いた。
しばらく進んだところで、開けた場所に出た。
プレハブハウスが一つ建ちそうなくらいの割と狭い場所だったが、そこには土台の岩と細長い岩の二つから成り立つ石柱がそびえていた。
「一体なんなんだコレ」
さっきから同じ言葉しか出てこない。
とふと、石柱に何か巻きつけてあることに気付いた。
よく見たら、ロープと大きな植物の葉が組み合わせて巻きつけられているようだ。
よくよく考えたら、俺は今まで素っ裸で行動していた事を忘れていた。
そのロープとかと自分の身体を交互に見てつつ「これ服の代わりになるか?」と思い、石柱の葉付きロープを咄嗟に引きちぎり取った。
引きちぎった葉付きロープを簡単に結び、葉をふんどしのように腰まわりに装着した。
衣服としては不十分かもしれないが、今までの身なりに比べたら充分すぎた。
「これが俺の冒険ライフの始まりってわけかぁ」
思い描いていた異世界冒険ライフとは違っていたが、新たな世界に胸躍らせつつ、探索を続けることにした。
**
もう何時間歩いただろう。
あれから同じ景色ばかりが続き、進展もない。
「俺の知ってる異世界じゃねぇっ!」
ととりあえず意味もなく叫んでみた。
「―何がですか?」
「エッ…」
突然の声と出来事に驚きを隠せなかった。
「いやぁ……俺の言葉わかるのか?」
「わっ、分かりますよ」
日本語は通じる。
一つ学んだ。
とりあえず言葉を返すのに夢中で顔をよく見て無かったが、見てみるとふんわりとした雰囲気の顔立ち、お団子ヘアー、制服らしきものを身につけている可憐な美少女だ。
ただ明らかに俺のことを怪しんでたので、とりあえず緊張を和らげる的なことから始めようとした。
「大丈夫だ。怪しい奴じゃないんだ」
「そんな格好してて自分で言うんですか!?」
ああ、そういえば確かに…
これは怪しい。
「じ、実は道に迷ってしまったんだ。食べ物や宿のアテもない。とりあえず休める所だけでもいいから教えてくれないか。」
「…」
少女は数秒間黙った後、
「分かりました。身を隠せそうな所だけ教えますから、ついてきてください。」
俺が求めてるものとは少々ニュアンスが違う気がしたが、一期一会、折角の出会いなのだから、ありがたくついていくことにした。
少女は常に間隔を保ちながら歩いている。まだ信用されてないってことか。
「なぁ、お前の名前は何なんだ?」
「あんまり喋らないで。」
質問にも答えてくれなかった。
しばらく森林を進むと、大きくそびえ立つ岩の壁が見えてきた。森林を抜けて岩肌が直接見える所に立つと、しばらく岩肌に沿って進んだ所に大きな洞穴のようなものがあった。
「ここ。これなら雨風を防げる。」
「おお、そうだな。」
広く大きな洞穴は確かに雨風を防ぐのには充分だったが、逆に言うとそれだけだった。
「なぁ、俺本当に何もかも分かんねぇんだよ。せめてもうちょっと、食べ物とか生活についてぐらい教えてくれないか?」
「…分かった。じゃあちょっとついてきて。寝床を作るのに使う草を取りに行くから」
良かったぁ。異世界生活のいろはも知らないで第一発見者に行かれてしまうのは御免だからな。
「これがふわふわ草。葉の白い部分を重ねれば寝れるようになる。」
へぇ、この世界には重ねて敷くだけでベッドになる植物があんのか。また学んだ。
「このキノコは生でも食べられる。すぐに新しいキノコが生えてくるから困ることもない。」
へぇ、毎日キノコってのはアレだが、多分ずっとここにいるわけじゃないだろうし、飢え死にするよかマシだ。
他にも飲み水の確保とか最低限生活に必要なことを教えてもらった。
「本当にありがとう。感謝してるよ。」
「別に」
会ったときから終始反応は変わらなかったが、初めて会った奴にここまでついてきてくれたのはとてもありがたい。
「じゃあ、もういいよね。」
そう言って去ろうとした少女に向かって、最後に俺は訪ねた。
「お前、何か言いたい事あるだろ。」
「!」
図星なようだ。
「言いたいことあるなら言ってみろよ」
俺がそう言った途端、血相を変えて俺に迫ってきた。
「絶対に里に近づかないで!絶対に、絶対だからね!!」
よくは分からなかったが、とりあえずそう言った。少女はそれ以上は言わなかったし、俺もそれ以上は聞かなかった。
少女はまた振り向き、行こうとした。
最初から良好とは言えない関係だったが、本当にこのまま分かれていいのかと思った。こんな形で終わってしまってはしこりが残ってしまう気がした。
だからせめて、自分の名前だけでも名乗っておきたかった。
「俺のっ、俺の名前はっ―」
急に口が止まった。
「(口がっ、口が動かない!)」
現実の名前「幡生木敬太」は覚えているのだが、何故か口にできない。
そして彼女は行ってしまった。洞穴を抜けて去って行った。
なんだよ!こんな別れ方をしたいはずじゃなかったのに。
ただ名前を言えなかっただけなのに、悔しい。すごく悔しい。
たかが名前を言えなかっただけだ、なのに悔しい、涙が溢れる。
「うわーーっ!!!」
とりあえず叫ぶと、声が洞穴中にこだました。
**
数時間経って、少し冷静になってから、現状を再確認することにした。気付けば夜になっていた。
「日本語の通じる世界。謎の植物や食物、石柱。可憐な少女。名前を言おうとしたが、名乗れなかった。本当に不思議な世界だ。」
振り返れることはこれくらいだ。
もう時間も遅いに違いない。今日採ってきたキノコを食事として取り、ふわふわ草の寝床に就くことにした。