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クレアの妹

 「シェイザーから聞いたときは驚きましたわ、クレア姉さま。…今、お父さまもお母さまも、お兄さまたちまでも、みんな外出されていましたから」


 ため息とともに憂いげな表情を見せる少女は、大きな透明のガラス張りに大きく映し出されていた。


 シュウワンに案内されて入った通信の間は、クレアの知っている通信の間とだいぶ異なっていた。ルリオロン子爵家の通信の間は、一番奥の壁にクレアの両手を広げた大きさほどの透明なガラス張りがなされていた。そしてなぜか転移の間と同じようにいくつかの魔法陣がこちらは床に描かれている。

 一般的な通信の間は、顔の大きさほどの鏡に連絡を取りたい者を思い浮かべて自分や魔石の魔力を流すのだが、この部屋にはそれらがない。低めのテーブルとガラス張りに向かってソファが置いてあるだけである。


 「シュウワン、ここは一般的な通信の間と違うと思うのだけど……」

 「そ、そうなのですか?わたしはきょうはじめて入ったのでわかりません。それでは失礼いたします…!」


 では誰が使い方を教えてくれるのだろうか。

 クレアの疑問はシュウワンが出てすぐ、入れ替わるようにマーバラが入室で解決する。


 「クレア様、ご説明させていただきたく存じます」

 「お願いするわ、マーバラ。シュウワンったら説明もなく出て行っちゃったから一瞬焦っちゃったわ」

 「まぁ。大変失礼しました。旦那様よりこの通信の間は特別仕様だと伺っておりますので、使い方を知っているわたくしかサーメットにしかご説明できないようになっているのです。のちほど、シュウワンにはきちんと指導しておきますわ」


 本来であれば、顔の大きさほどの鏡に魔法陣を組み込んで作ったものが一般的に普及している通信魔道具で、両者が持っていることではじめて通信ができる。

 ここにあるような通信魔道具は本来、国が使用するものと同じであり、相手側に魔法陣を組み込んだものさえあれば通信が可能になっているが、国が使用するレベルのもののため制約をつけて調整をかけているのが子爵家の通信魔道具であった。

 一般的に普及しているように映し出すものを相手が持っていれば映像での通信が可能で、その映像は奥のガラス張りに映し出される。しかし、相手側に映し出すものがない場合は音声のみとなる。

