負けヒロインとナンパ
卓球で白熱した試合を繰り広げた俺達は、お互いにもう体力の限界が来ていたため、一度卓球のスペースから荷物を持って出た。
その際に、俺達の試合を見ていた人達にさっきの試合は凄かった、あのサーブどうやってるの?と労いの言葉や向上心溢れる質問など色々声を掛けてもらった。
俺は正直こうやって人に褒められたり尊敬の眼差しを向けられた機会がほとんどなかったため、どうしていいか分からず愛想笑いを浮かべてありがとうございますとただ言うだけのマシーンになっていた。
ちなみに前世では出来なかったサーブについて聞かれたが、あれは一般人に教えてはいけないものだと思い言わなかった。確かにイメージ通りのあり得ない回転を掛けることはできた、ただそれを打つ度にかなり腕への負担が大きく、たった一試合で俺の筋肉が悲鳴を上げている。
上半身を普段使わないからと言っても、流石にこの筋肉痛は異常だ。恐らくだが物理法則を無視すること自体は無理じゃないけど、それをするためには明確なイメージとそれなりの代償が必要なんだと俺は考えている。
こんな技を人に教えて、その人の身体を壊すのは正直寝覚めが悪いので俺はその少年達には練習すればいつか出来るよとだけ言っておいた。
水瀬の方も同じ質問されていたが、彼女は感覚タイプの天才なので説明しても聞いた人はいまいち理解されていなかった。水瀬がケロッとしてるのはやはりメインキャラクターだから俺たちのようなモブとはスペックが違うからなのだろう。
「君、凄く卓球上手いんだね。良かったら俺たちに卓球教えてくんない?」
「そうそう、頼むわ。俺達今度サークル対抗の試合で次絶対勝ちたいからよ」
と最後の方になると大学のサークルでスポーツセンターに来ていたチャラそうな男達が水瀬をナンパしていた。
俺はそれを見てはぁと溜息を吐き、俺に声をかけてくれていた少年たちにこれで終わりといって打ち切り、男達と水瀬の間に入ってガンを飛ばす。
「オタクらと彼女じゃレベルが違うんで、何かを学ぶことすら出来ませんよ。てか、あんたらサークルなのにラケット持ってきてないのか?卓球舐めてんだろ。大方可愛い子でも居てその子目当てで入った口だろあんたら。どうせ今みたいに顔と身体目当て話しかけてるから彼女が今も出来ないんだよ?ほら、今も顔じゃなくて下の方向いてるだろ。そういうとこだよ。あんたらがモテないの。ついでに周りに配慮するということも出来ない。ほら、今も出口で水瀬をナンパして往来の邪魔になってるだろ?後ろのお爺さんとか中学生達が邪魔そうに見てんの気づかないのか。そういうところが駄目なんだよ。ほら、これ以上ここに居て恥を掻きたくないら消えろ」
俺がそう言うと、ようやくナンパ野郎ども周囲の人達から白い目で見られていることに気づき顔を真っ赤に染め
「チッ!」
「ガン萎え、ああー誰かさんのせいで金無駄にしたわ」
と捨て台詞を吐いてスポーツセンターを出て行った。嫌、お前らの自業自得だろとは思ったが口には出さなかった。本当こういうのがあるのもマンガの世界ならではだよなー。前世なら警察呼ばれても文句言われないからナンパって。てか、初めてナンパ見たな俺。あれで人が釣れる可能性があるのかー案外この世界の女性はちょろいのかもしれないと考えてているとチョンチョンと背中を指で押されている衝撃が来たので、俺は後ろを振り返ると水瀬が申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
「ゴメンね、湊川くん。私のせいで余計なことに巻き込んじゃって」
「気にするな。初めてナンパ見たから間に入るのが遅れた。あいつらが来る前にこの場所を離れようとしなかった俺たち両方の責任だ。何より悪いのはあいつらだ、水瀬が気に病む必要はないよ」
「うん、ありがとう。もう私気にしない。でもお礼がしたいからジュース奢らせて?」
水瀬は俺の言葉を聞いて、気が楽になったのかいつもの明るい笑顔を浮かべお礼を言って来た。
