ここが漫画の世界だと気づくが物語はすでに終わっている。
新作始めました。
これは割と設定が気に入っているので更新頑張ろうと思います
桜の花が舞い俺たちの別れと新たな出会いを彩る季節のとある卒業式の日。平凡な高校生活を送っていた湊川 奏はとある名前を聞いて頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
「出席番号17番堺 勇人 」
「はい!」
(さか…い…ゆう……と……?)
俺はその名前を聞いた瞬間、物凄い頭痛に襲われ頭を抑える。目の前がグルグルと反転し気分が悪いし、なんなら胃の中にあるものをぶち撒けてしまいそうだ。だが、そんなことをすればみんなの晴れ舞台である卒業式を色んな意味で汚してしまう。
「水瀬、気分が悪くなった……保健室に行きたいから誰か先生呼んでくれないか?マジで……ヤバイ……」
「……えっ?……」
俺はどうにか隣の奴に気分が悪いため保健室に行きたいうまを伝える。そして自分が呼んだ名前に違和感を感じたせいで、さらに気分が悪くなる。
(どういう……ことだ?…人の名前を聞いたり……呼んだりして…今まで…こんなに気分が悪く…なる……こと……なかったのに……)
「大丈夫!?湊川君!待っててすぐに先生呼ぶから」
そして、隣の水瀬から発せられた声を聞いて俺は目を見開き、水瀬の顔を見た。
隣にいた水瀬は綺麗な茶髪のストレートロングで、後ろ髪をバレッタで留めている。瞳は曇ひとつない空のような透き通るような葵色、唇は卒業式という晴れ舞台なのか普段より赤みが強いように感じた。そしてその全てが完璧に配置されている美少女顔だ。俺は普段何度も目にした顔なのにその顔を久しぶりに見たかのような錯覚に陥る。
(なんだよ……これ……まるで……何か別の……人になったみたいな感覚は)
俺はこれ以上見ていたらさらに気分が悪くなりそうだと思い、顔を彼女の反対側に向け壇上に立っている人物を見た。
そして、その男を見た瞬間脳内にとある名が浮かび、口から溢れた。
「………二人の幼馴染みと平凡な僕……」
この言葉を呟いた瞬間、脳内に膨大な量の情報が頭に入ってきて、俺はその量を処理することが出来ず意識が無くなった。
◇
『この漫画の水瀬ってヒロイン可愛そうだよな、何年間も幼馴染みの主人公のことを想っていたのに、高校になって突然現れたもう一人の幼馴染みに主人公を取られるんだから。作品自体は好きなんだけど、この終わらせ方は気に食わないな』
とある教室で、一人の男が漫画を片手に友人と話していた。
『仕方ないだろ?だってもう一人の星川の方がアピールが積極的だし、読者からの人気も高いんだからそりゃ人気な方とくっつけるのが作家ってもんじゃない』
『そうは言ってもさぁ、水瀬はこの後一度も他の男に惹かれることもなく最終話の35歳まで独身なんだろ?こういうのって指輪だけでもつけさせて今はいい人を見つけられたみたいな感じにすれば良いじゃん。それがないっていうのは何か報われなさ過ぎじゃないか。俺ならこの子をどうにかして幸せにするのに』
『なら、まず現実の女を幸せにすることを覚えてからだな。彼女いない歴=の…………』
『うるせえなぁ、この裏切り者がそんなのわかってラァ!』
そうして、二人の男は戯れあい始めた。
このタイミングで世界は暗転し、一筋の光が見え始め俺はそれに導かれるように意識を浮上させた。
「ここは……何処だ?」
目の前に映った見慣れぬ天井を眺めながら、俺はポツリと呟いた。
「ここは保健室だよ、湊川君。意識が戻ってよかった」
俺の質問に答える心地よい声、その声の出所を確かめるべく俺は顔をそちらの方に向けると水瀬が居た。そして、彼女の言葉を聞いて自分が先程までどのような状態だったのかを理解した。
「今何時か分かる?水瀬」
「えっと、今は12時過ぎくらいかな。もうみんな写真は撮り終わって帰っちゃたよ。あっ…そういえばこれクラスのみんなが湊川君にってメッセージを書いたんだ。見る?」
彼女は鞄から取り出したノートを持って微笑えむ。俺はその笑みを見た瞬間俺の胸がキュッと苦しくなった。
「今は、いいや。そういうの見たら泣きそうだ。女の子の前で泣く姿は見せたくない」
「ふふっ、そんな所で意地張らなくてもいいのに。まぁ、今見る必要はないか」
そう言った彼女は俺に取り出したノートを俺の手元に置き、椅子に腰掛けたまま動かなかった。彼女が何故この場にいるのか分からない、だが、おおよそのことは推測できる。そう、俺が気絶する際に思い出した前世の記憶によって。だから俺は彼女がここに居る理由は聞かない。それをすれば彼女の癒えない傷に塩を塗り込んでしまうと知っているから。
「なぁ、水瀬クラス会っていつだっけ?」
「来週日曜の夕方だったとはずだけど、急にどうしたの?」
「いや、このノートありがとうって言葉を伝えようと思って。行く気なかったんだけど、こんなの貰ったら行かないとさ」
俺はそう言ってノートを触り、ほおを緩ませる。前世ではこんなことしてもらったことなんて無かったから、普段の自分じゃしないことをしようと思った。
「後、水瀬ありがとう。ここに居てくれて水瀬がいなかったら一人寂しい思いをしたまま卒業式を終えるとこだった」
礼を言われた彼女は目を見開き、少し頬を赤らめて顔を背けた。
「……これくらい普通だよ…」
そうして、彼女はその言葉を溢すと影のある表情になっていた。
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