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4話……僕と星羅が結ばれる事は、絶対にない

登場人数が多いと、途端に難しくなるんですね

 朝、僕と星羅は一緒に登校する

学園へと続く住宅街の道は、学校や会社に行こうとする人達で賑わっていて、其処らから楽しげな喋り声が聞こえくる

平和な一日が始まるのを肌で感じられて、ただ歩くだけでも楽しくなる


 もちろん僕と星羅もお喋りしながら歩く、だけど手は握らない

本当は夫婦らしく手を繋いで歩きたいのに、手を握るのはエッチな事らしいから握れない……いや知ってるよ、別にエッチじゃないって

でも断言されると自信が無くなるんだ、今まで恋愛に興味が無かったから、否定出来るほど知識がない


 だから仲良く並んで歩いているだけだ……南さんと星羅がね!僕の隣はゴリラもとい護衛の北野さんだよ、ちくしょう!

南さん的には親子で歩いてるつもりなんだろうけど、傍目(はため)には仲の良い姉妹にしか見えない……羨ましい、僕と北野さんだと連行中って感じなんだよね


 いけないいけない、せっかく気持ちいい朝なのに、暗い気分になっていた

僕はめげないぞ!少しでも恥ずかしがる星羅を見る為に、頑張るんだ!


「ねえ星羅、これって所謂(いわゆる)登校デートってやつだよね」


 僕がにこやかに話題を振ると、星羅は少し考えて


「……そうですね、でもデートなら待ち合わせ場所が必要ですから、今度から教室にしませんか?私が先に行って待ってますので、遅刻して来られたらどうでしょう」


 遠回しに、別々に登校しようと言った

でも……ふむ、星羅の言い分ももっともだ、その方が恋人っぽくていいかもしれない


「なるほど、僕が遅刻して教室に入って来て、ごめん遅れたと言ったら、星羅が今来たところですと微笑むんだね」


「はいその通りです、さっそく今日から試してみませんか」


 ニッコリ微笑む星羅に、僕は満面の笑みを浮かべて乗ってみた


「いいね!もちろんそのままデートに出掛けるんだよね!クラスメートには、授業サボタージュしてまでデートするくらいラブラブだと思われるけど、星羅が望むなら仕方ないね!」


「あっ、やっぱりいいです」


 真顔で却下された!

なんか僕への対応ぞんざいになってない?まさか、この前僕と向き合うって言ってたのは、塩対応するって意味だったの!


「もしかして……星羅は僕と一緒に歩くの嫌?夫婦なのに!毎晩夢の中じゃ、あんなに積極的なのに!」


 夢の中の星羅は、膝枕しながら耳掃除してくれたんだぞ


「大声で誤解を招く事を言わないで下さい」


 僕の大声で周りから注目されて、星羅の顔が真っ赤になった

やっぱり澄まし顔より恥ずかしそうな顔の方が、星羅は魅力的だね


「ごめん星羅……でも、夢は自分じゃコントロール出来ないから仕方ないんだ……うん、仕方ない……ぐへへへへ」


 おっと、思い出して涎が

星羅がジト目で僕を睨み付けてるけど、恥ずかしさが残っているのか頬が少し赤い……これはこれでいい↑


「南さん、これって約束違反ですよね?」


「ええ、今日から夢を見れないくらい可愛がる(業界用語)必要がありますね」


 ハッハッハ、甘いよ南さん

僕の妄想力は成人男子の数倍はあるんだ(多分)、そんな事をしても無駄だからね……だから止めて下さい


 余裕の笑みを浮かべていたら、北野さんが割り込んで来た


「ふむ、私が坊っちゃんと添い寝するというのはどうでしょう?汗臭い男が隣にいたら、不埒(ふらち)な夢もみないでしょう」


「北野さんすいませんでした!もう二度と星羅の夢を見ないので許して下さい!」


 速攻で頭を下げた!

南さんの可愛がりはまだしも、ゴリラみたいなマッチョと一緒に寝るのだけは勘弁して下さい!

