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クラフト×クラフト  作者: カキナ サイ
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第1章②

ブックマークしていただいた方がいらっしゃり、驚いております。自己満足のための小説ですが、見ていただけて嬉しく思っております、ありがとうございます。

第1章 ②


「これは一体、何が起こっているというのだ……!」


 一目で高級とわかる机やソファが揃えられた一室で、報告書に目を通していた男が深刻そうにそう呟く。

 部屋の内装もかなり豪華ではなるが、嫌味にならない上品さを残しており、センスの良さが伺える。棚に保管されているワインのボトルなどを見るに、この部屋の主はそれなりの地位にいる人間のようだ。


 ルーアンの北西部、海から少し離れた場所に、王城を中心として国家運営のための各関係施設が集まっているエリアがある。


 王城との外観をある程度揃えるため、どの建物もお城のような形をしているのだが、その中でも一番背が低くがっしりとした印象のある、お城と言うよりは城塞のように見える建物の中にその部屋はあった。


 最近少し薄くなってきた頭を抱え、報告書に目を落とし続けているこの男は、この国の国防担当大臣であるブライアン・ヴァルターである。


 軍隊を有するこの国における国防大臣ということはつまり、実質的な軍のトップである。


 ヴァルター本人も軍人出身のたたき上げで、過去の戦の戦功で出世を果たした経緯がある男だ。

 年齢は50を超えているが、その身に纏った筋肉はまだまだ衰えた様子はなく、有事の際には今でも自ら武器を取り前線に出てしまうため、副官たちは手を焼いていると言う、血の気の多いお偉い様である。

 もっともその実力は全盛期を超えた今でも国内最強クラスで、国民からは英雄としてかなりの人気があると言う。


 そんな歴戦の勇者をして、ここまで頭を悩ませている案件とは、ここ数週間で多発している魔物の被害だった。


「報告書によれば、狼型の魔獣が群れで出現し、村の家畜に被害が出たとのことですね。先ほど耳にしましたが、平野部だけではなく、近海でも水棲魔獣が確認され漁船に被害が出たそうです」


 ヴァルターのため息に、執務机の上に散乱している報告書を片付けながら、涼やかな声で反応が返ってくる。


 その声の主の名はアンナ・ウーゼ。

こちらは現役の軍士官で、平時はヴァルターの秘書のような役回りをしている。


「今までももちろん、魔獣がいなかったわけではないが、ここまで被害が重なるとは……過去に例がないぞ」


「そもそも被害が出ることすら珍しいですからね。少し知能があるような魔獣であればルーアンの街全体を覆っている退魔結界を見て、あまり近づこうとはしませんから」


「近づいてくるとしたら、そうした知能のない弱い魔獣だけ、と言うのが通説だからな。実際に今まで王都周辺に発生した魔獣は一般の住民が農具を振り回したら退治できるレベルのものばかりだった」


 ヴァルターとアンナは、国内各所から集められた魔獣被害の報告書に目を通しながら情報を整理していく。

 そうするうちに、魔獣の被害状況にある一定の法則性があることがわかってきた。


「ふむ、どうやら魔獣の発生は約1ヶ月前から少しずつ発生頻度と被害状況が拡大している傾向にあるようだな……今はまだ大事には至っていないが、もしこのままのペースで拡大し続ければ、年を超える頃には対応に困ることになりそうだな」


「そのことに加え、原因は全く不明ですが、どうやらルーアンに向けて少しずつ円を狭めていくように被害が発生しています。つまり、ルーアンに向かって魔獣が集まるように移動しているものと思われます」


 情報から導き出された仮説は二人をさらに悩ませるものだった。


「馬鹿な! 天災なども報告されていないのに魔獣がどこかに向けて集団で移動するなど、聞いたことがない!」


「先の報告書の狼型だけではなく、あらゆる種類の魔獣が一様に見られているというのも解せませんね……通常、別種の魔物同士が意思の疎通をするなど考えられませんから」


 イレギュラーにイレギュラーが重なっている今回の件。自分たちだけで考えていても埒があかないと判断したヴァルターは各方面と情報共有しつつことに当たることにした。


「すぐに将校クラスを全員召集! 不本意ながら、規模によっては学院の生徒にも働いてもらうことになるかもしれん、学院長と、連絡がつく学院の戦闘担当教員にも声をかけろ!」


 こういった時の判断が早く、的確なことも、この男が軍のトップとして信頼されている要素の一つだった。


「アイ・サー! 了解であります。 急を要する事態かと思われますので、1時間後までに集まれる者のみ召集いたします。場所は作戦会議室でよろしいですね?」


 指示を受けたアンナは姿勢を改めて、敬礼とともに返答する。


「うむ、頼んだぞ。私は情報の整理を進めておく。手の空いてそうな奴がいたら二、三人来るように伝えてくれ」


 かつて例のない事態に困惑しながらも、二人は自分のやるべきことを把握し、すぐに行動に移すのだった。

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