エストレミオンとのおでかけ
大幅改編しました(2020/06/17)
「だからシャーリーが可愛くて可愛くて話し込み過ぎてしまって…」
「それじゃあ家に連絡入れたんだね。テオたちとは話せたのかい?」
「残念ながら、父様も兄様も母様も外出中だったようでした。シャーリーしかいなかったんですよ」
シャルロティとの連絡中にマーバラからエストレミオンが戻ったことを知らされたクレアは、シャルロティにこれからエストレミオンと外出することを伝えると、また連絡することを約束して通信の間をあとにした。
マーバラから食事はエストレミオンと外で食べることになったと言われたクレアは、そのまま玄関へ案内され、すでに馬車の前に立っていたエストレミオンにエスコートされて馬車に乗り込んだ。
そして、今、クレアはルリオロンで一番のルリオロン商会が所有するレストラン、景色が良く風が気持ちいい窓際の席でエストレミオンと食事を挟みながら談笑している。
「テオは何かあったのかい?」
「どうやら私が父様や兄様にお願いしていた、研究に協力してくれている子たちがどこかへ行ってしまったようなんです。その子たち専用のお部屋は自由に出入りできるので、ただ単にお出かけ中だったのだと思うのですが……。どうも一切、父様にも兄様にも顔を見せないようで」
「それは……、脱走かい?」
「脱走って…。協力してもらってるだけなので、どこへ行ってもあの子たちの自由ですよ。でも、黙っていなくなったら私は寂しいと伝えてるので、ない、と思います、おそらく…。どうやら顔は見せていないけれど、食事はとっているみたいですし」
「ふーん。そうか……」
エストレミオンはクレアの顔を見つめながら何か思案に耽っている。
ナイフとフォークをテーブルにおき、気を抜いたように背もたれにもたれ、指先がトントンと机を叩く。クレアの話を聞きながら数回叩くとピクっと手が止まり、にんまり微笑むとエストレミオンは食事を再開した。
クレアは気づかないまま、食事をしながら話を続けていた。
「そういえばエスティ兄様、あの部屋は国外とも連絡を取れるようですが、真ん中の一番右下の魔法陣がその機動装置ですか?」
「そうだよ、サーメットは説明しなかったのかい?」
「マーバラから説明を聞いたわ」
「ああ、サーメットが対応するよう伝えといたんだが……こちらの不手際だ。申し訳なかったね」
クレアが遅れて帰ってきたことで予定にズレが生じていたことはエストレミオンにも報告がすでに行っていたのだが、それでもクレアにはお客様であるものの家族として対応するよう申し付けらている使用人たちは“家族”として対応せねばならない。
使用人たちは家族扱いといえお客様のクレアと当主であるエストレミオンの優先順位に戸惑ったのだが、家令であるサーメットが当主であるエストレミオンを優先することを先頭に立って見せたことでクレアの対応が家族でいいということを理解し、先を見通しやすくなった。
しかしその結果、サーメットはクレアに対応出来なかったのだ。
エストレミオンとしてはクレアを優先して良かったのだが、当主である以上こればかりはいたしかない。いらぬ誤解を使用人たちの中で広げてしまうだけでなく、エストレミオンにとっての都合のいいときだけの言葉になってしまう。
エストレミオンは家族として、当主として、クレアにせめて今後は連絡してやってくれと注意しておくことも忘れない。
マリーがクレアに怒っていたのはこのように使用人の都合が変わってしまったことも実は含まれていた。
クレアは、エストレミオンからの不手際の謝罪と同時に注意を受けて素直に謝った。
「でもよくわかったね」
「家にも見かけた魔法陣があったので。実際使っているところは見たことがなかったから、似てるなぁと思っただけなのだけど、少しだけ読めた文字がアンガロリアの国教を表していたからもしかしてと思ったの」
クレアの実家に描かれた魔法陣と同じでも書いていた文字は異なったはずだ。
それでも読めたのか、とエストレミオンは感動していた。
――もしかして。
そう期待したがクレアの「でも家のは読めないかったわ」と言う言葉に膨らんだ期待は失せた。