この人特注の合金ベッドで寝てるんだよ、壊すから、うっかり寝相でベッドを壊すから!


 男の寝相で死ぬとか嫌すぎる

星羅も、北野さんお願いしますじゃないよ!それだけは本当に許して下さい!



───

──



 放課後も、僕と星羅は一緒に帰る

朝の事?あーあれなら、道路で土下座したら許してもらえた

星羅に向かって必死な顔で「(み)捨てないで!」と叫んだら、許してもらえた

周りの人達からは痴話喧嘩と思われたけど、恥ずかしがる星羅は許してくれた……北野さんからは拳骨貰ったけど、わたわたと慌てる星羅が可愛かったから、またやろうと思っている


 さて、僕と星羅は授業が終わったらすぐに帰るんだけど、他の生徒は部活に入ってるので、帰宅する生徒は少数だ

みんな冒険者を目指してこの学園に入ったのだから、ほとんどの生徒が部活に入って鍛練をしている


 星羅も部活に入っていたんだけど

今ではそれを辞めて、叔父さんの所で黒服さん達と一緒に鍛練を受けている

冒険者を目指すなら叔父さんに教わる方が確実だからだ……強制参加させられている僕には、星羅がマゾとしか思えないけどね


 そんな訳で、僕と星羅、それに護衛の南さんと北野さんの四人で校舎を出たんだけど

今日は来客が来てるみたいだ……見知った顔の二人が僕を見付けて、その一人が手をブンブン振っていた


 一瞬なんでいるの?と思ったけど、久しぶりの再会に頬が緩んで、深く考えるのを止めた

ほとんど条件反射で、僕も片手を挙げると、その男女に笑顔を向けながら駆け寄っていた


「二人とも久しぶり、いきなり来るから驚いたよ」


「久しぶりじゃないわよ!何も言わずに引っ越して、心配したんだからね!」


 詰め寄って来た女の子はナジミ、僕の幼馴染みの一人で、真っ黒に日焼けした肌が眩しいショートカットのスポーツ少女だ


「そうだぞ、引っ越してから転校したってメールを出しやがって、見送りすら出来なかったじゃないか」


 不機嫌そうな声を出したのは、もう一人の幼馴染みで(とも)、ナジミの恋人でもあり、眼鏡が似合うインドア派の色白秀才だ

小学校で一緒のクラスになってからの腐れ縁で、僕を含めた三人とも自分の趣味に没頭するタイプだったから、いつの間にか仲良くなっていた


「もしかして、それで心配してここまで来たの?相変わらず顔は腹黒っぽいのに優しいね」


「一言余計だ!……ったく、住所は教えられないって言うから、学校早退して会いに来てやったのに、皆勤賞分は奢って貰うからな!」


 怒ってる風に言ってるけど目が笑っている、相変わらず計算高いくせにお人好しなようだ

今回も、冒険者の住所は教えられないから言えなかったんだけど、冒険者学園には通ってるのは教えていたから、わざわざ調べて出待ちしたんだろうな


 でもさ……


「えーと、奢るのはいいんだけど、連絡くれたら近場の駅で待ち合わせとか出来たのに、なんで早退までして来たの?」


 メールとかで連絡は取り合ってたんだから、言ってくれたらこっちから行ったのに

僕の言葉に智は疲れた顔をすると、ナジミを顎で指した


「こいつが、どうせならいきなり行って驚かせようと言って聞かなかったんだ」


「どう、驚いた?空だっていきなり居なくなってんだから、私もいきなり来てもいいでしょ?」


 ナジミが悪戯が成功した子供のような顔で喜んでいる

相変わらず自由だ、ナジミの事だから、今日思い立ってそのまま来たんだろう

ため息一つついて、智に同情の眼差しを向けた


「相も変わらず、尻に敷かれてるんだね」


「ははっ、慣れたら結構居心地良いぞ、空席(くうせき)はないから俺専用だけどな」


「はいはい、ごちそうさま」


 久しぶりにいつもの会話が出来て、自然に笑えてくる

それに便乗するように、ナジミが肩を組んで来た


「そのお尻様から質問なんだけど、そろそろ一緒に居る人達を紹介してくれないかな?」


 言われて、すっかり忘れていた三人を思い出した

振り替えると、星羅が珍獣でも見るような目で僕を見ているけど、構わず紹介する


「ごめんごめん忘れてた、この女の子は木須田(・・・)星羅さん、訳あって叔父さんの家で一緒に住んでるんだ、残りの二人は護衛兼冒険者だから、本名は伏せとくよ」(合わせて)


