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負けヒロインは元気がない

本日二本目です。


 俺は彼女にそんな表情をして欲しくなくて、どうにかしたいと思った。でも、彼女なんて一度だって出来なかった俺には何にも浮かばなくって。前世よく妹が落ち込んでいた時にしていたように彼女の頭を撫でた。


「……………えっ?」


「水瀬はさ……凄いよ……こんな俺なんか……放って帰るのが普通だし……このノートさ……水瀬のだろ?…てことは多分なんだけどこれやろうって言ったの水瀬なんだ。そんなこと普通クラスメイトにしようとする人なんていない。でも、水瀬はしてくれた。それってさ凄いことだと思う。水瀬はそう思ってないかも知れないけど俺はスゲェ感謝してるだから、そんな顔をしないで欲しい」


言葉が纏まらないでも、伝えたいと思ったことは伝えた。だから俺は手を引き彼女の様子を伺った。

彼女は泣いていた。自分はそんな良い人物じゃないと自己嫌悪に陥って。そうして、彼女は自分のことがいかに嫌な人間なのか呟き始めた。


「私さ、ここに居るのは……湊川君が心配だから、このノートを渡したかったからなんかじゃないの……一時間前、幼馴染みに告白して振られて、悲しくて哀しくて、一人になれる静かな場所を探してたらここに居て。……湊川君を見て勝手にこの人は私と同じで最後の最後で寂しい思いをしてるんだって同情して、気を紛らわそうとしてた。だから……感謝なんて言わないで、私を褒めないで、私はそんな大層な人じゃない!私は自分勝手で最低な女なの」


彼女は言い終えると、顔をベットに埋め嗚咽を漏らした。


(最低なのは、俺だ。水瀬を傷つけないようにしようとしてたのに俺は、彼女の踏み込んじゃいけないところに踏み込んでしまった。だから泣くな。悪いのは全部知ってて触れてしまった俺が悪いんだ)


俺はそう言えたらどれだけ楽だろうと思った。けど、これを言っても信じられないだろうし、余計に彼女を傷つけてしまいそうだ。だから、言葉をこれ以上かけることなく俺は水瀬の柔らかな髪を彼女が泣き止むまで撫で続けるのだった。
















水瀬が泣き止んだのは、13時前それまで彼女はただただ嗚咽を漏らし泣き腫らしていた。ようやく落ち着いた彼女は身体を起こし、俺の方を見た。


「ごめんね……急に泣いたりして……湊川君を傷つけるようなこと言って」


水瀬はそういうと、深々と頭を下げた。


「気にしなくても良いよ。俺はそれ以上に嬉しかった。クラスのみんなから気にかけてもらえてるんだって知れて。正直に言ってくれて、水瀬の皆んなが知らない一面を知れたしなわ、普段は誰にでも優しくしてどんなに辛くても泣かない水瀬が実は、人並みの感情がちゃんとあって、泣き虫だって分かった」


俺はこれ以上この話を続けるのはお互いに意味がないと思って話を別方向に持っていった。


「何それ、私はそんな聖人君子じゃないよ。私だって人並みに嫉妬して怒って、泣くもん。普通の女の子なんだから」


そう言って彼女はプクーと頰を膨らませ不満を漏らす。


(なんか、リスみたいで可愛いな。前世の女がこんなことしてもときめなかったけど、水瀬がやると結構くるな。頰プニプニしたい)


「悪い悪い、クラスの中だと聖女様なんてあだ名で呼ばれてたから。そんなイメージがあったんだ」


「それ辞めてよ。この年で聖女とか呼ばれるの恥ずかしい」


水瀬はその名前で呼ばれると本当に、恥ずかしそうにして顔を真っ赤に染めてまたベットに顔を埋めた。


「分かったよ。水瀬」


俺は、こんな純粋で可愛い聖女様を選ばない主人公は見る目がないなと思いつつまた彼女が起き上がるまで頭を撫でる。


そうしていると、ガラガラと扉が開く音が聞こえ、そちらを見ると保健室の先生がニマニマとした顔でこちらを見ていた。


「おやおや、これはこれはお邪魔しちゃた感じかな?見たところ湊川君は大丈夫そうみたいだから、君の親御さんには大丈夫だと伝えておくよ、孫の顔を見るのも早そうですよともね」


そう言って、俺が何かを言おうとする前にバタンとドアを閉め先生は颯爽と消えてしまった。


「あはは……何かごめんね?高校生活最後に盛大な勘違いさせちゃって」


水瀬はこの状況を招いてしまったことに対して、申し訳なさそうにしながら俺に謝った。


「まぁ、うん。気にするな。どうせ俺が水瀬を彼女ですって親に伝えても信じられないから。ほら、俺魅力あんまりないし」


「……私はそんなことないと思ったけどな……………」


「…何か言った?」


俺は彼女が小さな声で否定してくれたことが嬉しかったが恥ずかしくって敢えて聞こえなかったフリをする。


「ううん、何でもない。それよりさ私が泣いたところ見せたんだから。湊川君も泣かないと不公平だと思うんだ。ほらこのノート読もう?そして、私に泣いているとこ見せて」


彼女は自分の言ったことを忘れようとノートを開いて、俺に見せてきた。そして、俺たちはそのノートを見て皆んな俺のことなんか心配せず変なばかりこと書いてるなと笑い合い、先ほどまでの暗い雰囲気は無くなり、和やかな時間を水瀬と過ごした。









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