序章④
「それにしても、本当に大きいお城だったねぇ」
「そうね、外から見てわかってたけど、中もすっごく綺麗な作りをしていたわよね。こんな豪華なところで5年間も過ごしてたら、村の生活に戻れなくなっちゃうかも」
そんな話をしながら、2人は先程場所を説明された寮の方に歩みを進めた。
受付を行った本校舎(?)のような城を出て、地図を頼りに寮へと向かう。
どうやら寮は先程通った大通り沿いにあるようだ。
寮の前に着きあたりを確認すると、生活する学生への配慮からか、どうやら学院の敷地内にある生活・商業エリアの中心に位置しているようだ。
生活用品店や食事処、本屋、魔法関連、武器関連の店など、およそ普通に学院生活を送るためにお世話になるであろう店の数々が軒を連ねている。
男子寮と女子寮は隣り合っていて、当然のことながらかなり大きい。
超巨大な貴族の大豪邸を大人数でハウスシェアするような感じ、とは先程の受付職員の言葉である。
「当然、寮は男女別よね。クライネ、ちゃんと1人で挨拶するのよ。こういうのは最初が肝心なんだから!」
「うん……なんとか頑張るよ」
手続きを終えたら荷物を置いて、30分後に寮の前に集合と約束をし、それぞれの寮へと挨拶に向かった。
「あのー……ごめんなさい、どなたかいますかぁ?」
「ああ!今日から入寮の小坊主だね!ついさっき学院から連絡があったよ!すぐいくからちょっとそこでまってておくれ!」
ビクビクしながら呼びかけるクライネの声に、対照的に通りの良い大声が帰ってくる。
やがて表れたのは大の男よりもはるかに体格の良い女性だった。綺麗に刺繍をあしらったエプロンが凄まじく似合っていない。
寮の管理人じゃなくて兵士をやったほうがいいのでは?と思わずにはいられないクライネだった。
もちろんそんな大人の女性を相手に初対面のクライネが上手く対応できるわけもなく、あろうことか緊張と恐怖から気を失ってしまうのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……い!……きなさい!クライネってば!起きて!」
クライネが目を覚ますと、目の前には怒りと呆れが混ざったような顔をした幼馴染の顔があった。
「あんたって子は、ホンットにバカなんだから!さっさと起きて、ティタさんに謝りなさい!そんであたしに感謝しなさい!」
寝ぼけ頭のクライネをポカポカ殴りつつまくし立てる幼馴染。
「あれ?僕どうして……?街に来て、学院に行って、それで……」
そこまで来て、クライネはやっと自分が寮に挨拶に来たこと、そして、恐らくは寮監の女性に驚いて倒れてしまったことを思い出した。
思い返すと、初対面の方に対してあまりにも失礼なファーストコンタクトだったと思う。部屋の入り口でなんとも言えない顔をしている寮監が目にとまる。
「あの、ぼく、その……ごめんなさい……あんまり人と話すの得意じゃなくって、ビックリして……」
「初めて会う人にはよく驚かれるから気にしちゃいないさ、流石に気絶までされたのは初めてだけどね!あっはっはっは!」
隣にアイネがいることと、罪悪感のおかげか、今回はどもりながらも会話が成立する。
「やっと自己紹介ができるね。私の名前はティタ。見ての通り学院の男子寮の寮監を任されているよ」
「はじめまして……ぼくはクライネっていいます」
「大体のことはアイネちゃんから聞いたよ。こっちこそよろしく頼むよ、クライネ」
「遅いから男子寮に来てみれば、緊張で倒れてるなんてあっきれた!アンタが寝てる間に、あたしが入寮手続きをしておいてあげたわ。ちなみに、アンタを部屋まで運んで来てくれたのはティタさんよ」
どうやらクライネはかなりの時間、少なくとも30分以上は気を失っていたらしい。
恥ずかしいやら申し訳ないやらで普段から小さいクライネの体がさらに小ささを増していた。
「ティタさん、本当にごめんなさい……改めて、今日からよろしくお願いします」
「あんまり気にしなさんな!さて、やっと入寮の説明に入れるね、まずは朝飯の時間だけど……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「と、まあざっとこんなもんかね」
見た目に違わず、かなり大雑把な説明を終えたティタが一息つく。
一瞬の逡巡の後、少し言いにくそうに口を開く。
「……あぁ、そうだ。後でアレコレしてもお互い気まずいだろうから先に言っておくとね、私の体がでかいのは巨人族の血が入っているからさ。詳しいことはわからないけど、母方の曽祖父の代の誰かが巨人族だったって話だ。1/8しか混ざってないからね、図体がでかい以外は普通の人間と同じさ」
「はぁ〜、そうなんですか!ってことは、ティタさんのお母さんはもっと大きいのかしら?ぜひ会ってみたいわ!」
巨人と聞いて、アイネが好奇心をくすぐられたようで感嘆の声を上げる。
「巨人の人たちの中には、特別な魔法がかけられた造形品を作ることができる人がいるって、おじいちゃんが言ってました!ぼくも話を聞いてみたいなぁ!」
クライネも、過去に祖父から聞いた巨人族の特殊な技術の話を思い出し、一転、興味津々の体でティタに詰め寄る。
そんな2人の反応に逆に面食らったのはティタだった。
「アンタたち、巨人と聞いて怖がったり敬遠したりしないのかい?そんな反応をされたのは初めてさね」
「「そうなんですか?」」
「あぁ、この世界では基本的に恐怖の対象だ。アンタの爺さんが言ってたように、ごく一部の連中は造形師として、それなりに人と関わっているがね」
「あの……おじいちゃんが巨人族のマスタースミスが作った装具は素晴らしいって、いつも、言ってました。それで……いい道具を作る人に悪い人はいない……とも、言ってました」
「それに、ティタさんはすっごくいい人よ!まだ少ししか話してないけど、とても暖かい感じがするわ。まるでお母さんみたい」
「……」
「「ティタさん?」」
「あっはっはっはっは!こりゃ参ったね!ちょっと覚悟してた自分がバカらしくなるよ!」
堪え切れなくなったかのように、豪快に笑うティタ。
その目には薄っすらと涙が見える。
(泣くほど面白かったかなぁ?)
(泣くほど面白かったのかしら?)
「最初からそんなに私のことを受け入れてくれる子は初めてでね、嬉しいやらおかしいやら……ま、とにかく寮のことは私になんでも任せな!アンタたち、気に入ったよ!アイネちゃんも、御飯時は男子寮で食べてってもいいからね、いつでも来な!」
どうやら2人の態度は彼女にとって好ましいものであったらしい。
2人にとっても、魔法工具屋のイーゼルお婆さんに続いて、安心して話せる大人が増えたことは非常に嬉しいことであった。