 星羅が目を見開いたけど、小声で釘を刺しておく

結婚してるなんて言ったら追及されそうだから、ここは隠すよ

何故か星羅と南さん北野さんがジト目で睨んでるけど、言わないでね


「……木須田星羅です、木令くんの叔父さんには大変お世話になっています」


 よしっ、祈りは通じた!

後は別行動するんだし大丈夫だろう……と思っていたら


「ふーん、星羅ちゃんて言うんだ……私はナジミ、こっちは智、せっかくだし一緒にお茶しよ」


 なんかナジミが星羅に食い付いた

なに値踏みするように見てんの?星羅がちょっと引いてるんだけど


「待ってナジミ、星羅はこの後鍛練があるから、一緒には行けないよ」


「へぇー、名前を呼び捨てしてるんだ……空が私達以外を呼び捨てにするなんて初めてじゃない?これは詳しく聞くしかないわね!」


 しまった!いつもの癖で呼び捨てにしてた!


「星羅ちゃんも一緒に行くの決定ね、言っておくけど拒否権はありません」


 ナジミが俺から離れ、星羅に背中に抱き付いた

まさに、逃がす気はないと体で表現している


「え?あの……」


「ナジミ、星羅が困ってるだろ、話なら僕がするからさ」


 なんか、らしくない

ナジミは予定がある人間を無理やり誘うような事はしないのに、今日はやけに強引だ


「俺も聞きたいな、空がちゃんと生活しているか心配だったからな」


「智まで!二人ともなんかおかしいよ、どうしたのさ!」


 お人好し腹黒眼鏡からお人好しが無くなってる!大問題だ!

とりあえず星羅を解放させようとナジミに詰め寄ろうとしたら、智の眼鏡が妖しく光り


「どうしたのか聞きたいのはこっちだ……空、結婚したんだってな」


僕は固まった


 あっ、これは誤魔化しても無理なやつだ、下手に嘘ついても理詰めでネチネチ言われる……僕は詳しいんだ、何度もやられてるから


「知ってたの?」


「ナジミの友達がこの学園にいてな、話を聞いた時には、何の冗談かと思ったぞ」


「あの女性に興味がない空が結婚だからねー、同姓同名の別人かと思ったよー」


 勘違いされそうだけど、別に女性に興味がなかった訳ではない

ただあの頃は冒険者になる為の訓練に夢中で、他の事に興味が無かっただけなんだ

二人の視線にため息で答えると、僕は星羅に頭を下げる


「ごめん星羅、後で布面積が少ない水着買ってあげるから、ちょっと付き合って」


「そんな水着はいりません!」


 星羅が取り乱しているけど、二人はそれを無視して僕を見ていた

……まるで、知らない人を見るかのように



───

──



 家に連れて行こうかと思ってたんだけど、智が冒険者の住所は知らない方が良いと言ったので喫茶店になった

もちろん星羅と護衛の二人も一緒だ、北野さんだけは体が大きいから隣のテーブル席に座ってもらっているけど


 注文したお茶が並ぶと、智がやっと口を開いた


「最初に確認するが、結婚したのは本当なんだな?」


 智の事だから裏付けを取ってから来てるんだろうに、わざわざ聞くって事は、それでも信じられないのかな?