読めたのはクレアが勉強したからだろう。いや、もしかしたらテオズミウルがクレアに尋ねられたときに文字だけ教えたのかもしれない。
「じゃあサーメットは目くらましは解除しておいたのか、優秀だなぁ」
エストレミオンは自分を自分で褒めたかのように嬉しそうに笑う。
サーメットは家令としてエストレミオンに仕えるのと同時にかつては商会の補佐でもあった。現在は屋敷の中も賑やかになり、分家筋も増え、都市ルリオロンも管理し、商会も大きくなってしまったルリオロン子爵家を支えるには分担するほかなかった。結果として、エストレミオンが一番知られるわけにはいかない子爵家内のことをサーメットが補佐することで成り立っている。
色々と制約のある魔法陣を来賓や子どもたちが悪用しないよう、同席し、目くらましするのはサーメットの仕事である。といっても、悪用しないよう常時目くらましはかかっているのだが、万一があっても困るためサーメットやマーバラが控えるのだ。
そしてクレアが使った魔法陣。本来であれば目くらましがかかっている。
サーメットはクレアなら気がつくだろうと解除していたのだろう。そしてそれは事実、クレアは気がついたのだ。
遅めの食事を平らげ満足したところでレストランを出て、クレアとエストレミオンは職人街に訪れていた。
職人街は商人街に比べてさほど大きくなく、おおよそ商人街の三分の一である。ほとんどの品物が街の外から多くの商人によって運ばれてくるため、ルリオロンでは日用品から娯楽品までそれらすべてが規格外から一級品まで揃う。そのため職人がとても少なく、ここにいる職人はほとんどが貴族のお抱えである。
そして、この職人街の裏は各商会の倉庫ともなっている。
故に、エストレミオンは職人街にやってきたのだ。
「クレア、気になった場所があればいつでも行って。とりあえず、僕のお抱えの工房に向かうよ」
クレアは馬車でなく徒歩がいいと、職人街に入る前に大通りで降ろしてもらいエストレミオンと二人で散策をしながら工房に向かっている。
日中は近くが貧民街にも関わらずそれほど治安が悪くないのは、職人街から聞こえてくる音だけでなく、商会の倉庫があることや兵が見回りをしているからだとすぐにわかるほど、人の出入りがあった。
そもそもエストレミオンが貧民街に近い場所にクレアを連れて行くわけがないのだが。
エストレミオンに連れられた工房は服飾屋だ。
クレアが服飾屋と認識できたのは、素晴らしいスピードでカラフルな布を仕分けしている女性や裁断している男性がかろうじて見えるからだ。服飾屋の裏は箱や袋などが屋根の下のいたるところに置かれており、服飾屋とは思えない倉庫かと認識してしまうほど物が並んでいる。その隙間に僅かに働いている人たちが見えるのだ。
それを横目で見ながら通り過ぎると、カーテンで仕切っただけの部屋の中にエストレミオンが入っていく。
クレアも続いてカーテンをくぐると中には紙と本に挟まれながら唸る人影があった。
「バルソシィ、今いいか?」
エストレミオンが声をかけると「あれ、旦那?」とぐちゃぐちゃの髪の毛をガシガシと掻きながらズレたメガネの位置を直してエストレミオンを見て、後ろに立つクレアに視線を向ける。
「ヤダァ!カっワイィ~!旦那が女の子連れてくるなんて、ついに第二夫人を娶ったのォ?ウソォ!」
「黙れ、可愛いのは同意するが第二夫人なわけあるか!いつも話していただろうが、クレアだ」
んん?と言わんばかりに怪訝な顔してクレアを観察するバルソシィは合点がいったかのようにケラケラ笑い出す。引き出しから「ここだったかしら?こっちね」とぶつぶつ呟きながらまるでガサ入れのように部屋を荒らしながら探し物を始め、目当ての冊子が見つかると複数の本を抱えて机に置いた。
「ワタシ着替えてくるからクレアちゃん、それ見といて!気になったのがあれば教えてちょーだいネ、ウフフ」
そう言い残すとクレアたちがくぐったカーテンとは別のカーテンをくぐってどこかへ行ってしまった。
冊子はデザイン画がたくさん描かれており、エストレミオンと二人で目を通していく。
