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エストレミオン・ルリオロン

 抱擁の時間をしばし堪能した二人は特に力を入れるでもなく、自然と互いから離れた。

 突然の目の前のできごとに意味が分からず首を傾げる破寒の二人は、とりあえず良かった良かったとクレアに声をかけていると、奥の厨房からこの“サーガン・モーツ”の旦那が「ルリオロンの旦那、いらっしゃい」と声をかけてきた。


 「お前は仕事に戻って構わん。邪魔したな。クレアを迎えにきただけだ」


 そう言うと、クレアに「先に店の前に出ているな」と声をかけさっさと食堂を出て行った。


 「あ、えっと、お邪魔しました!グラウトさん、ルーファウさん、また三日後にきますね!」


 慌てて挨拶を済まし、先に出て行った彼を追いかけていった。


 「まじかー…兄貴、クレアちゃんのお迎えってまさか……」

 「ああ、エストレミオン・ルリオロン子爵だな」


 「ひょえ」そんな声があちらこちらから聞こえそうなほど、クレアは大物がわざわざ迎えに来るような少女だとどうやら全員に認知されてしまった。



 「エスティ兄様!」


 追いかけてきたクレアの腕を引っ張り抱きとめるとしばしクレアを堪能する。

 離れたエストレミオンは「こっち」と手を引き、宿の裏に連れてくると裏口から建物の中に連れ込む。いくつかの部屋を通り過ぎ、ある一室にクレアを招くとそこは執務室らしく、机といくつかの書類、そして束にまとめファイリングされたものが本棚に年数ごとに並べられているシンプルな部屋だった。


 「こっち」と手を繋いで続き部屋に入るとベットと簡易キッチン、シャワールームなどが完備された仮眠室のようである。

 そのベッドの反対の壁に大きな魔法陣が描かれていた。


 クレアと顔を合わせるとニヤっと笑って「近道」というと壁に手をつき魔法陣を起動させた。

 起動した魔法陣を通り抜けると、物置かと思うくらい狭い部屋の中で、豪勢で複雑な紋様が描かれたマットの上に立っていた。壁にはいくつかの魔法陣が描かれており、どうやら複数の場所に転移できる魔法陣が描かれた部屋のようだ。

 クレアは驚きの連続で、目がクリクリになっている。


 「ここは、我が家の転移の間。八箇所は移動できるようになってるよ。王都に行くならあの壁の魔法陣を使えば僕の屋敷に繋がってるから、これを使っていくといいよ」


 驚かせるのに成功したといわんばかりににこっと微笑えむとクレアの頭を撫で、転移の間から出る。

 転移の間から出ると扉の前に立っているのはモルバルトとほか三人の人物であった。

 「おかえりなさいませ」と言ったのは老紳士のようだ。

 クレアが「モルバルト・リューイン様」と呟くとモルバルトは軽い会釈だけして、クレアの声に応えた。


 「クレア、紹介するからひとまず応接室に行こう」


 転移の間から一番近い応接室に向かうと、迎えに来た彼とクレアだけが着席する。

 唯一の女性のメイドがてきぱきとお茶を出すと、モルバルトたちは彼の後ろに、メイドはクレアの斜め後ろに控えた。

 クレアは出してもらった温かいお茶を一口飲み、喉の渇きが癒され、体はホッとした。

 エストレミオンに会ってからひと息つく間もなくこの部屋に案内されたのだから、クレアがホッとするのも当たり前だ。


 「よし、じゃあまずは紹介かな。もう察しているだろうけど、僕がエストレミオン・ルリオロン。このルリオロンの街の領主代理で、ルリオロン商会の代表だ」

 「領主代理の商会代表……」

 「そう、ここは商業都市だからね。上の命令だから僕が領主代理で管理してるけど、それ以前に僕は自分の商会で商人するのが楽しいからね。条件付きで領主代理をしているのさ」