さてどうしよう、もうバレてるんなら二人には全部ぶっちゃけたいけど、隣には星羅がいるんだよね……一目惚れした事だけはボカした方がいいか、それを言うのは滅茶苦茶恥ずかしいから


「そうだよ、僕は星羅と結婚した」


「……色々と質問したいが、まずこれを渡しておく」


 そう言って鞄から綺麗にラッピングされた箱を取り出すと、僕に差し出した


「結婚おめでとう、これは俺達からの結婚祝いだ、受け取ってくれ」


「空おめでとー、まさか私達より先に結婚するとは思わなかったけど、頑張って幸せな家庭を築くんだぞ……空なら言われなくても大丈夫そうだけどね」


「う、うん、二人ともありがとう」


 いたたまれない!初めて結婚を祝ってもらったけど、無理矢理結婚した事を言ってない身としては、すっごくいたたまれない!

星羅なんか、なんて返事したらいいか分からなくて微妙な顔をしてるもん!


「えっと……これ貰う前に、言わなきゃならない事があってね」


「それは星羅さんの体目当てに無理矢理結婚したって話か?」


 口ごもっていたら、智が言いにくい事をズバリと言ってきた


「なんだ、知ってたんだ」


「どうせ偽装結婚を疑われない為の方便だろ?」


「あははははははは」


 違うって言えない!智の信頼を裏切ったのが辛い!……カライじゃないぞ、つらいだ!

でも笑って誤魔化したら、智の顔に陰が差して


「おい、まさか本当に体目当てに結婚したのか」


 剣呑な声と共にスーっと目が細められた

僕は慌てて言い訳をする!


「ち、違うよ!助ける方法が他に無かったから結婚したんだよ!元から手を出すつもりはなかったよ!」


 智を怒らせたらヤバい!

智が怒ったら、冷静に計画建てて相手を追い詰めるんだ!

昔ナジミに言い寄った不良が、一週間後には七三分けになってたのにはゾッとしたよ


 焦った僕は、隣に星羅がいるのも忘れて、つい本音を漏らしてしまった


 ピクンと星羅の眉が動いて、底冷えするような気配を発する

失言したのに気付いて、恐る恐る星羅を見ると……素敵な笑顔で前を向いていた


「え?あ、その……」


「……」


 あれ?何も言われない

てっきり追及されると思ったのに、星羅はニコニコして前を見ているだけだ

……でも僕は知ってる、この笑顔は、星羅の母と初めて会った時にされていた笑顔にそっくりだ

笑顔なのに怖い笑顔だ!


 笑顔とは本来のコピペを思い出して、震えが止まらない


 そんな僕と星羅を観察するような目で見ていた智が、何が面白いのか苦笑している


「一応聞いておくが、空は星羅さんと肉体関係はあるのか?」


「な、ないよ!南さん……護衛の人達に聞いて貰ってもいい!叔父さんから禁止されてるから指一本触ってないよ」


 余りにも直球な質問に変な声が出そうになったよ!

いきなり何を言ってるんだよ、この腹黒眼鏡は!そんなのあるわけないだろ!

もっとも許可が出たら手を出すけどね!全力で出すに決まってるけどね!


 なんて…………星羅に意地悪ばかりしている僕が、そんな事を許されるはずないんだけどね

最初から素直に接してたら、もう少し違ったのかな?

……いや、一緒だね……こんなポーションの対価でした結婚じゃ、例え星羅が許しても、僕は手を出せない

それこそポーションで星羅を買うようなものだから……


「そうなのか、てっきり空の事だから、一目惚れした星羅さんを口説き落として結婚したと思ってたんだがな」


 智の言葉がグサリと突き刺さった

あはははは、口説き落として結婚か……脅して結婚ならしてるんだけどね


 そんな僕に星羅が落とせる訳がないよ

だから僕には


「それはあり得ないよ……僕と星羅が結ばれる事は、絶対にない」


 この言葉以外言えなかった



★★★【三人称視点】



 星羅は静かに怒っていた

最初から星羅をどうこうする気は無かったと、空が口を滑らせたからだ

星羅はその言葉を少しも疑っていない、半ば確信していたのもそうだが、空がそんな嘘をつく人間でないと知っているからだ

もっとも、帰ったら大地共々問いただそうとは考えていたが


 ───そしてそれが終わったら……今度こそ、心から感謝の言葉を言います

ダーリンが何故あんな条件を言ったのかは判りませんが、これでやっと、心置きなく恩返しが出来るんですから


 星羅は静かに怒っていながら、喜んでいた

最初に差し伸ばされた手が、本当は救いの手だったと信じられたから


 ───でも、恩返しとは何をすれば良いのでしょうか?