バルソシィは戻ってくると全くの別人になっていることに驚いているクレアを隣の部屋に投げ込み、さっさと採寸を終わらせ、デザイン画から選ばせ、クレアが疲れる前にすべてが終わらせる。そしてバルソシィの「今回お気に召してくださったら、またご指名お待ちしておりまぁす」に二人は見送られ、クレアとエストレミオンはまた街に繰り出した。
時間いっぱいまで散策をしながら様々な店を見ていたが、商人街に行かず直接倉庫で品物を見て買い物をするのはルリオロン商会長のエストレミオンに可愛がられているクレアだけであろう。
そして、ひっそりとクレアの噂は各商会内で広がっていくのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ルリオロン子爵夫人、今宵はわたくしのためにこのような場を設けてくださり大変光栄にございます」
クレアとエストレミオンが買い物の休憩中、今夜の会食の主催が夫人であるとエストレミオンに聞かされたクレアは、まだお会いしていない夫人についてエストレミオンや使用人たちに聞ける範囲聞きまわり、突貫で情報を詰め込んだ。
「まぁまぁ。固くならなくて構わなくてよ。遠縁とはいえテオズミウル様のご息女ですもの。お会いできてとてもとても嬉しく思いますわ。さあ、お座りになって?」
クレアが部屋に案内されてくると、エストレミオン、エストレミオンの妻、そして息子が二人と娘が一人立ち上がってクレアを出迎えた。
クレアと夫人の挨拶が終わると、夫人は「子どもたちの紹介をさせてくださいませ」と順番に紹介した。
「長子のユリオンに、次子のカルサヴィス、娘のクレーアスリでございます」
ユリオンが挨拶してもいいかと夫人に確認を取ってからクレアに目をやるとクレアは軽く頷いて許可を出した。
「ユリオンです。ファーフルに感謝を。……父上からお伺いしておりましたが、とてもお美しくていらっしゃいますね。しばらくご一緒できますこと恐悦に存じます」
「カルサヴィスです。ファーフルに感謝を。……カルスとお呼びください」
「クレーアスリでございます。ファーフルに感謝を。……クレア様にお会いできてわたくしも兄らと同じくとても光栄でございますわ。アスリィとお呼びくださいませ」
ユリオン、カルサヴィス、クレーアスリと挨拶を終えると、クレアはルリオロン家に対して最大の敬意を表して感謝を申し上げる。
「わたくしどもを受け入れこのような場を設けてくださったこと、アーディの願いを今ここに……皆様に最大の感謝を込めてお礼申し上げますわ」
そして始まった会食は特に大きな問題もなく、ただ次男のカルサヴィスに度々見つめられる程度で、夫人に「夫が可愛がっている姪っ子でテオズミウル様の娘さんですもの。どうぞわたくしのことも名前でお呼びくださいませ」と言われ、クレアは僭越ながらも「サリエンラ様」と呼ぶことになったくらいだ。
バルソシィに会っておかないと今後の話に困るので早期に出したのですが、
なんだか内容のない話を書いてる気分でした。
あと、エストレミオンとの買い物の話を書くと、
本編の今後にはあまり影響はないのに、色々なネタバレが詰まってしまったのと、
話が一向に進まないので大幅カットしているのですが、
書いてた時間がものすごく無駄になるのも悲しいので、
第一章が終わってから手直しして掲載しようかなと思ってます。
まだ出会って二日の姪っ子と昔から溺愛していたので会えた興奮が収まらない叔父みたいな感じです。
しばらくは予約なしで掲載していきますので、更新時間はバラバラになります。
(2020/06/16)
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前書きでも書いておりますとおり大幅改編しております。
夢に見るほどどうも納得していなかったようで、バルソシィとのところ、ほぼカットです。
バルソシィとクレアとの本格的絡みやバルソシィがどういう人物なのかなどは徐々にわかるようになります。
そしてこのあとの色々もカットしまして、話を進ませました。
次話が短いので今回長めになっております。
(2020/06/17)




