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隣国・商業都市

初作品,初投稿,処女作品ということで,まだまだ拙い文章ですが,よろしくお願いいたします。

楽しんでいただけますように。

 丁寧な装飾が施された大門扉。宝石が散りばめられたかのように遠くから見ればキラキラしていたのに、近くで見るとガラスの中に色が入っているようである。

 細かいディテールが施されたガラスひとつひとつ、それを散りばめこの街の領主の紋章だろうか。その紋章がただの鉄製の大門扉を荘厳な門としてこの街の入口に鎮座していた。

 間近で見れば、ただの鉄製に見える門扉の隅々にまで紋章である花から伸びた蔓がびっちり張り付いているようなデザインに作り上げられていることがわかる。

 その荘厳すぎる大門扉はきっちりと閉められ、その大門扉の左右端っこの一角に馬車が通り抜けられる程度の門が複数開いていた。

 左は偉い人、右は市民たちだと傍目で見てわかるほどに人の出入りの人数や立っている兵の人数が異なっている。

 左は門扉が五つ、一番右が開放されており、残りの四つはぴっちり閉じられている。兵は四人――二人は門扉が五つの門扉の真ん中、閉じられている四つの門扉の一つの前に立っており、あとの二人は開きっぱなしの門扉の前に立ち、一台の馬車と話している。

 右は門扉が三つ、兵が六人。すべての門扉が開放されており、どの門も長蛇の列になっていた。六人の兵は分担してその列を整理したり、小競り合いを諌めたりしながら見回りをしている。一番左の列は馬車の団体が多く、残り二つの列は馬車であったり、馬を連れていたり、徒歩であったりとバラバラのようだが、なぜか右側のほうが列は長い。


 クレアはどの列に並ぶべきかわからず、とりあえず一番長蛇の列の最後尾に並んでいる男二人組に声をかけた。


 「すみません。これってどこに並べばいいんでしょうか?」


 自分たちに声がかかったのだと気がついた二人のうちの一人の男が振り返った。


 「嬢ちゃん、この街ははじめてかい?」


 振り返って答えてくれた男性は右頬から瞼の上にまで傷跡があって、どうやら右目が少し見にくいらしく、左に比べて目が細くまるで睨んでいる印象を受けた。

 隣にいたもう一人の男性が「目が怖い」といえばマジか、と言わんばかりにクレアにわざとじゃないから!とあたふた謝罪しながら怖くないとジェスチャー付きで弁解する。

 クレアは「大丈夫ですよ、怖くないです」と笑顔で応対すると、その男性はホッとしたように目線を合わせて「優しいな」と笑った。


 「嬢ちゃん、初めてなら入都証明書なんて持って……ねぇな?」

 「入都証明書?」


 アー、といいながら頭を掻いて「やっぱ持ってねえかな?」と相方をちらりと見ると、相方が懐から小さなカードを取り出した。


 「お嬢さん、これは私たちの入都証明書だ。これはいわゆるギルドカード、私たちは冒険者だ。入都証明書というのは、私たちのように冒険者であれば冒険者ギルドカード、商人であれば紹介状や通行証、商人ギルドカードだ。この街の者であれば市民証、他所からの者であれば紹介状。たとえ貴族や軍兵であっても紹介状や通行証がなければ、一番右の列になる。もちろん、お嬢さんも入都証明証がないなら右の列になるんだが……」


 クレアは父に持たされた一封のカードを思い出した。

 裏面には父の名前が、表には“エストレミオン”とだけ書かれたものである。


 「見せるのはモルバルト・リューインという門兵だけだよ。もしモルバルト・リューインがいなければ、門兵の誰かにモルバルト・リューインに直接渡さなきゃいけないものがあると父の名を使って伝えなさい。いいね?」


 そう言われていたクレアはこれが入都証明書ではないだろうかと考え、目の前の冒険者に紹介状があることを伝えると、「じゃあ俺らと並ぶといい」と二人がクレアを挟んで一緒に並ぶこととなった。


 「左はなんの列なんですか?馬車が多いように思うんですが」

 「左は入都許可証持ちの商人の列だ。……向こうの方に見える4つ閉じられた門扉があるだろう?大門扉の左は貴族や軍兵、大商会の門扉だ」


 なるほど、と納得したクレアはじゃあお言葉に甘えてこの二人と並ばせてもらおうと決めた。前方には何十人と人が並んでいる。入都までまだ少し時間がかかりそうだ。


 「そういやぁお嬢ちゃん一人かい?」

 「ええ。国境までは兄たちが送ってくれたんですけど、ここまでは一人ですね」

 「カイか?」

 「スペロニファンじゃないか?」

 「……えっと」

 「「まさかアンガロリアか……?」」

 「はい、そのまさかのアンガロリアです」


 クレアは照れくさそうにはにかむと、冒険者二人は絶句したような顔をした。


 当たり前である。


 アンガロリアといえば、多くの魔物が好んで棲む山脈、ダルトレーリ山脈を越えた国で、小さい魔物であれば農民どころか女性や子どもでも倒せるほどの身体能力を持ち、ちょっとやそっとでは負けず、普通の冒険者でいうところの国のほぼ全員がランクD以上の実力を持つといわれている。