ポーションのお金は将来働いて返すにしても、私の為に結婚してくださった対価が判りません


 ばか正直に恩返しをしようと思っている星羅であるが、それには訳がある

冒険者を育てる学園では、将来魔石を宿した際にその力を悪用させない為に、情操教育に力を入れられているからだ

そんな学園の生徒である星羅は、受けた恩は返さなければいけないと信じていた


 ───ダーリンの喜ぶ事をすれば恩返しになるでしょうか?

でも食べ物の好き嫌いや趣味もないのですよね……


 デートで向き合うと宣言してから、星羅は空をちゃんと見るようにしていたのだが

そこで気付いたのは、どんな料理でも美味しそうに食べ、趣味らしい趣味を持っていないという事であった

空の普段の言動から、もっとアイドルやゲームに熱中していたり、刹那的な生き方をしていると思っていたのに、驚くほど無趣味だったのだ


 空が暇な時にやるのは鍛練のみであった

口では文句を言いながらも、学園が終わると毎日欠かさず大地の元で鍛練を行っていた

毎朝誰よりも早く起きて、ジョギングや素振りをやっている事に気付いた時には、別人かと思った程だ


 同じ冒険者を(こころざ)す者としてなら、星羅は空のストイックさを尊敬している

もっとも、普段の言動がアレなので、評価はプラスにはならないのだが……


 ───やはりダーリンには、アレが恩返しになるのでしょうか?


 星羅の脳裏に浮かんだのは、空に命令された数々

お弁当をあーんしたり、休み時間にボーと顔を眺められたり、お揃いのマスコットを鞄に付けられたり……周りから「小学生の恋愛か!」と揶揄される行為であった


 ───恥ずかしいですけど、ダーリンが喜ぶなら私からもするべきですよね?

しかし、私にはその手の知識がありませんし……そうだ南さん!大人の女性でお義父様にアプローチしている南さんなら、きっと経験豊富なはずです!


 流れ弾が南に飛んで来ようとしていた

まったくの余談であるが、南は八年前に大地に助けられて以来、大地一筋である

ぶっちゃけると、ままごとみたいな経験をしている分、星羅の方が恋愛上級者なのだ……五十歩百歩ではあるが


だが、そんな事は知らない星羅は、南に聞けば大丈夫と安心しきっていた

これはwin-winならぬ、lose-loseな関係と言うべきなのだろうか


 ───細かい所は南さんに聞くとしても、今度から一緒に歩く時には手を握った方がいいのでしょうか?

いえ、あれは南さんもまだ早いと言っていました……そうです、まだ(・・)早いです、それは大人になるまで我慢して下さい

先ずはもっと美味しいお弁当を作れるようになりたいですね、お母さんに特訓してもらいましょう


 心の荷が降りた星羅は、知らず知らずの内に幸せな未来を思い描いていた

これから精一杯頑張って、恩を返す為に


 ……だけどそんな喜びは、次の空の言葉で消えてしまう


「それはあり得ないよ」


 ───え?何があり得ないのでしょうか?