俺は彼女の表情を見て、あぁきちんと俺は彼女を前に向ける手助けが出来ているのだ分かり、思わず嬉しくて笑みが漏れた。
「あぁ、じゃあ有り難く奢ってもらうかな。実はさっきの人試合で汗が流れまくって喉からからなんだ」
「…………///……うん、そうだね。私も同じとっても喉渇いてる。さっ、飲み物買いに行こう。このままだと、干からびちゃいそうだよ」
水瀬は少しだけ、顔を俯けて俺から距離を取ると軽い足取りで自販機に向かって行く。
俺は、その後をゆっくりと追いかけ自販機で何を買ってもらおうか呑気に考えるのだった。
◇小鳥視点
私は湊川君と白熱した戦いを繰り広げ、かなり疲労していた。でも、この疲労が正直心地いい。こんなにも熱中した試合が出来たのだ不満なんて一つもない。
私と試合した人は一方的な試合になって心が折れてしまう人ばかりで子供の頃大好きだった卓球がさっきの試合をするまで怖かった。湊川君と試合をしてまた傷つけてしまうそう思うと心が苦しかった。正直最初のサーブを見た時点では、あぁ彼もまたみんなのようになるんだと思っていた。けど、そんな考えは裏切られた彼は私の想像を超えるどころか今まで対戦したどんな人よりも強かった。
しかもあり得ないスピンでピン球が動くので慣れるまでは防戦一方、一、二セット目両方とも取られてしまった。だけど二セットも先取をされたけどその後は彼の手の内がある程度分かるようになり、なんとか試合に勝てた。
とてつもなく嬉しかった。楽しかった。生まれて初めてこんなに卓球が面白いと思えた。しかも、彼は今までの人達と違い悔しがってこそいるがとても楽しそうにしていた。それが何より私には嬉しかった。だって私の卓球は誰かを傷つけるものじゃなかったんだって思えたから。
しかも、試合で疲れた私たちは一度外に出て休憩しようとした時、私たちの試合を見ていた人達に、尊敬な眼差しを向けられながら称賛やアドバイスが欲しいなどなど沢山の言葉をかけてもらった。それもあって私は卓球に対して抱いていた恐怖心はとっくになくなった。
あっ、でも私のアドバイスを聞いても何も分からなかったみたいなのでそこは少し申し訳なかった。
次は聞かれたらきちんと分かるように伝えたいな。
なんて、気分が良くなっていた私の元に二人の大学生くらいの男達が声を掛けて来た。
内容は高校生になってからよくされるようになったナンパだった。
「いや、私彼と今遊んでいるのでごめんなさい」
とゆうくんがいた時に使っていた決まり文句を使うも、中々引いてくれなかった。
だけど、湊川君は直ぐに気づいて助けてくれた。
「ゴメンね、湊川くん。私のせいで余計なことに巻き込んじゃって」
「気にするな。初めてナンパ見たから間に入るのが遅れた。あいつらが来る前にこの場所を離れようとしなかった俺たち両方の責任だ。何より悪いのはあいつらだ、水瀬が気に病む必要はない」
しかも、私が上手く対処できなくて迷惑をかけたのにそれをお互い様だと言ってくれた。当然そんなに優しくされれば否応にでも胸は高鳴り、この気持ちがどんどん大きくなっていくのを感じる。
しかも、トドメにあのイケメンフェイスから繰り出せる笑みによって私はもうまともに彼の顔をまともに見ることが出来なくなった。
「…………///……うん、そうだね。私も同じとっても喉渇いてる。さっ、飲み物買いに行こう。このままだと、干からびちゃいそうだよ」
私は何とか誤魔化そうと元気に振る舞ったが正直無理だ。顔がにやける。ゆうくんにだって見せたことのないほど顔がだらしなく緩んでいるのが分かる。
(ああーもう、しっかりしなさい私!こんなところ湊川君に見られたら幻滅されちゃう。早くこのだらしない顔を戻しなさい……………むりー///、やっぱり緩んじゃうよー)
と自販機に着くまでの間私はどうにかこの顔を元に戻そうと四苦八苦するのだった。
ナンパなんて現実で見たこと一回しかありません。しかも、断られたら直ぐ諦めるのでラノベみたく手あげるとか想像できないですよね。まぁ、一度くらい経験してみたいとは思いますよ。ナンパされる側