 ダルトレーリ山脈が広がる森の麓を国境としているが、その付近でも小物な魔物はそれなりにやってくる。


 そんなところから、まだ十代も半ばのうら若き女の子がたとえ国境まで送ってもらったといえど、そこからまた数十キロは離れたこの街まで一人できたというのだ。

 冒険者稼業をしている二人ですら近づかないその森からここまできたと聞けばそりゃ驚くというものである。


 「お、お嬢ちゃんの実力は……」

 「冒険者所属はしてないのでわからないですけど…スピリットサルケンなら一人で大丈夫ですよ」


 スピリットサルケン。犬のような耳が生えた小ザルで、普段は二足歩行だが逃げるときは四足歩行で全力で逃げる。尻尾が発達しており、全方位にうまく尻尾を使って飛ぶだけでなく、尻尾を使ってコミュニケーションを取っており、指示系統も尻尾を用いる。ボスの見分けがつきにくい。

 討伐ランクDで集団で討伐する分には手こずらない相手なのだが、一人で討伐となると難易度は跳ね上がり、実際はランクCと言われている。といっても、実際一人で討伐する者はほとんどいないのでランクDである。

 得手不得手があるといえど、この冒険者ランクCの二人でも正直ソロで討伐は厳しい。

 それをこの娘は一人で大丈夫と言い切った。


 「やっぱりアンガロリア産って実力たけえな……」

 「私はまだまだですよ。兄たちに比べたら」


 手をぶんぶん振って否定するがこの二人の冒険者からすれば、自分たちのほうがまだまだだと背筋が伸びる思いである。

 クレアと冒険者二人の会話は終始和やかであった。

 主な話題はアンガロリアの冒険者事情や魔物討伐方法、各々がどんな魔物と出会い戦ってきたかなどであり、意外な討伐方法をお互いに情報交換し、三人は有意義に過ごしていた。


 「おめえ俺と組む前、そんな魔物と出会ってたのかよ!よく生きてたな!!ハハ!!」

 「全くだ。命拾いした」

 「俺だけ入都拒否ってどーゆーごっだァ゛!!!!ア゛!?!?」


 三人が楽しく会話していたところにふと前方のほうからガラガラ声の怒鳴り声が聞こえてきた。

 クレアは女性の平均的身長で、なおかつ二人の男性に挟まれているため、入ってくる情報は前方の怒鳴り声と周りのヒソヒソ声である。

 冒険者二人はそれなりに身長が高く、随分と列も進んで残り五組ほどだったため、どうやら前方の状況が見えたらしい。

 粗相の悪そうな男が門兵の胸ぐらを掴んで怒鳴っており、それを中から出てきた門兵が二人取り押さえ引き剥がしていた。既に通過済みの仲間もいて説明しているようだが、それでもその粗相の悪そうな男は入都を断られ、隣の証明書なし列に並べと促されているようだ。しかし「本日の入都は厳しいだろうな」と目つきの悪い方が呟いた。


 「えっ、なんで入都できないんです?」


 クレアの疑問に答えるのは目つきの悪い冒険者の相方である。


 「もう昼を過ぎているからだ。今からあの列に並んでもおそらく入都は間に合わない。入都許可書がある者は、たいてい紹介だったり馴染みの宿だったりと夕刻過ぎに通しても問題なくスムーズに事が運ぶが、ない者は入都の際に書類提出が必要なんだ。入都理由や滞在期間などが厳密で、滞在宿の承認も必要であり、すべての手続きが夕刻までに済まさねばならない。となると今からは厳しい。並んでももう間に合わないだろうな。あの列の後半に並んでいる者は、私たちよりだいぶあとにきた者たちだ。恐らく入れたらラッキーくらいの気持ちで並んでいるのだろう」


 確かに右の列は左の列に比べて進みが遅い。

 クレアが二人の冒険者と最後尾であった時には、右の列で最後尾に並んでいた大きな荷物を抱えた親子は前方にいたのに、残り数組とまできて入都目前のクレアたちよりも列の真ん中当たりにまだ並んでいる。

 先ほどの門兵の胸ぐらを掴んでいた男は、許可書なしの列の最後尾に門兵二人と共に並ばされていた。


 入都許可書があるかないかでこんなに違うのは、この街が特別なのだろうか。

 クレアが知っているのはこの街は複数の国に最も近い大都市で、この国一番の商業都市であるということである。


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