確か、私を口説き落としたと言っていたような……


「僕と星羅が結ばれる事は、絶対にない」


「え?」


 今度は声に出た

星羅は思わず空の顔を見るが、その顔が冗談を言っている顔ではなく、酷く真剣な顔だった事にショックを受け……そのまま力なく顔を伏せてしまう


 ───絶対にないって、私の事が嫌いって事なんでしょうか?……そ、そうですよね……私は何を思い上がってたんでしょう……ダーリンが私に好意を持ってる事を前提で考えていただなんて

少し考えたら分かる事です、普通は初対面の人間に好意なんか持ちません、私を助けてくれたのも善意だったのですよね

それに私は……今まで散々邪険に扱っていたじゃないですか……嫌われていて当然です……


 初めてあった日に空の手を振り払ったり悪態をついた事、日々の命令を嫌がったりした事が、星羅の脳裏に走る

はっきり言って人として当たり前の行動なのだが、今の星羅には邪険にした行為として思い出していた

自分が空の恋愛対象にならないのは、嫌われているからと思い込み、ならばその原因が自分にあると思ってしまったのだ


 ───初対面の人に無茶なお願いをするような人を、誰が好きになるというのですか


 ネガティブの暴走は止まらない、それは星羅がずっと心に秘めていた重荷であった

いくら母が死にかけているとはいえ、出来もしない願いだと分かりながらも、星羅はポーションを持っている叔父を紹介してくれと頼んだのだ


 ───何が、あなたと向き合うですか……私にそんな偉そうな事を言える資格なんか無いのに


 そんな思いっき落ち込む星羅を見て、智とナジミは安堵の息を吐いた


(演技が出来る人間には見えないし、パターンAで間違いなさそうだな、ナジミ、フォローを頼む)


(了解♪)


 ヒソヒソと内緒話を終えると、ナジミは星羅にニッコリと微笑む

嬉しくてしょうがないって顔だ


「ねぇ星羅ちゃん……私達、本当は星羅ちゃんに会いに来たんだ」


「え?…………私に……ですか?」


 まだ落ち込みから回復していない星羅は、聞き間違えたのかと思い、ナジミの顔を見る

すると、とても嬉しそうな顔で自分を見ていて、困惑した


「うんだって、冒険者バカで女性に一切興味がなかった空が、転校早々に結婚したんだよ……悪い女に騙されたのかと思うでしょ?」


「ナジミ!星羅はそんな子じゃないよ!」


 空が直ぐ様反論するが、当のナジミは笑顔のままである

両手でドードーとでも擬音が付きそうなジェスチャーをして、空をなだめる


「まーまー、空も落ち着いて聞きなさい」


「……」


「私達も、もうそんな事は考えてないから……」


 智もコクりと頷いて同意するが


それを星羅は首を振って否定した


「いえ……私は悪い女です……ダーリンの善意に付け込んで、ポーション欲しさに結婚したのですから」


 そんな懺悔するような言葉に周囲は凍りついた……ナジミだけは、空がダーリンと呼ばれてる事で固まっているが、予想外の言動に、皆数瞬時を止めた


我に返った空が立ち上がり、慌てて口を開く


「なに言ってるんだよ!星羅が悪い女なら、それに命令してる僕はどうなるんだよ!」

「控え目に言って、最低のクズですね」

「南さんはちょっと黙ってて!」


 動揺していた南は、ついツッコミを入れてしまった

「ぶふっ!」

その余りにも余りなツッコミに気を取り戻したナジミも、空に続いてフォローを入れる


「悪い女の子は、そんな事は言わないよ……ねぇ、なんで星羅ちゃんは、そんなに落ち込んでいるの?」


「……それは」

「もしかして……空が、結ばれる事は絶対にないって言ったから?」


「うっ!……」


 核心を突かれて苦し気な表情をする星羅

だが、それを言った当の本人(そら)はハテナ顔である


「え?なんでそれで星羅が落ち込むの?」


 困惑する空に、ナジミは「やっぱりこいつ分かってなかった」と思いながら


「そりゃ落ち込むでしょ、結婚相手にお前は恋愛対象にならないって言われたんだから」


 そのくらい分かれ!と言わんばかりの態度を取る

だが、それを言われても、空はキョトンとしたままだ


「なんでそうなるの?僕は星羅のこと好きだよ…………も、もちろん家族としてね!」


((((このヘタレが!))))