 床に描かれている魔法陣のほとんどが商会に関係しているらしく、クレアが使用することはないだろうとマーバラは説明した。


 「クレア様がご使用になられるとしたら机の下に描かれた魔法陣でございましょう。魔石を置かれるとよろしいかと存じますので、こちらをご使用くださいませ」


 マーバラはクレアに魔石を三つ手渡した。



 「他にお聞きになりたいことはございますか?」

 「国をまたぐと通信できないのではなかったかしら?」

 「はい、おっしゃるとおりでございます。しかし、クレア様のご実家とは旦那様は何度かご連絡をお取りになられておりますから、可能のはずでございますよ」

 「へぇ」

 「では、わたくしは扉の前で待機しておりますのでなにかございましたらお声がけくださいませ」


 マーバラは頭を下げるとクレアを部屋に残し出て行った。

 クレアはソファに座り、魔法陣を確認する。

 机の下。正確には透明なガラスのテーブルの下に本来は物を収納するスペースだと思われるところに魔法陣が描かれている。

 一番使用頻度が高いため、床にしゃがまずに魔石を置くことができるにしているのだ。

 魔石を置くと、実家の通信の間を頭に浮かべながら魔石にわずかな魔力を流し込む。


 「……連絡取れないのだけど」


 マーバラに渡された魔石は全部で三つ。渡すときに「予備も」と言って渡してきた分が二つだと思ったが違うのだろうか。

 クレアはマーバラに聞こうと立ち上がり、扉の方へ向かった。

 魔法陣が気になっていたクレアはぐるっと確認していると、なんだか見覚えのある魔法陣が視界に入ってきた。


 「あれ、これって」


 クレアが視界に捉えた魔法陣は、昨日転移の間で見た魔法陣の一部分が一致する。

 なんとなく気になってしまったクレアの足は真っ直ぐその魔法陣に歩み寄った。


「――あれ?……えっと、なんか読めそう…? い、偉大…な、……‥みうに、かろ?……偉大ななんとかミウニカロー?」


 読めない部分はあるものの、この部分だけは転移の間でも実家でもみた気がする。

 口に出したことでなんとなく耳にしたことがある言葉に思えた。


 「これ、我が家の間にもおんなじ魔法陣が刻まれていた気がするわ」


 なんなくクレアは残りの魔石の一つを置いてみると、なんだかしっくりくる。

 魔力を流し込んでみるとスルスルと流れていく。なんだかいつもより多めに持って行かれている気がした。


 「クレアお嬢様?」


 呼ばれた方に顔を向けると、ガラス張りに見覚えのある部屋の中に、知っている顔がクレアを驚いて見つめていた。


 「シェイザー」


 実家の執事の一人である彼は、どうやら今日の担当は通信の間だったようだ。


 「シェイザー、父様と母様と兄様以外の誰かいる?」



 席を外したシェイザーが戻ってくるまでマーバラが用意してくれていた紅茶を楽しんでいると、画面の向こうで誰かが勢いよく入ってきたことが大きな音でわかった。


 「お姉さまっ!」


 怒ったように入ってきた少女にクレアは息を整え座るように促すと、大きく深呼吸し、シェイザーが用意した席に座った。


 「わざとですわね?シェイザーから聞いたときは驚きましたわ、クレア姉さま。…今、お父さまもお母さまも、お兄さまたちまでも、みんな外出されていましたから」

 「母様はわからなかったけど、父様と兄様が不在であることは知ってたわ、シャーリー」


 うふふと言わんばかりの笑顔をクレアは妹、シャルロティに向けていた。

 実はクレアはプロパエーゼに来る前、自国の学院で魔物について研究していた。その研究していた仲のいい魔物たちに『お願い』をしていたのだ。

 ―― 私がここに来なくなった次から一日おきに順番にここに向かって欲しい

 これが成功すれば、昨日の時点で兄たちは動いているはずだ。つまり朝からいないと踏んでいた。


 「お父さまも、お兄さまもクレア姉さまが大好きですからね。お姉さまがあれだけ出るときに念押しをすれば、お父さまもお兄さまも動きますわ。お母さまは血眼になって探してるお父さまとお兄さまのお目付け役として共に学院に向かいましたわ。……大丈夫なんですか?」

 「大丈夫よ、あの子たちにはちゃんと私に近い人がきたら帰るようお願いしてます。戻ったらまたいっぱいお礼も兼ねて遊ぶって約束したの。だからあの子たちは大丈夫よ。ただ、母様には申し訳ないことをした気がしなくもないわ」


 シャルロティは安心したように「いたずらが過ぎますよ、お姉さま。あとで怒られますわ、きっと」と苦笑いをこぼす。

 クレアはいたずらのつもりはない。分からず屋の父と兄になにか少しでも意図が伝わればそれでいい。


 「母様には今度そちらでは珍しいものをお贈りするわ、そう伝えといてちょうだい。もちろん、シャーリーにもよ」

 「わかりました。ありがとうございます、クレア姉さま。……それで、お姉さまがご連絡くださったのはそれの確認ですか?」

 「それもあるけど、ちゃんとルリオロンに入ったよっていう連絡よ。しないとどんな手に出てくるかわからないもの。だからちゃんと連絡は入れておこうと思って。父様と兄様の顔は昨日も見たし、またなにか言われるのも嫌じゃない?だからいないときを見計らったのよ」


 つまり、クレアは絶賛反抗期中であった。


UWAAAAAAAAAAAA!!!!

ありがとうございます!ありがとうございます!

ブクマ登録してくださった最初のあなた!

ありがとうございます!

反応が頂けなくても書くと決めた以上書き続けようと思っていましたが、

何かしら反応を頂けるのめちゃくちゃ嬉しいです。

ニヤケが止まらん。

相変わらずチキンなので怖々と書いていきますが、

私どもの世界観が面白いと思っていただけたらそれに勝るものはありません。


そして今回は妹・シャルロティが登場。

クレアの計画は今のところ概ね良好ですが、どうなるのでしょうか。

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