 ウインク付きが人懐っこさを出しているが、それがまた子どもらしさを強調していて、やはり見た目のちぐはぐさが目立つ。


 「次にすでに名前も知ってるだろうけどもっくんこと、モルバルト・リューインだよ」


 「もっくんはやめてください」とエストレミオンに迫りながらも、クレアの座るソファの横に膝をついた。


 「モルバルト・リューインです。ファーフルに感謝を。……先程は門兵として接していたので言葉が無骨で申し訳ない。本来はルリオロン兵団所属です」

 「彼は調査部の隊長のだよ。で、こっちがセネルダ・ウァーイ」


 もっくんと呼ばれる理由は気になるが、エストレミオンが次の人物の紹介に入ったのでクレアは気にしないことにした。

 エストレミオンの右腕として右側に立つセネルダも同様、モルバルトと入れ替わるように膝をついて挨拶をする。


 「セネルダ・ウァーイです。領主代理補佐兼副商会長として、エストレミオン様の右腕を務めさせていただいております。ファーフルに感謝を」

 「ウァーイくんは僕が助けになれないときに頼ってくれていいからね。で、家令のサーメットとメイド長のマーバラだよ」


 サーメットはクレアの近くまでは来ず、エストレミオンの横少し後ろに膝をついて両腕をクロスし、マーバラは動かずその場に同様に膝をつく。


 「このルリオロン家の家令を仰せつかっております、サーメットと申します。ファーフルに感謝を。……またお会い出来たことを嬉しく思います、クレアお嬢様」

 「メイド長を仰せつかっております、マーバラと申します。ファーフルに感謝を。……なにか御用がございましたら、お申し付けくださいませ」

 「ありがとう、サーメット、マーバラ」


 クレアの記憶にはないがサーメットとは以前会ったことがあるようだった。


 「クレアに聞きたいことは食事のときに聞くとして、クレアは今聞いておきたいことはあるかい?」

 「エストレミオン様、わたくしの荷物をお父様が送ってくださっていると思うのですが……」


 宿の食堂で会ったときは、とっさに口から「エスティ兄様」と出てしまったがクレアとしては記憶にない。ほぼ初対面である。

 しかも名前と地位を知ってしまった以上、言葉づかいを改め、エストレミオン様と呼ぶべきだろう。

 そう思ったクレアは改めたのだが、クレアの質問よりも呼び方と言葉づかいが気にいらないらしい。


 「クレア?エスティ兄でいいよ?それに言葉遣いもいつもどおりでいいよ。君は僕にとって家族なんだから、君が貴族然でいられると距離を感じる。公式の場以外はいつものクレアでいてよ」


 わざと頬をふくらませそうな表情で拗ねたようにいうエストレミオンにクレアは無意識に入れていた力が抜けた。


 「ありがとう、エスティ兄様」


 自然と笑みがこぼれ、エストレミオンに従っていた。

 クレア自身は覚えていないが、クレアの中に確かにある小さな小さな記憶では、エストレミオンとの距離は近かった、気がするのだ。

 そしてきっと、自然体でいていいと言われるような気がしていた。そして事実、それでいいとエストレミオンは言ってくれたことが嬉しくて笑みがこぼれたのだ。


 「で、テオからの荷物だっけ?クレアの部屋に運ばせてあるよ。荷解きはマーバラがある程度やってくれると思うから食事のあとにして、まずは食事をしよう。着替えてくるかい?」

 「このままでいいならこのままがいいわ」

 「問題ない。僕もそのままだからね。じゃあ行こう。……あ、そうそう。もっくんの所属は口外秘でよろしく。一応伝えたのは、どこでもっくんと会うかわからないだろうからね。この街にいれば、どこかしらでもっくんに会うことになると思うから驚かないように」



エスティ兄様はこんな人!

結構色々情報詰まってますが,一部は日の目を見ることはあるのでしょうか……

頑張ります。


クレアちゃんにとって見知らぬ人ばかりが出てるので

まだまだクレアちゃんのキャラが定まりません。

クレアちゃんの知ってる人はいつ出るのでしょうか。


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