「今の何!北野さんの声も聞こえたんだけど!」


 残当である

こんな短時間であるが、すでに智とナジミは、空が星羅に好意を持ってるのを察していた

幼馴染みの二人にしてみれば、空の態度はモロ分かりだったみたいだ


だけど、それに気付いていない星羅にとっては、初めて空から「好き」と言われたのである……例えそれが家族へ対する親愛の情であっても


 星羅は不安そうに空を見詰める

空がその視線に気付いき、目を会わせると


「本当……ですか?」


 恐る恐る問い掛けて来た

星羅は、何故こんなに自分が落ち込んでいるのか理解出来ていない

今まで空に好かれようとはしていなかったし、嫌われても構わないという態度をとって来た

それが、いざ嫌われて初めて、星羅は嫌われたくないと思ってしまったのだ


 空と出会って過ごした時間、それは恥ずかしくて堪らなかったが、同時に騒がしくて賑やかな時間でもあった

星羅は気付かない内に、その賑やかな時間が、心地好いと感じていたようだ


「……うん本当だよ、僕は聖人君子じゃないんだから、嫌いな人と結婚なんて出来ないよ」


 星羅の泣きそうな顔を見て、空は本心を伝えた

それは星羅と初めてあった日に、空が星羅を見て思った事でもある


「……良かった」


 星羅の顔に安堵の色がさす

同時に、星羅の心に一つの決意が芽生えた


 ───でもこのままでは、いつ嫌われてもおかしくありません

ダーリンの恩に報いる為にも、私は態度を改めるべきです……


 もうこんな想いはしたくない

ただそれだけの理由で、星羅は空への対応を変えようと決心した



 ようやく落ち着いた星羅を見て、智がホッとしながらも、眼鏡を光らせて空を睨む


「まったく、空が誤解を招くような言い方をするからだぞ」


「誤解って……星羅が僕に惚れる訳ないじゃないか(散々恥ずかしい命令をしてるんだから)」


 空にしてみれば至極当然の事だ、たがらいちいち説明しなくても分かる事だと思っていた

だけど、好意は言葉に出されないと分からないのだ


 だからだろう、たった今それに気付かされた星羅は、言わずにはいられなかった


「私はダーリンの事が好きですよ」


「!!!!?」


 そして言ってから、これでは勘違いされると気付き


「も、もちろん家族としてです!」


 慌てて訂正した

思わず固まってしまった空であったが、狼狽えながらも


「……だ、だよねー!!」


 流す事にした

その瞬間、みんなの心がまた一つになる


((((このヘタレが!!))))


「だから何なんだよみんな!言いたい事があるならはっきり言ってよ!」


 空が周りを睨みながら言うが、他の面々からしてみれば、「せっかくデレ始めたんだから、もっと踏み込めよ!」と思えてしょうがない


 代表として、智が呆れた顔で言い放つ


「言っていいのか?」


「生言いました、止めて下さい!」


 綺麗なお辞儀をする空

言われて困るのは自分だろうに、何故この男はツッコミを入れたのだろうか?もう性分としか言いようがない


 空が頭を下げていると、服がチョイチョイと引っ張っられた

見ると星羅が物言いげに見ている


「ダーリン」


「なに?」


「私頑張ります」


「何を?」


 不思議そうな顔をしている空に、星羅は決意を言葉にする

想いは言葉にしないと伝わらないのだから


「もちろんお嫁さんをです」


 それは、今までの態度を改め、空の為に尽くすという宣言であった

 

「う、うん……頑張って」


 もっとも、意味が分からず生返事するこの男には届いていないのだが……


星羅の決意が空回りしないことを、祈らずにはいられない  



 

……後書きのネタが尽きたので、オススメの漫画を紹介します

『ar/ms!!』近未来にARの衣装を身に纏い、必殺技や魔法が使えるサバイバルゲーム!基本コメディなのですが、部活なれではの熱いバトルで面白いです

『クミカのミカク』こちらも近未来、様々な星と交流を持つようになった世界で、食事を必要としないヒロインのクミカに、美味しいご飯を食べさせるお話。めっちゃ癒されます

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